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【特集】「女子枠」制度を考える 研究者から見た意義と課題

2024.06.01

3月、京大は2026年度入学者選抜より理系学部の特色入試に女性に限定した募集枠を設置することを発表した。理学部では総合型選抜で15名分、工学部では学校推薦型選抜で24名分の「女子枠」が置かれる。京大は、設置の目的に「構成員の多様性の確保」をあげた。

「女子枠」設置に至った背景にはどんな状況があるのか。また入試制度としての問題点はあるのだろうか。3名の研究者への取材を通して、その意義と課題に迫る。(編集部)

目次

教育社会学 ジェンダー規範解消へ 小林元気 准教授(鹿児島大)
憲法学 大学は十分な説明を 曽我部真裕 教授(京大)

教育社会学 ジェンダー規範解消へ 小林元気 准教授(鹿児島大)


女子枠を実施するほとんどの国立大学が、学校推薦型選抜と総合型選抜に募集枠を設置しているのはなぜだろうか。また、現状を踏まえて女子枠の必要性はどう説明できるのか。教育社会学が専門で、国立大学における推薦・AО入試に関する研究がある、小林元気・鹿児島大学中等・高等教育接続センター准教授に訊いた。(聞き手=史・涼)

志願者も合格者も少ない


―理工系学部の顕著な特徴は。

「令和5年度学校基本調査」では、日本の大学学部の学科別入学者に占める女子学生の割合は理学部で29・3%、工学部では17・3%です。大学学部全体では46・2%であることから、理工系学部は顕著に女子学生の割合が低いことが分かります。諸外国と比較しても、かなり低いです。理工系学部はそもそも女子の志願者が少なく、その結果、女子の合格者も少ないという状況があります。

難関大学への志願に壁


―難関大学受験者の特徴は。

全国大学生協連が実施している調査のデータを分析した結果、ここ20年間で経済的に豊かな層が国立大学に入学しやすくなっている傾向があり、特に難関大学で顕著であることが分かりました。また、国立大学に限らず難関大学において東京圏の出身者の割合が高まっており、以前より地域的な多様性が失われているとの指摘もあります。

性別という点では、国立の難関大学では女子学生の割合が少なく、女子生徒は男子生徒と比べて志願しづらい状況があると推測されます。

―なぜ女子生徒の方が難関大学に志願しづらいのか。

難関高校から難関大学へ進学する女子生徒は男子生徒よりも少なく、女子生徒の浪人選択率の低さがその一因であることを明らかにした研究があります。難関大学に挑戦できる学力があっても自宅から通える大学への進学や現役合格を保護者から求められる女子生徒が一定数存在しており、女子生徒の大学進学において、地域間格差と性別の二重の足かせが存在すると指摘する研究者もいます。また、前述した私の国立大学の分析から、推薦・AО入学者に女性が占める割合が過去20年間で上昇していることが分かっています。浪人を許容されづらいことも影響し、早期にかつ確実に国立大への進学を決めたいという意欲が関係している可能性があります。

社会的な抵抗意識を踏まえて


―多くの国立大学は、女子枠を学校推薦型選抜や総合型選抜に設置している。

まず、近年の大学入試のあり方に関する政策的議論において、一般選抜と学校推薦型選抜・総合型選抜の役割を明確化したうえで、入学者の多様性を確保する観点から後者を推進する動向があります。そして、文科省は22年6月に「令和5年度大学入学者選抜実施要項」の中で「多様な背景を持った者を対象とする選抜」を促し、その具体例として「理工系分野における女子等」と明記しました。このような政策的誘導が、学校推薦型・総合型選抜での女子枠設置を後押ししているものと考えられます。

また、過去に一般選抜後期日程への女子枠導入が頓挫した九州大学の事例(※)が、他大学にとって無視できない基準になっているのではないかと予想します。当時、特定の属性に限定した枠を一般選抜に設置することに対して社会的な抵抗意識が強かったことを踏まえると、一般選抜では導入しづらいのではないでしょうか。

※編集部注
2012年から一般選抜後期日程・理学部数学科の定員9名のうち5名分を女子枠とすることを発表したが、反対意見が相次ぎ11年に中止が決まった。

―今回の措置に政策的な影響はあるか。

「ウーマノミクス」という言葉が表すように、政府は女性の人権尊重という側面だけではなく経済再生の手段として、これまで女性が少なかった領域で女性の比率を上昇させることを目指してきました。女性の理工系人材を増やすという目標もそのうちの1つです。つまり、大学入試における女子枠の増加は、従来の政策方針に沿ったものだといえます。

公平さを決めるもの


―特性の属性に限定して募集をする入試制度は、どのようなものがあるか。

例えば、出願資格を大学が立地する都道府県の高校出身者に限定したり、卒業後に勤務する地域を指定したりする「地域枠」があり、読売新聞の調査によれば2023年時点で国立大の6割が導入しています。それらの多くは医療従事者や学校教員といった地域社会で切実に求められている専門職を育成する目的で設置され、地域アイデンティティを持つ人が資格取得後も地域に定着することを狙っています。

