第4回京都大学新聞文学賞

大賞

グミガスキー『ケツからジャズ』

審査員特別賞

河野純一『クズどもの口跡』

最終候補作

河野純一『クズどもの口跡』

仲尾直太郎『犬を感じる季節』

シバキリコ『半分は雨、半分は影』

紫冬湖『金魚を知らない金魚鉢は』

グミガスキー『ケツからジャズ』

一次選考通過作

蒔岡なりこ『雪原においで』

蒔岡なりこ『パパたち』

シバキリコ『半分は雨、半分は影』

森川めだか『ハイライト』

河野純一『クズどもの口跡』

いぶりがっこ『百回目の地球』

紫冬湖『金魚を知らない金魚鉢は』

いっき『翠鳥の帷』

高田九円『探してください』

佐川恭一『弔辞』

仲尾直太郎『犬を感じる季節』

いとをきっしょお『怨君三千年』

真木ダイク『一度蘇ってから死ぬ』

グミガスキー『ケツからジャズ』

山本築『埋もれ木』

大竹竜平『動物園の佐藤さん』

森水陽一郎『息子をかえしに』

藤井佯『まじられないし』

やらずの『じっと、ずっと』

中川多聞『怪人白ポスト』

ファビアン『餅』

remu『端正』

橘暮四『靴紐が解けた』


下記のリンクから受賞作2編の冒頭部分をお読みいただけます。

受賞作2編の全文は『京都大学新聞』2025年6月1日号(文学賞特集号)に掲載しています。文学賞特集号は、京都大学構内の販売ボックスや京都市内の書店などで購入できます。遠隔地からご購入の方は、120円+100円 × 購入部数分の切手を封筒に入れて京都大学新聞社までお送りください。なお、封筒には①お名前、②住所、③電話番号、④購入部数を書いた紙を同封してください。

 

グミガスキー『ケツからジャズ』

 

河野純一『クズどもの口跡』

 

受賞のことば

大賞 グミガスキー

 

近影(著者提供)

 

このたびは、第4回京都大学新聞文学賞という光栄な賞をいただき、心より感謝申し上げます。

まさかこの作品が選ばれるとは思ってもみませんでした。下剤をキメ、尻からジャズを鳴らし、殺し屋が踊り狂い、バナナが通信機になるような話です。どう考えても教育的配慮のかけらもない一篇が、文学賞というものにふさわしいと認められたことに、正直まだ混乱しています。こんなことがあっていいのか? よくわからないが、うれしいです。

選考に携わってくださった方々、そして作品を読んでくださったすべての皆さま、こんなふざけた話を最後まで見捨てずにくれて、本当にありがとうございます。

グミガスキーとしての人生は、いまだ謎に包まれていますが、ひとつ確かなのは、この世には「くだらなさ」の中にしか表現できない「真実」もあるということです。バカバカしいこと、意味がないように見えることの中にこそ、言葉にならない現実が転がっている。そう信じて書いた物語でした。

どこかの誰かの、ちょっと退屈な夜に、この作品が何かしら変な刺激を与えられたのなら嬉しく思います。気の抜けた笑いでも、変な想像でも、なんでもかまいません。ほんの少しでも、いつもと違う回路に火がついたのなら、それが一番の報いです。

これからも、意味のあることと意味のないことのあいだを、うろうろしながら、なるべくおもしろいほうへ転がっていけたらと思います。

 

審査員特別賞 河野純一

 

近影(著者提供)

 

拙作に対し、栄えある賞を授与していただいた京都大学新聞社の方々、選考委員の三氏に深く御礼申し上げます。私はテクスト主義者ではありませんが、この作品を脱稿した時点でそれは万人のものであり、私が作者だからといって特別何か言及する立場にすでにないと思っています。が、それでも多くの人に読んでもらえるならば望外の極みです。てっきり落選したと思い、坊主頭にしました。今後は心清らかに良作を書いていけるよう精進してまいります。

執筆にあたり、『ビバリーヒルズ・コップ』を少なくとも五回は鑑賞しました。アクセル・フォーリーこと主演のエディ・マーフィに感謝します。恩人は枚挙にいとまがないですが、いつも励ましてくれたOさん、Tさん、Nさん、ありがとう。風来坊の私と違って、しっかりと社会生活を送っている姿勢には脱帽します。

そして、大学院時代の指導教官の飯田泰三先生、博士論文を書き上げることができず、すみませんでした。この作品を以って博士論文の代わりとする愚行をお許しください。副指導教官の村井洋先生も納得されないでしょうが、どうか御高免ください。

