企画

「選ばれる京大」をめざして 特集・女子高生応援大使

2026.02.16

近年大学は選択する側ではなく、選択される側になりつつある――。京大は「男女共同参画推進アクションプラン」の中でこのように明記し、女子学生・女性研究者の増加を目指して全学のジェンダー平等を推進する取り組みを行っている。女子学生は全体の2割ほど、女性研究者に至っては2割にも満たないのが現状だ。

筆者自身、高校時代に京大を選択した「地方女子」の1人として、京大を目指すことの物理的・心理的なハードルの高さを感じていた。そのハードルを、ロールモデルを示すことで少しでも低くしようというのが、女子高生に向けた男女共同参画推進事業「女子高生応援大使」である。

この冬、筆者も京大から依頼を受け応援大使として母校で講演を行った。本企画では担当部署や高校生へのインタビューを通じて、複数の視点から事業の意義や課題を見つめてみる。(悠)

目次

女子高生にロールモデルを男女共同参画推進センター・人事部ダイバーシティ推進室に聞く
生の声で高校生の背中を押したい
効果は実感するも 可視化は難しい
大学としてできることを模索
遠い地方からも京大へ来てほしい
「選ぶ側」の現在地は? 距離的な壁/県外で視野を広げたい
教員へのインタビュー
「応援大使」講演を終えて
女子高生へのインタビュー

女子高生にロールモデルを男女共同参画推進センター・人事部ダイバーシティ推進室に聞く


「女子高生応援大使」事業は、京大の女子学生が母校を訪問し、座談会や講演会を通じて京大の魅力や学生生活、受験のアドバイスについて伝える取り組み。男女共同参画推進センターが高校と大学生とのマッチングを担い、京大人事部職員育成課ダイバーシティ推進室は事業の統括と企画を担っている。

センター職員の小西博之さんと池田結さん・推進室の中植由里子室長と山下武史室長補佐に事業の目的や課題、今後の展望についてお話を伺った。(センターと時計台記念館にてそれぞれ別日に取材。聞き手=悠・晴・史)

生の声で高校生の背中を押したい


――活動の目的は。

小西 男女共同参画推進事業の一環で、女子高生の皆さんに京大の良さを伝え、もっと多くの人に受験してもらうことを目的に2018年度から行っています。実際に通っている女子学生の生の声を伝えることに重点をおいています。「これから受験勉強を頑張りたい」という実力ある高校生に対して、事業を通じて京大生と交流することで京大を目指す後押しができればと考えています。

――活動開始当初からの理念は。

中植 京大の学生が母校を訪問し、後輩たちに受験の時の体験や今の学生生活を語ることで、高校生に京大を少しでも身近に感じてもらい、行きたいなと思ってもらいたいという発想で始められました。開始当時からスタイルを全く変えずにやっています。

――母校訪問という対面での形式をとっているのはなぜか。

小西 コロナ禍の2020年から22年はオンラインで実施していましたが、高校・学生の双方から直接話せる方がいいという声があり、23年に対面形式に戻しました。やはり直接話す方が、高校生が何でも聞きやすいですしね。

――話す内容や日程調整などは大使になった女子学生と高校に委ねられている。センターが指定しない理由は。

小西 高校生向けのイベントではありますが、開始当初から女子高生応援大使を務める学生の自主性を育てる目的もあったようです。将来、様々な場で活躍する際に自主性が求められると思うので、学生も力を伸ばしてほしいという思いがあります。

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効果は実感するも 可視化は難しい


――女子高生向けイベントとして「車座フォーラム」もある。2つの違いは。

小西 車座フォーラムは、男女共同参画推進センターが主催して、女子学生や女性研究者の生活や仕事を知ってもらうことを目的としており、京大の女子学生や女性研究者のリアルな声を届けるイベントです。2007年度から対面で実施していましたが、コロナ禍以降はオンラインで全国どこからでも参加しやすい形をとっています。それに対して女子高生応援大使は、対面での密なコミュニケーションに重点をおいています。2つが補完し合って女子高生向けの取り組みはうまく回っていると思います。

