企画

本紙報道で1年間を振り返る ニュースダイジェスト 2024年3月―2025年2月

2025.03.16

目次

立て看板問題
理・工 女性募集枠
組織改革
運営方針会議
懲戒処分
施設の変化
11月祭
学費値上げ


立て看板問題


主張出そろい結審へ


2018年に京大がキャンパス周辺の立て看板を撤去したことを巡り、大学の職員組合が京大と京都市を提訴した裁判で、24年度は証人尋問が行われ、原告、被告双方の主張が出そろった。

17年10月、屋外広告物条例に基づく京都市の行政指導を受け、京大は18年5月に立看板規程を施行し、組合が設置したものを含む立て看板を撤去した。組合は撤去を事前に告知しなかったとして抗議したが、大学から「誠実な」説明がなかったとして、表現の自由の侵害などを訴え、21年4月に市と大学を提訴した。

24年10月の証人尋問では、組合の運営に携わった3人と、看板撤去に関わった京大職員(当時)2人が証言した。22日は組合の証人3人が登壇し、大学が看板の代替設置場所を提案したのは撤去後だ、と証言した。また、立て看板が18年以前に撤去されたことはないとし、京大が組合の看板設置を認めてきた、との認識を示した。

25日には京大側の証人2人が登壇し、市の指導は組合の看板だけを対象としたものではないこと、組合には看板の撤去前に、部局長の許可で指定場所以外に看板を設置できる旨を伝えたことを明かした。一方、大学として設置する屋外広告物については、指導を受けての是正を「していない」と認めたほか、毎年北西門付近に設置される11月祭の看板のように、「公道からすぐ」にない「内向き」の看板であれば規制の対象にならない、との見解を示した。

【関連記事】
立て看訴訟 5名尋問 7時間の応酬、2月に結審へ(2024年11月1日)

目次へ戻る

理・工 女性募集枠


26年度特色入試から実施


24年3月、京大は理学部と工学部の特色入試で女性限定の募集枠を設置すると発表した。26年度入学者選抜から、理学部に15名、工学部に24名分の募集枠を新設する。多様性を確保し、研究の質の向上を目指す。

京大の女子学生比率22%に対し、理・工学部は8%、10%と他学部より低い水準にある(23年時点)。京大は、実社会とかけ離れた性別比が「教育環境として望ましくない」と判断し、検討を開始したという。

特色入試における従来の一般枠と女性募集枠を合計した定員のうち、女性募集枠の定員は両学部ともに約4割を占める。一般枠との併願は、理学部・工学部電気電子工学科で認めず、工学部のその他学科では認める。理学部では総合型選抜、工学部では学校推薦型選抜となる。建築学科に女性募集枠は設置されない。

京大は、他学部への女性募集枠設置や一般入試のクオーター制導入は検討していないとした。他大学でも、主に理工系の学部で女子枠設置の動きが広まっている。背景には文科省の通知がある。

【関連記事】
理・工 特色入試に女子枠 多様性確保し研究の質向上へ(2024年4月16日)
女子枠 理工系で設置の動き広まる 政府の方針を受け全国で(同上)
【特集】「女子枠」制度を考える 研究者から見た意義と課題(同年6月1日)
【特集】「女子枠」制度を考える 第2回 大学・文科省に訊く施策の意図(同年8月1日)
13年前に頓挫、現在は「適宜検討」 九大 「女子枠」制度に見解(同年9月16日)

目次へ戻る

組織改革


成長戦略本部など新設


24年度では、大学の将来を見据えた部局・機関の新設が目立った。役員会の人事では女性比率が横ばいとなった。

4月、成長戦略本部が新設された。産官学連携本部や渉外部基金室などを統合した組織で、国際卓越研究大学への採択を見据え、財政基盤を確立させて大学を持続的に成長させることを目的とする。これに伴い事務本部では、産官学連携課が渉外部に組み込まれ、渉外部は「渉外・産官学連携部」へと改称された。25年1月には若手研究員の支援を目指す総合研究推進本部が新設された。湊総長は会見で、成長戦略本部との連携による自律的な大学経営に期待を示した。

同じく1月、「運営方針会議」の委員が総長によって任命された。同会議は大学の予算や中期計画を決める新機関で、改正国立大学法人法によって京大などに設置が義務付けられている。京大職員組合は政財界の影響を危惧し、当初の人選案に対して見直しを求めていたが、当初案通りの委員が任命された。【次記事参照】