他には、国内大学のグローバル化を促進したいという意図から、帰国子女や国際バカロレア課程(※)で学んだ生徒のみを対象にした入試もあります。

※編集部注
国際バカロレア機構による教育プログラム。政府が学校教育のグローバル化を目指して設置を促進している。

―特定の属性ではない学生に不利に働く可能性が指摘されている。入試制度として問題は。

入試が「公平」かどうかを単一の基準で評価することは難しいです。例えば、日本では共通テストや個別学力試験の得点に基づいて合否を決める一般選抜を「公平」だとみなす風潮がありますが、そこに現れる学力は出身家庭の社会経済的条件の影響を受けることを、多くの教育社会学者が統計分析により明らかにしています。生まれが受験学力に大きく影響するという意味において、受験学力で合否が決まる一般選抜も完全に公平であるとは言えません。

現時点で女性が不利益を被るような社会構造が存在しているという認識の有無や程度によっても、女子枠の問題の捉え方が変わります。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が女性をさまざまな領域から遠ざけていることを認識していないと、「女性の進路は誰かが強制したわけではなく自分で選んだものなのに、なぜ優遇するのか」と反感を持ってしまう。また、一般選抜を勝ち抜いた女子学生にとっては、女子だからという理由で「下駄」を履かせる制度のように感じられることもあるでしょう。

―女性はどのような点で不利益を被っていると言えるのか。

「理工系の学問や理数系の勉強は男性の方が向いている」というような偏見に接することで、実際に女子の学業成績が下がってしまう「ステレオタイプ脅威」の存在が、多くの研究によって指摘されています。

また、ある調査では約2割の小・中学校教師がそのような偏見を持っていることが報告されており、学校生活の中で生徒が文理選択をジェンダー規範として無意識に学び取ってしまうことも危惧されます。

このような背景を通じて形成された理工系学部のいびつな男女比が理工系人材の職業労働環境に持ち込まれることで、理工系学部に連なる学びやその先にあるキャリアに対して男性イメージが定着します。中高生が進路を考える時、女性が参入しにくい状況から理工系のキャリアを意識しづらくなり、結局男女比は変わらないという固定的な構造があるのです。

不利益をめぐる世代間の問題


―女子枠の意義は。

個人的な見解ですが、京大の湊長博総長が記者会見で言及したように、「アファーマティブ・アクション」としての意義が大きいと考えます。多くの大学に導入されたことで、全体として理工系の学部に入学する女子学生の数は増加し、将来的に理工系学生の進む職業労働環境の女性の割合を押し上げるでしょう。ロールモデルとなる女性が増えていくことで、次の世代では、理工系キャリアやそれに連なる理数系の学びに関するジェンダー規範が解消されていくことが期待されます。これまで見過ごされていた能力を開花させる可能性が広がっていくという点で社会的な利益にも繋がるので、長いスパンで見ると意義のあるものだと言えます。

―問題を指摘するとすれば。

いびつな男女比がもたらす社会問題を形成してきたのは先行世代です。しかし、その解決に向けた女子枠というアファーマティブ・アクションにより不利益を被るのは、従来の入試であれば合格していたかもしれない若い男性です。ここに不利益をめぐる世代間の問題があり、不利益の当事者が「逆差別だ」と不満を持つことは避けられないでしょう。このような反発は、アファーマティブ・アクションの起源国である米国でも生じてきたものです。

また女子枠により入学した学生が、スティグマと呼ばれる否定的なラベリングを受けることを防ぐための配慮も必要です。大学に女子枠を設置する目的や必要性が社会に十分に理解されていないと、女子枠の入学者は属性を利用して楽に合格できたと非難を受けることになりかねません。

京大のように入試難易度の高い大学が女子枠を導入することは社会的な影響が大きい反面、反発も大きい。

今後、実際の入試結果や入学者に占める女子の割合の変化、また女子枠導入の動きがどのように他大学に波及するかなど、さまざまな点で注目を集めることになると思います。〈了〉

小林元気准教授(鹿児島大)
写真は本人提供


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憲法学 大学は十分な説明を 曽我部真裕 教授(京大)


特定の性別を出願の要件とするため、平等性が担保されないと懸念する声もある。日本国憲法で保障されている「法の下の平等」を踏まえて、女子枠制度をどのように説明できるのだろうか。憲法学が専門の曽我部真裕・京大法学研究科教授に話を訊いた。(聞き手=史・扇・青)

強い合理性が必要


―特定の属性を持つ者に限定した受験枠の設置について法学的な視点からどのように説明できるか。

平等原則と緊張関係のある措置だという理解が一般的です。憲法14条(※)は、人種、信条、性別、門地を挙げていて、これらに基づく区別は、不合理である可能性が高く特に警戒すべきだと考えられているので、強い合理性が求められます。

目的と手段の関係でどれだけの強い理由があるかを精査しないといけません。憲法学では、両者の不整合が生じた時に、厳格な審査によって実際の目的が他にあることをあぶり出せるという議論があります。今回、多様性の確保が目的として掲げられていますが、多様性の指標は性別だけではありません。出身地など他の属性がある中、とりわけ性別を取り上げた理由を考える必要があります。