最後に、私の文学活動に理解のない父との和解を祈念して結びとします。

選考委員

青羽悠 アオバ・ユウ(作家)
書きどきというものがあります。今この賞を見つけて何かピンときたものがあるなら、あなたにも書きどきが来たということです。大丈夫、京大という冠は妙に懐の深いところがありますから、時計台の怪電波にあてられて、寝言たわごと鬱屈卑屈どんなところからでも物語になりますよ。

 

大森望 オオモリ・ノゾミ(翻訳家・書評家)
新人賞の応募作にいちばん期待するのは、文章の美しさでも小説のうまさでもなく、いままで見たことがない何か。新人の原稿は毎年何百本も読むんですが、残念ながら、そういう驚きを味わうことはめったにない。うわ、まだこんな手があったのか!――と仰天できる作品にめぐりあえることを祈っています。よろしく。

 

吉村萬壱 ヨシムラ・マンイチ(作家)
「こんな異様な小説は恥ずかしくてどこにも出せない」「美し過ぎてぶっ壊れてしまった」「これ以上破綻しようがないほど破綻した小説を書いてしまった」などとお困りの方は、是非こちらにご応募下さい。「まともな文学賞」に送れないやばいブツ、危険物、ジャンル不明品等々、心よりお待ち申し上げております。

 

選考委員による座談会

 

選考委員のお三方により熱心な議論が交わされた

 

4月某日、京都市内で選考委員3名と本紙編集員2名により受賞作を決定する座談会を行った。その様子をお届けする。(構成=涼)

クズどもの口跡

吉村 まずは『クズどもの口跡』ですね。これは語りが非常に面白くて読まされました。ところどころで伏線にもならない「捨て文」が非常に効いていて良かったです。

大森 ダメ男ハードボイルドのような作風で、クスリ関係含め、ディティールがよく書けている。特に、何でも受け入れてくれる前原との関係が、バディでも親友でもなくドライに描かれている点がユニークでした。

最初と最後に出てくる隠岐の島の会社は、こんな人たちを雇って大丈夫なのかと心配になりますが、そういうゆるい感じも魅力だとは思います。普通だともっと殺伐とした感じになりそうですし。

青羽 一番文章として抑制されており、肝が据わっていたと思います。書かないことは書かないところにうまさを感じました。薬の飲み合わせで「賢者」「ボンバー」と名付けるネーミングのうまさも光っていました。

大森 これは映画にすると映えますよね。

吉村 そうですね。島根から九州を経てまた戻ってくるという構図も綺麗ですし。

ちなみにタイトルには「口跡」とありますが、航跡に本来の意味の「言葉遣い」をかけているという理解でいいんでしょうか。

大森 あんまり本来の意味の「口跡」感はないけど。

青羽 「クズども」についても、本当は別にクズと書く必要はないですよね。ここだけ書きすぎている(笑)。

吉村 そうそう、他は抑制されているのに(笑)。

犬を感じる季節

大森 これは、今回の候補作で唯一、タイトルがよかった。

主人公は真面目一方の45歳独身男性。下心がないと思われているせいか部下の女性たちに慕われていて、年下の女性社員・キャサリンを他の男性社員からガードするような、保護者的役割を受け持っていた。その後、退職して結婚した彼女と、出張のついでに会うことになり、泊まっていけと勧められられて……という話が淡々と書かれています。しかし実はかなり計算された構成で、途中、キャサリンに対して悪意のようなものを吐き出す転換点があります。この意外な展開はエンタメ的にもポイントが高い。

ただ、主人公の顔に「水疱瘡の痕」があるという設定はなくてもよかったのでは。

青羽 読みやすくて面白かったです。簡単すぎもせず、難しすぎもしない。一番最初、キャサリンからの葉書が届いて舞い上がるところはすごくわかりやすい一方、後半から見えてくるキャサリンへの嫌悪はすごく複雑です。何回読んでも味わえる難しさがありました。

「男は顔じゃないんですよ」というキャサリンの言葉から展開が急転しますが、この言葉にはドキっとさせられましたね。わかりにくいけどわかる気がします。そこと性的多様性の話を絡めるのも味わい深かったです。

吉村 これは面白かったですね。自分の欲望と飼い犬と、両方の意味での「犬」がタイトルにかかっていて良かったです。上級民の偽善と下級民の屈折が描かれていますが、双方がバカだと言ってる点でバランスが取れています。

ここで書かれている上級民と下級民のカテゴリ分けから逃れられる読者はいるのか。全部スペクトルの範囲で、全員がどこかにいるだろう。そう考えると、この作品には普遍性と社会性があると感じました。