24年度の理事任命では小幡泰弘氏と北川進氏が新たに理事に就任した。総長と理事で構成される役員会の女性比率は約27%で横ばいとなった。

【関連記事】
京大 新理事任命 北川進特別教授ら(2024年4月16日)
成長戦略本部を新設 卓越大への採択見据える(同上)
京大 事務組織を改編 コンプラ部など新設(同年5月16日)
京大7理事再任 女性比率横ばい(同年10月1日)
運営方針委員 当初案で任命 職組懸念も、京大「適切に選考」(2025年1月16日)
総合研究推進本部を設置 組織統合で支援体制を強化(同年2月16日)

目次へ戻る

運営方針会議


学外過半数予算など決定


2024年10月、京大など規模が特に大きい国立大学法人に、合議体機関「運営方針会議」の設置を義務付ける法改正が施行された。文科省は改正の目的としてガバナンスの強化を挙げる。大学の予算や中期計画といった重要事項は、従来は学長が役員会の議を経て決めていたが、今後は運営方針会議が決定することになった。これを受け、京大の湊総長は25年1月、同会議の委員に学外からNTT会長やMUFG元会長など6名、学内から理事4名を任命した。任期は2年間。京大職員組合は、学外委員に財界出身者が多いことや、学内委員に労働者や学生の代表がいないことを問題視し、人選見直しを求める声明を24年10月に発表していたが、原案通り任命された。

委員の構成は基本的に各大学に任されている。しかし、国際卓越研究大学の認定を得るには、学内構成員のみ・執行部に関係する構成員のみで議決が成立しない仕組みが求められる。そこで、東大は学外者と学内者を同数とし、京大は学外者を過半数にした。この点に鑑み、京大職組は卓越大制度への申請取りやめも求めている。一方、湊総長は25年の年頭挨拶で、自立した財政基盤獲得のため、卓越大の認定は必須との見解を表明した。

【関連記事】
国際卓越研究大 重要議決に学外者の賛成必須に 文科省方針 「監督機能の強化」へ(2024年4月1日)
【独自】京大 運営方針委員の候補者判明 NTT会長ら 学外過半数(同年10月16日)
職組 運営方針会議めぐり声明発表 政財界の影響危惧(同年11月1日)
運営方針委員 当初案で任命 職組懸念も、京大「適切に選考」(2025年1月16日)

目次へ戻る

懲戒処分


ハラスメントや診断書の改ざんで


24年度には、ハラスメント行為や診断書の改ざんで教員や職員が懲戒処分を受けた。

8月、京大は病気休暇を長く取得する目的で医師の診断書を改ざんしたとして、50代の職員に停職10日の処分を下した。

11月には、学生へセクシュアルハラスメントを行ったとして、理学研・助教が諭旨解雇となった。少なくとも22年10月から約1年間、好意を示す発言や手を握ったり肩を抱いたりする行為があったことを確認したため。また、12月には同僚へ卑猥な発言をしたとして事務職員に減給処分が下った。

12月、監督下にある教員および学生へのハラスメント行為を確認したとして複合原子力科学研・教授が停職1ヶ月となった。京大が、教員へ約1年間にわたり長時間勤務を強いる仕事を指示したことをパワーハラスメント行為に、学生へ実験に関する多量の作業を課したことをアカデミックハラスメント行為に認定したため。

【関連記事】
京大職員に停職10日 医師の診断書を改ざん(2024年9月16日)
京大 理学研助教を諭旨解雇 学生へのセクハラを認定(同年12月16日)
複合研教授に停職1ヶ月 教員・学生に長時間作業を強いる(2025年1月16日)
事務職員に減給処分 同僚への卑猥な発言で(同上)

目次へ戻る

施設の変化


がんの研究施設などが新設


24年度、京大では様々な施設が新設された。

24年3月に医学部構内で、国内初のがん免疫療法の研究施設「ブリストル・マイヤーズスクイブ棟」が竣工した。施設は京大がん免疫総合研究センターに属し、地上5階、地下1階建。300名を収容できる実験室や、ニトリホールディングスの寄附を受けて「ニトリホール」と命名された多目的ホールも備える。

国際科学イノベーション棟では、5月にコンビニエンスストア「ファミリーマート」、7月に「SMBC京大スタジオ」が開設された。同スタジオは、京大が三井住友フィナンシャルグループ、日本総合研究所と共に設置したもので、京大の教員と日本総研の研究員らが、環境問題や貧困といった社会課題の解決に向けた研究を行う。

他にも、24年3月にはクスノキ周囲に木の保護を目的とした「囲い」が設置され、4月には吉田国際交流会館に学内2カ所目となる礼拝堂が新設された。また10月には、文系学部校舎に、京大生やその同伴者が利用可能な交流スペース「ぶんこも」が完成し、桂キャンパスBクラスターでは、レストラン兼障がい者就労支援施設である「Lunch & Café “Crews”」が開業した。