また、現在設置が決まった「女子枠」の募集人数で多様性が達成できるのかについても検討すべきです。さらに、そもそもなぜ多様性を必要とするのかという説明も求められています。強い理由が必要とされる措置ですが、京大に限らず全国的に大学による説明が不十分だと言えます。

※編集部注
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的、社会的関係において、差別されない。

アメリカで違憲判決


―同様の例として、アファーマティブ・アクションがある。

アメリカのアファーマティブ・アクションは、人種で区別しますが、基本的には性別で区別する場合と同じ理論で説明できます。

日本では、伝統的に存在した女性差別的な措置が憲法違反だと判断され、徐々に制度上の平等ができました。背景には、性別に基づく区別は基本的には不合理であり、正当化のためには強い理由が必要だという考えがあります。アファーマティブ・アクションに関しては、属性で区別するという意味では従来通り厳格な審査が必要だとも考えられていますが、女性差別的な措置とは方向が違うので、もう少し緩やかに審査してもいいという意見もあります。

アファーマティブ・アクションを正当化する理由についても議論があり、アメリカの連邦最高裁では「多様性」が採用されました。最高裁は近年まで、一定の方式であれば合憲だとしていましたが、昨年の判決で覆り、憲法違反だとされました。長年実施してきた割に効果があまり明確に現れておらず、白人以外のマイノリティ集団の間で不平等が生まれたことが背景にあります。アフリカ系に対するアファーマティブ・アクションによって、アジア系が減るのであれば、多様性確保の目的を果たしたとは言えないですから。

―今回の女子枠も、一定年数が経った後見直しが必要になる。

導入時に、将来的に状況を踏まえて見直すことに言及しても良かったと思います。将来的にどういうシナリオを描いているのか。女性比率が変化しない可能性がある一方で、これを契機に関心が高まり、枠と関係なく志願者が増えることも考えられます。自然と女性比率が一定割合以上になるなら、もう枠は必要ありません。

―アメリカでは、人種を加点要素の1つとするのは認められるが、別枠の設置は認められないとした判例もある。平等原則との関係から見て、加点と別枠で望ましいのはどちらなのか。

アメリカで一般的に採用されている入試方法では、教科試験の単純な合計点だけでなく、課外活動などの要素も含めて合否が決まります。アメリカの入試制度と人種による加点は相性がいいですが、別枠の設置は「異物」だと捉えられます。教科の筆記試験だけで合否を決めるという日本の伝統的な方式とは異なるので、アメリカの議論を一概に日本に当てはめることはできません。

入試の選抜方法を決めることは、本当に難しいです。現在でも女子大には女性しか入学を認めていません。選抜方法についての裁量が大学にあると考えると、ある程度までは特定の属性を優遇する措置も存在しうると言えます。

今の理工系学部のいびつな男女比を解消するために、実質的に男子学生の門戸が大きく狭まったとは言えない程度の枠を設けることは、大学に与えられた裁量の範囲内だとも捉えられます。

根本的には、社会的なバイアスに原因があるので、実は個々の大学ができることはあまりありません。例えば高校生向けの講座を開催することはできますが、即効性はないです。いまのようなささやかな「女子枠」を設けることも個々の大学にできることの1つではありますが、そこで数名の女性が入学すること自体には大きなインパクトはなく、それを呼び水にして全体の意識変革につなげていくことが求められます。そのために大学は、内外に向けた説明・情報発信や、その他の取組を戦略的に展開していく必要があります。

自分の希望が叶う社会へ


―女子学生を優遇する意味で逆差別だという意見もある。

優遇と言えるかもしれませんが、制度として一定許容できる場合には、差別ではなく正当な区別であると説明できます。

「女子枠」を利用した学生の能力が見くびられるという指摘もあります。明らかに難易度の差が見えるような制度は不合理だと言えるので、弊害が生じないような制度設計や、在学生に向けた説明などが必要です。

―女子枠に出願できない男子学生が不利益を被ると主張する人も。

局所的に見るとそのように見えるかもしれないですが、男性は見えないところで下駄を履かされているとフェミニストは指摘しています。同じことでも、マジョリティは難なくできるけど、マイノリティはいちいち周囲への説明や説得がいると。マイノリティを優遇するとマジョリティは逆差別と言いがちですが、マジョリティは普段下駄を履いている部分があることを認識していない場合が多い。適切に知識を伝えることで認識を変える必要がある。大学がマジョリティに対して説明することも必要です。

―本来目指すべきところは。

性別を問わず自分で選んだ進路や学問分野の選択が周囲から尊重されるようになれば、結果として個々の学部の男女比率に一定程度の偏りがあっても問題とは言えません。でも今は現実的にそれができていない。

大学が政府の方針に従わざるを得ない側面もあります。やらされ仕事になり、政府が資金を拠出するファンドから助成金を得る、国際研究卓越大学採択のためなど、他に目的があるのではないかと捉えられる可能性も出てきます。大学が様々な制約の中、枠を作らざるを得ない状況にあっても、それを現状を変える手段にする「したたかさ」が求められていると思います。〈了〉

曽我部真裕教授(京大)
写真は本人提供


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