文化

〈展示評〉マンガで開く他者理解の扉 『マンガで考える人権問題』展

2025.08.01

〈展示評〉マンガで開く他者理解の扉 『マンガで考える人権問題』展

それぞれの関心領域に深く立ち止まる人々。海外からの訪問者も多い

7月3日から8月17日まで京都国際マンガミュージアム(中京区)にて、『マンガで考える人権問題:マンガ家が語る10のストーリー』展が開かれている。ステレオタイプ・ジェンダー・生存権など人権にまつわる10のトピックをテーマに、10人のマンガ家がそれぞれ独自の手法で、人権を複数の観点から照らし出しその意味を問いかける物語を描き下ろした。

当展示は5月1日から12日まで大阪・関西万博の国連パビリオンで展示された後、京都国際マンガミュージアムに移ったもの。国内外での巡回も計画されている。会場に入ると、色とりどりの垂れ幕が10枚かかっている。それぞれの垂れ幕には1、2ページ完結のマンガが日本語版・英語版の2種類飾られ、作者コメントも付されている。企画担当者のユー・スギョンさんは、万博で展示されることも踏まえ、日本のマンガを日常的に読まない人にとって順番が分かりやすいようコマに読み順を記し、翻訳もナチュラルな意訳を心がけたという。

評者が特に感銘を受けた作品が2つある。1つ目は、『この世界の片隅に』を代表作とするこうの史代が、ステレオタイプについて描いた作品「スマートマン」だ。本作の主人公はがっしりとした体格でいわゆるスーパーマンのような男だ。彼は「男は泣くな」「男なら戦え」といった様々な押しつけと対峙し、敵を倒すよう望まれる。しかし終盤、周囲に求められていないと知りながら争いへの参加をやめ、自分の望むフリーマーケットでの編み物売りを始める。彼の心情を表すモノローグでは、「がまんして他人に合わせ続けていたら やがて自分も他人に押しつける側になっていく気がするんだ」と語られる。自らの被害を無視し続けることで、自身から他者への加害にも気づけなくなってしまう。誰かの決めつけに苦しんでいないかと自らに問うことで、加害・被害の両面の立場から人権侵害を考える重要性を描いた作品だ。

登場人物はこうの独特のふわふわと柔らかい表情で描かれ、あまりの可愛さに頬がほころぶ。愛おしい彼らの抱える切実な悲しみや喜びに気づいた時、作品に心が引きずり込まれるようだった。ビジュアル作品ならではの魅力だ。

2つ目は、『真夜中の弥次さん喜多さん』を代表作とするしりあがり寿が、思想と表現の自由について描いた作品「言葉と武器」だ。物語は2人の男が口論しているシーンから始まる。周囲の人は「もうやめて‼」「言論は自由だ‼」と言葉を投げかけている。コミカルな絵だ。コマが進むにつれて、描写は2人の舌先にどんどんアップしていく。アップするにつれて両者の舌がしだいに捻じれていき、大ゴマで舌が血塗られた銃に変わる。最後のコマでは血色の爆発を背景に、「言葉は武器に変わる」という短文が読者に投げかけられる。本作には上で挙げた3言のみしか出てこない。言葉の暴力性をむしろ言葉少なに絵に託し、直感的に理解させる秀逸な作品だ。

ユーさんは日本のマンガについて、「読者と登場人物の距離が近い」という特徴を挙げ、読者が「自分の話」のように物語を受容できる点が魅力だとした。展示についても「人権を考える際に重要な『他者を理解する』ことと、マンガは非常に相性がいい」と述べ、作品に込められたメッセージが訪問者に届くことに期待を寄せた。館内の別のギャラリーでは、戦後80年を節目として「戦争マンガ」に関する展示を行う「マンガと戦争展2」も開催されている。当展示と合わせて訪れてはいかがだろう。ミュージアムの開館時間は10時から17時(最終入館16時30分)。毎週水曜休館(ただし、7月24日(木)~8月26日(火)は無休)。入館料は大人1200円。 (雲)

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