〈展示評〉いつも子どもの近くにあった戦争 『戦争と学校と子どもたち』
2025.09.16
放課後の遊びに使われたおもちゃの展示
戦時下の学校に通う子どもたちにとって戦争は生活の一部分になっていたということが、いくつかの史料からよくわかる。強靭な身体を育てるため武道の授業が増やされた時間割、戦時色が濃い演目が記されたi運動会や学芸会のプログラム。軍隊に召集され戦死した教師の葬儀に参加し、弔辞を読み上げる子どもを収めた写真もあった。そして軍隊での生活の様子が描かれた漫画や、空襲時の消火活動のしかたをテーマとしたすごろくなど、どんな場面においても戦争がすぐそばにあるのが当時の子どもたちの日常だった。特に評者の目に留まったのは、「兵たいさんへ」と題して書かれた、国民学校の児童の作文である。「兵隊さんも安心して戦ってください」という一節を、教師は「兵隊さんのことをおもふとこのくらいのあつさにまけずにしっかりやります。こちらのことはぼくらがしっかりしますから安心してにくい英米をやっつけてください」と赤字で修正している。ここに、戦時下の教育の危うさを感じた。一方子どもたちが記した日記や学校で受けたテストなどから、戦時下であっても素直に教育を受けて育つ子どもの姿が見て取れる。
政府が戦争協力を求め策定した法律や、市民への呼びかけがどのようにして学区内で伝達されていたのかということも、史料を通じて知ることができる。地域の回覧板を使って、戦費調達のための貯蓄や金属類回収の呼びかけ、空襲の際に明かりを制限する灯火管制のしかたやさつまいもなどを活用した混食のレシピなどが住民に伝えられていた。出来事としては知っていることを、回覧板のように生活の内側から見てみることで、そこに確かにあった人々の暮らしが息づいていると思える。
本展を担当した学芸員の林潤平さんは、これからは「ポスト体験時代」だと言う。これからますます戦争体験を語る人は減っていく中で、体験を回想して残された史料が今後の戦争体験の継承に大きな役割を果たすようになる。ただ、それらの史料を読み解くのは戦争を経験していない世代であり、誤解があっても訂正する人がいないという事態が生じることも考えられる。そんな時代に残されている記録にどう向き合い、どう読み解いていけばよいのかを考えるきっかけになればとの思いが本展に込められている。「どうやって戦争体験を継承するかを考えると同時に、なぜ継承しなければならないのかも考えなければならない」と林さんは語った。
本展に、展示全体を通じた明確な1つのメッセージはない。メッセージやストーリー性を示すことよりも、市民が何を考えるかに重点を置いているからだそうだ。「戦後80年の節目の年だ。今後戦争体験を継承するために私たちが考えていかなければいけない」というメッセージを何度も耳にした今年の夏。それをただ受け取るだけではなく、自分が戦争に対して何を思い、考えるのかを見つめてみたい。これは戦後79年でも81年でも、変わらないはずだ。(悠)