最後の手紙も良いですね。ものすごく普通の内容なのですが、だからこそ普通の中にあるなにか暴力的なものも伝わってきて、ぞっとしました。

半分は雨、半分は影

青羽 こちらはハローワークに行って帰るロードノベルですね。描写はねちっこいほど細かいのですが、その割には読み進めたいという勢いが足りなかった印象です。

あと、「ノミヤマ・ハコ氏」という視点人物の設定でやりたいカメラの置き方があるんだと思いますが、なかなか意図が伝わりにくかったのではないでしょうか。

吉村 ことさらに「文学っぽさ」を出そうとする、大げさな文章になっていますよね。いったん「世界と断絶した」のだと言いながら、そのすぐあとに「幸せを誰かと共有したい」と言うなど、絶望が絶望になっていない甘さも感じました。

大森 ひとことで言って、ピンと来なかった。「ノミヤマ・ハコ氏」という名前など、面白くしようとしたはずのところが微妙にスベっているのが引っかかりました。

吉村 もしこの、大げさすぎるノミヤマ・ハコ氏を笑い飛ばすような仕掛けがあったら全然印象の違う作品になったかと思いますが、そこまで踏み切る潔さがなかったように思います。

金魚を知らない金魚鉢は

吉村 光る表現はあって、文章も読みやすかったです。「アロマンティックの女性」というテーマも重要で良いのですが、どこか物足りなさを感じます。最後の金魚鉢のシーンは良かったですね。

大森 お母さんとのやりとりもリアル感があって面白い。35歳まで恋愛もセックスもしたことがないという人は、いまだとけっこう普通にいそうですし。ただ、一大決心してその事実を打ち明けた娘に対して、お母さんが「アンタは一体、何なの?」と言う部分がこの小説の山場だと思うんですが、そこから失速してしまうのが残念でした。もう一歩、詰めが甘い。

青羽 最終候補作の中では一番自然に短編としてまとまっていたと思います。起承転結の流れがあって、インパクトのある描写も存在します。その一方で、テーマの扱い方がもう一息だとも感じました。やっぱり踏み込みがないんですよね。

吉村 何か、『犬を感じる季節』の犬のように、異質なものが間に入ると全然変わってくると思うんですけどね。このままだと少し平板です。

ケツからジャズ

大森 これは最高ですね。酔っ払った主人公が全能感にかられて下剤を飲む冒頭から意味がわからなすぎる(笑)。下剤が色気のある女の声で「飲んでみなさいよ」とか挑発してくるし(笑)。殺し屋がエアロビを踊り始めたり、サイレンサーのかわりに男性用の性具が銃身に挿してあったり、なんなんだこれは、と。下品そうだけど下品じゃないところが非常に面白い。

青羽 いや、僕は下品だと思います(笑)。まさか本当にケツからジャズをやるやつがいるかよ、と。もちろん面白いのは間違いないです。ウンピー・プーピーなりピニョン=ピニョンなり、ぽんぽん出てくる名前が変なのも良かったです。

ただやはり、もう少し計算があっても良いのではないでしょうか……。そう思ってしまう自分のような人が才能を潰すのかもしれませんが。

吉村 人を笑わせるというのは大変なことで、それが出来ているのは素晴らしいです。元気が出ないときはこれを読んで笑わせてもらおうと思います。とにかくセンスだけで書いている書き手なのですが、伏線も効いているので、読み終わったあとで「一つの小説を読んだ」という読後感があります。一つ一つの表現、ネーミングがすごいですよね。

本当に笑える作品でした。ただ、笑えるだけ(笑)。でもこの意味過剰の世の中にあって、こういう作品こそ重要なのかもしれませんよね。

一つ言っておきたいのは、パターンとしてこういうジャンルは存在します。そのジャンルの枠を超えてきているかは微妙かもしれません。確実にセンスはありますが。

受賞作の選定へ

青羽 受賞作の選定ですが、ひとまず『半分は雨』と『金魚』は除きましょうか。自分は『クズどもの口跡』か『犬を感じる季節』だと思います。

大森 僕は『ケツ』推し。

吉村 僕は『犬』か『ケツ』かな。『クズ』もいいんですが――。しかし新人賞ということを考えると、書き手の人にもっと良い作品を次も書いてもらいたい。だから、完成度は若干低いけど可能性を取るという考え方もありだと思います。

『犬』と『クズ』は、他の文学賞でも戦える作品ですよね。ただ、『ケツ』はちょっと……(笑)。

青羽 とはいえ『クズ』の「捨て文」のセンスは、実は『ケツ』に近いんじゃないでしょうか。こんなにどうしようもない奴らの話を、どうしようもない気持ちにならないで読めるのは、頭一つ抜けたセンスによるものだとも思います。