【関連記事】
クスノキに「囲い」新設 樹木の保護が目的(2024年4月16日)
本部構内に「ファミマ」オープン ATMやコピー機を設置(同年5月16日)
京大 吉田国際交流会館に礼拝室 宗教・宗派を問わず利用可能(同年6月1日)
三井住友FG・日本総研と連携 京大 研究の事業化へ拠点開設 (同年6月16日)
尊厳保つ意思決定、貧困無くす教育 SMBC京大スタジオ 研究紹介(同上)
ニトリ がん研究センターに寄附 京大 新施設に社名つけ感謝(同上)
文学研 交流スペース「ぶんこも」開設 自習や課外活動で使用可能(同年11月1日)
桂にレストラン「Crews」開業 社会福祉法人が運営(同上)
がん免疫研究の新施設で開所式 研究機能を1棟に集約(同年11月16日)

目次へ戻る

11月祭


6年ぶり酒類解禁 ミスコン中止も


24年11月20日から23日にかけて、第66回11月祭が開催された。6年ぶりに酒類提供と飲酒が制限付きで解禁され、約10万人が来場した。11月祭に関する全学的な議論を行う全学実行委員会(全学実)ではミスコン企画の中止決議が採択されたほか、学生ポータルサイトが不正アクセスを受けた。

飲酒トラブルや泥酔者の救急搬送を受け、19年度以降、酒類の持ち込みや提供が全面的に禁止されてきた。11月祭事務局は5月の全学実で酒類提供の場所、時間、購入資格、量などに制限を設ける部分規制案を提案した。5月末に事務局が大学と交渉した結果、大学は「十分な対策である」と判断し、酒類提供と会場内での飲酒を認めたという。

10月の全学実では、京大ミス・ミスターコン事務局が提案した「京大ミス・ミスターコンテスト」企画の是非を議論した。6時間にわたる議論の末、会議の注意事項の遵守をめぐってミスコン事務局が途中退席し、残りの参加者が全会一致で企画の中止を承認した。

10月23日、11月祭事務局は、企画出展などの手続きに用いる学生ポータル・PENGUINが不正アクセスを受け、個人情報を含む登録データが削除されていたと発表した。事務局は、当該データが外部に流出した可能性は「完全には否定できない」とした。

11月祭の様子(24年12月1日号)



【関連記事】
企画の企業協賛 条件付き解禁 11月祭 第1~3回全学実(2024年6月16日)
11月祭 禁酒緩和へ規制細則を可決 アルコールパスで購入に制限(同年9月16日)
11月祭 6年ぶり酒類解禁 未成年飲酒と泥酔防ぐ制限も(同年10月1日)
全学実 ミスコン企画の中止を採択 学生有志の要望うけ(同年10月16日)
11月祭 学生ポータルに不正アクセス 事務局、個人情報の流出「否定できない」(同年11月16日)
11月祭 酒類提供が再開 事務局「安全性担保できた」(同年12月1日)

目次へ戻る

学費値上げ


東大は値上げも、京大は慎重


東大は24年9月、学部課程と修士課程の授業料を約10万円値上げし、約64万円とすることを発表した。大学の判断で標準額である約53万円の2割まで増額可能とする文部科学省令を適用した形。なお、博士課程の授業料は研究者養成の観点から据え置く。また学生支援策の拡充として、授業料免除対象の世帯年収基準を400万円以下から600万円以下に引き上げることも決定した。しかし、学生自治会は支援策が具体的な制度を欠くと指摘したほか、「総意が無視された」と反発し、抗議している。一方、京大は授業料の値上げについて「議論していない」との立場を一貫して維持している。

また24年4月には、国立大学の外国人留学生の授業料が自由化された。従来は日本人学生と同額に設定されていたが、各大学の判断で値上げが可能となった。語学教育や支援の充実といった受け入れ環境の改善を図る対価として位置づけられ、背景には大学の国際化を目指す政府の方針がある。京大は本紙の取材に、24年3月時点で留学生の授業料値上げを「検討していない」としている。

国立大学の財務状況をめぐっては、6月に国立大学協会が声明を発表した。運営費交付金の減額や物価上昇などにより経費が圧迫されていると指摘し、「もう、限界です」と訴えた。

【関連記事】
国立大 留学生授業料 値上げ可に 受入環境整備が条件 京大は「検討せず」(2024年4月1日)
授業料値上げ 京大「議論せず」 東大は「多面的に検討中」(同年6月1日)
国立大学協会 財務危機訴え声明発表 「もう、限界です」(同年6月16日)
授業料 京大 依然「議論していない」 東大は値上げ決定(同年10月1日)

目次へ戻る

関連記事