文化

〈書評〉そうだ、左京区出よう 『異世界エルフと京大生』

2024.09.16

〈書評〉そうだ、左京区出よう 『異世界エルフと京大生』
今日のライトノベル・Web小説において、「エルフ」を冠する作品は珍しくない。だから「異世界エルフ」という単語だけでは思わず目が滑りそうになるかもしれないが、その後に続く「京大生」という単語に、本紙読者であればぎょっとせずにはいられないだろう。

タイトルに偽りなく、京大のリアルが詰まった一冊だ。冒頭から唸らずにはいられない。主人公は聖護院のあたりに住む2回生。冒頭、異世界から来たエルフ・アスラとご飯を食べようとするが、「ルネは遠い」との理由で丸太町のカレーハウス・スパイシーを訪れる。確かに、どういうわけか聖護院からルネは遠い気がする。

本作の物語は、ほとんど主人公・真中英勝とアスラとのなかで完結している。現代世界の常識を知らないからこその行動や発言のズレがあるアスラに対して、「冴えない」京大生である真中が一人称でツッコんでいくので、非常に共感性が高く、没入感がある作品になっている。

身近すぎてふだん目を向けにくい京都の名所の魅力を再発見できるのも本書の魅力だ。アスラが異世界へ帰る力を回復することを求めて、北野天満宮や金閣寺、錦市場など混雑した観光地へも2人は足を運ぶ。京都に住む人間としてはなかなかこれらの観光地に行こうという気にならないというのが正直なところかもしれない。だが、作中のように何か目的をもって京都を巡ってみるのは悪くない一案だろう。左京区の閉じた界隈から足を伸ばしてみようと思える一冊だった。願わくば、エルフとともに。(涼)

◆書誌情報
『異世界エルフと京大生』
著 森田季節 
イラスト・協力 久賀フーナ
2024年7月18日発売
星海社FICTIONS

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