――活動の手ごたえは。

中植 学生の報告書には、高校生がとても熱心に質問してくれたり、先生からまたお願いしたいと言われたりしたと記載があります。実際どのくらいの人が京大に入ったかは分かりませんが、地道に続けていくのが大切だと思います。もう少し活動の価値を可視化できたらいいのですが。

小西 「この事業をしたら京大に入る女子学生が何人増えました」と結果に直結するものでもないので、効果をデータでは出しにくいです。データを分析しても次にどう繋げるかが難しい。ただ、事業に協力してくれた女子学生の中には「高校時代に女子高生応援大使が来てくれて話を聞きました」という人もいて、一定の効果はあるんだなと実感することもあります。

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大学としてできることを模索


――ダイバーシティ推進室は男女共同参画推進事業にどのように参与しているのか。

中植 男女共同参画推進センターとともに、高校生向けには車座フォーラムやオープンキャンパスでのイベント、女性研究者に向けては学会参加時の託児・学会に連れていく子どもの旅費支援、授乳室の設置、出産後の復帰支援などを行っています。最近の取り組みで1番大きかったのは学童保育所KuSuKuの設置です。

――センターのホームページには鼎会(*)の支援を得ているとある。卒業生からの支援もあるのか。

小西 男女共同参画推進センターの予算と併せて鼎会様の支援もいただいています。卒業生にはお金の面だけでなく、実際に車座フォーラムで挨拶してもらうなど色々な形で協力してもらっています。

(*)鼎会
京大総長のリーダーシップを応援するため2010年に設立された組織。京大を卒業した「日本を代表する企業のトップ」が参加している。

――京大が女子高生にもっと身近な、選んでもらえる大学になるにはどのような取り組みが必要か。
中植 日本社会全体の構造的な話にもなるので難しいですよね。進路選択には様々な要因が関わっており、大学でできることは限られています。ただ、「京大にどうしても行きたい」と高校生に思ってもらうには、身近なロールモデルの存在が大切だと思っています。

山下 高校生にとどまらず、小中学生に向けてもキャンパスツアーを行うなど、もっと身近に感じてもらって、早いうちから京大を意識してくれたら嬉しいです。

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遠い地方からも京大へ来てほしい


――現在の活動の課題は。

小西 京大には関西出身の女子学生が多いです。関東以北の出身者の比率が低いので、そちらからも京大に来てもらえるようにしたいです。

池田 女子高生はやはり地元に残る人が多いと学生から聞いていて、関西以外の人に京都に来てもらうことが重要だと感じています。

小西 関東以北の高校からもっと申し込みがあれば嬉しいなと思っているので、集中的に案内を出しています。ただ、関東周辺は東大や首都圏の大学を目標に据えることが多いようなので、京都に進学しようという人は少ない気がします。

――今後取り組みたいことは。

池田 車座フォーラムでは、保護者から地方から京都に来るときの生活面を心配する声が多く聞かれました。今後そのような心配を解消できるアプローチがもっとできたらいいなと思います。また、高校生が大学生から直接聞ける機会はあまりないので、応援大使事業ももっと広がったらいいなと思っています。

中植 現在は高校からの申請を受け五月雨式に学生に依頼しています。今後は事業に協力してくれる学生たちと継続的に関わる仕組みを作りたいです。また、在学生や卒業生のつながりを深め、さらに色々な立場の人に広げていけたら嬉しいです。

山下 京大に行きたいという気持ちをもっている人だけでなく、京都の街で学生生活を送りたいという人にも来てもらいやすい環境を作りたいですね。やはり地方からも首都圏ではなく京都に行きたい、と思ってもらいたいです。

――高校生にメッセージを。

池田 京大の女性研究者の方や女子学生と関わる中で、皆さんとても頑張っていて魅力ある方ばかりだなと感じています。ぜひ女子高生の皆さんにも、少しでも興味があったら実際に事業に参加してほしいと思っています。

――ありがとうございました。

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「選ぶ側」の現在地は? 距離的な壁/県外で視野を広げたい


2025年12月に女子高生応援大使事業を実施した新潟高校(新潟市中央区)の進路指導担当教員と、講演を聞いた女子高生4人(Aさん、Bさん、Cさん、Dさん)にインタビューした。今まさに進路を考えている女子高生と、進路選択を間近で支えている先生の声から、大学を「選ぶ側」の視点を探る。