吉村 『犬』には、「これだ!」という文章はないかもしれませんね。言語センスでいうとやはり『ケツ』なんですよね。

青羽 それはそうですよね。

大森 京大新聞100周年記念で『ケツからジャズ』が大賞受賞! いいじゃないですか。

吉村 これ大賞にしたら面白いな(笑)。

青羽 こういうのを大賞にすべき……なのかもしれませんね。もう少し計算が欲しいところや、男性社会寄りすぎるかもしれない点も含め、見過ごせない点はありますが。

吉村 京大新聞の文学賞で無難なものを選んでいたらダメですね。型破りなものを大賞にして少しおとなしいものを特別賞にするという、第一回のときからの京大新聞文学賞の伝統というか「色」は大事にしたい。

なので、一番センスがある『ケツ』を大賞にして、審査員特別賞を『クズ』にするのはどうでしょう。『クズ』はやっぱり、文章への捨て文の入れ込み方がすごいんです。『犬』も構成的には素晴らしいんですが、文章のセンスはいまいち届いていないと感じます。

青羽 やっぱり『ケツ』ですかね。センスを評価して『クズ』を特別賞にするのも賛成です。

大森 いいと思います。『ケツからジャズ』を大賞、『クズどもの口跡』を審査員特別賞としましょう。

短評(敬称略)

青羽悠

賞のカラーというのは難しいものですが、京大なる冠はこだわりへの美学にこそふさわしいと思っています。

少し裏話です。はじめは大森さんと吉村さんが推した『犬を感じる季節』にまとまりかけていました。私も作品の完成度は認めていたので「ではそうなりますかね」と呟いたとき、大森さんに「そんな無難にまとめようとしていいの」と言われました。さりげない一言でしたが、私はそこから『クズどもの口跡』の捨て文のセンスと抑揚の厳密さに言及して引きませんでした。

自らのセンスに誠実であるべきです。忘れちゃいけないことですね。

orz =3 <すまいざごうとでめお(32小節)

 

大森望

いま、日本には大小とりまぜ毎年100を超える公募文学賞があるが、この第4回京都大学新聞文学賞は、創刊100周年を記念する1世紀に一度の機会。その選考委員をつとめるからには、100年に一度の受賞作を出したい!という見果てぬ夢を抱いて選考会に臨んだところ、意外にもその夢が叶い、いろんな意味で100年に一度しかない受賞作を選ぶことができた。『ケツ』対『クズ』の決勝はまさに歴史に残る名勝負。両受賞作の健闘を称えるとともに、ホントに面白いからぜひ読んでくださいと伏してお願い申し上げる次第です。

 

吉村萬壱

権力の支配から最も自由なのが意味のなさと笑いというものだとすれば、受賞した二作はこの点に於いて最も京都大学新聞文学賞に相応しい作品だったと言える。『クズどもの口跡』の何の意味もない展開から漂う哀愁は素晴らしいが、その哀愁そのものが意味の残滓であるとも言え、作品全体をどっぷりと無意味の沼に沈めて爆死させた『ケツからジャズ』の徹底ぶりには半歩及ばなかった。どうやら、グミガスキー氏はやってのけたようだ。

編集部より(涼)

第4回京都大学新聞文学賞へたくさんのご応募を賜り誠にありがとうございました。本文学賞の開催は実に10年ぶりでした。

大賞を受賞した『ケツからジャズ』は、編集部内でも賛否の分かれる作品でした。座談会でも指摘のあったように、男性社会からの視線が過剰に含まれていることには注意が必要です。しかし、光るセンスとある種の突破力があるのは確かです。そのような才能を見落とさないことが本文学賞の使命であることを鑑みて、最終候補作に選出しました。

ちなみに、惜しくも受賞には至りませんでしたが、個人的には『犬を感じる季節』を推していました。男性性と恋愛をめぐる実存的な問題が描かれており、特に京大生に「刺さる」と思われる小説でした。

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京都大学新聞文学賞の来歴

1959年に「京都大学新聞」創刊1000号*を記念し、伊藤整、野間宏を選考委員に迎えて懸賞小説を始めました。この懸賞小説は1970年まで毎年続きます。その後、長い空白期間を経て、1997年に「第1回京都大学新聞新人文学賞」を開催、文学賞の復興となりました。2008年には「第2回京都大学新聞文学賞」が開かれ、2015年には創刊90周年を記念して「第3回京都大学新聞文学賞」を開催しました。 今回、京都大学新聞の創刊100周年を記念して「第4回京都大学新聞文学賞」を開催します。
* 1925年4月1日創刊の「京都帝国大学新聞」から数えて

過去の受賞作

第3回(2015年) 井口可奈 『ボーンの錯覚』
第2回(2008年) 森いの助 『リンゴ』
第1回(1997年) 吉村萬壱 『国営巨大浴場の午後』