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19世紀世界の旅行へ思いをはせる 総合博物館企画展

2010.01.16

受験盛りの今日この頃、自習室や自分の部屋ばかりいると気だるい閉塞感に襲われる。そんなときにお勧めは、博物館や美術館。薄暗い部屋にいながらにして、時や場所の垣根を越えた多様な世界に触れ合うことができる。日頃受験や単位を目指してあくせくとした生き方をしていると、たまに呆然とする時間が必要なものだ。そんなときに、この総合博物館企画展「イザベラ・バードの旅の世界」をお勧めしたい。

京都大学総合博物館では、1月13日から3月28日にかけて写真展「ツイン・タイム・トラベル イザベラ・バードの旅の世界」を開催している。企画展を主導するのは人間・環境学研究科教授の金坂清則氏。展示は、金坂氏が19世紀の女性旅行家・イザベラ・バードの22歳から70歳までの50年にわたる旅の旅行記に基づきフィールドワークをする中で撮影した世界各地の写真と、その場に関する旅行記の記述を旅の順序に従い並べたもので、バードの旅行の年代に基付いた展示配置からは、金坂氏が自身の研究で導き出した「ツイン・タイム・トラベル」の概念が伝わる仕組みになっている。特別展として写真展を行うのは総合博物館としても異例。金坂氏の写真展は2005年からバードの本国イギリスなど世界各地で順次開催されてきた巡回展となっており、今後も日本各地を回ることになっている。1月23日、3月11日には金坂氏による講演会も開催される。
金坂氏はイザベラ・バードの研究を通じて、地理学における旅行記の重要さを訴える。旅行記は従来地理学で重要視されてこなかったが、金坂氏は旅人が文章やスケッチ写真を通して捉えた一瞬の中に、地理学が軽視しているが大事な問題が潜んでいる、と主張する。

写真展では、金坂氏が世界各地を旅行記に掲載・記述される風景と重ねる形で回って撮った写真を掲げ、その写真の下にバードの旅行記の記述を掲載することで、旅行記の風景を自分で行って感じてみる「ツイン・タイム・トラベル」の考え方を伝える。これは旅行記の読み方を「実際に行ってみる」という視点から変えることで旅のもつ意義を新しいものにしていこうとする考え方で、金坂氏はこの考え方を通じて「総合の学」としての地理学の枠組みを取り直し、他分野との関わりを考える分野へと発展させていきたい、と言う。

展示された写真は、どれも異国の風変わりな風習や壮大な景色を写したもので、目の当たりにした写真からは、何かその感触を伝えてくれるものはないか、と思わず下の旅行記の抜粋を見てしまう、といった具合だ。旅行記中に記述された、新潟に訪れたときに思わず感じた肥料の臭さに着想を得たと熱く語る金坂氏。「この写真展を見て、若い人が世界に関心をもち、アクティブになるきっかけにしてほしい」と金坂氏は話す。

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