教員へのインタビュー


――応援大使事業を知ったきっかけは。

京大から進路指導部あてに活動のお知らせが届いて知りました。本校では東大に通っている卒業生とは交流する機会がありますが、京大に通っている卒業生と交流する機会がないので、良い機会だと思い申し込みました。

――新潟高校では、関東に進学する人が多く、関西、特に京大を志望する人は少ない。何か壁があると感じるか。

距離的な壁はあるかもしれません。ただ、毎年京大を志望する生徒は一定数います。距離的な問題だけではありませんが、新潟から比較的近い東北大を志望する生徒は毎年多くいます。

――男女で進路選択に差は感じるか。

選択での差はそんなに感じたことはないですね。担当している2学年は女子の方が多いですが、東大・京大を志望している生徒は男子が多いです。ジェンダーの問題と関係しているかもしれませんが、理由はよくわかりません。

――ありがとうございました。

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「応援大使」講演を終えて


筆者が実際に母校で行った講演では、京大を志望する生徒に限らず高2の男女20名ほどが参加した。

「京大の基礎データ」と題して留学生の数や学生の男女比、下宿生の割合などを話したのち、キャンパスの風景や11月祭の様子、京都の季節ごとの街並み、普段の時間割の写真を見せたり、受験勉強の1年間のスケジュールや苦手科目の勉強の工夫を紹介したりした。迷いながらも京大を目指すと決めた理由も話し、本格的に受験勉強を始める前に「何のために大学に行くのか」を一度しっかりと考えて、自分の芯に据えるといいのではないかとアドバイスを送った。

後半の質問タイムでは、次々と手が挙がり、住まいの話題から京大の学風についてまで様々な質問が飛び交った。「英語の授業はどんな感じですか」「京大は本当に『変人』が多いのですか」「ひとり暮らしで大変なことは何ですか」――。ネットで調べたら出てくるような「模範解答」ではなく、なるべく率直な実感としての生の声を伝えようと意識してそれぞれの質問に答えた。やはり直接何でも聞ける親近感が高校生にとって大切なのではないかと感じた。

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女子高生へのインタビュー


――京大を目指すとしたら、入試の難易度以外でハードルに感じることは何か。

Aさん 修学旅行で京都に行ってみて、観光客が多くてバスになかなか乗れないなど、住みにくそうだと感じました。

Bさん 授業のレベルが高そうなので、ついていけるか心配です。周りと比べて劣等感を感じてしまうかも。あと、私は理系なのでやはり男子が多いのかなという不安は少しあります。

Cさん 京大に限ったことではないかもしれないけれど、学生の数が多いので友達作りは大変なのかなと思います。

――「女子だから」ということがよくも悪くも自分の進路選択に関わっていると感じることはあるか。

Dさん やはり娘に県外でひとり暮らしをさせることを親が心配しているのはなんとなく感じます。

――新潟県外に進学したいのは、単純に新潟を出たいからなのか、やりたいことのために出る必要があると感じるからなのか。

Dさん 私は新潟を出たいというのに近いです。県外に進学する方が自分の夢の実現に近づくと思います。新潟より人が多いところだと交流も多くていいなと思っています。

Bさん 県外に行きたい大学があります。都会に行きたいとかではなくて、新潟と同じくらいの「都会度」がいいです。

Aさん 私は視野を広げるために、大学は県外に行きたいと思っています。

――身近な人から直接大学生活のことや、京大のことを聞く機会はあるか。

4人 ないですね。

――女子高生応援大使の講演を聞いて、京大について意外だったこと、イメージが変わったことはあるか。

Dさん 京大に1年生からゼミ形式の少人数授業があるのは知りませんでした。そういうのは先輩から聞かないと知ることができなかったと思います。

Aさん 留学生がたくさんいて、交流できるのがいいなと思いました。「国内留学」と呼ばれる授業があると聞いて、海外に行かなくても英語力を伸ばせる環境があることを初めて知りました。

Cさん 高校より空きコマがあって時間割に余裕があるのが意外でした。

Dさん 大学のテストがどんな感じなのか初めて聞きました。高校のように知識を問われるのではなくて、自分の考えを論じるというのが新鮮でした。

――ありがとうございました。

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