〈展示評〉文化の交差点で生まれる宗教芸術 ギリシア・ローマ文化と仏教展
2026.03.16
4~5世紀の仏立像。コントラポストが見られる
歴史を少しでも習った人ならば、「ガンダーラ」という単語には覚えがあるだろう。教科書では「ガンダーラ彫刻は写実的な衣の襞の表現がギリシア・ローマの彫刻と類似する」とよく説明される。もちろんそれは間違っていないが、そこで知識が止まってしまっていたり実際に目にしたことがなかったりするのは少しもったいない。担当学芸員・岩井さんは「ガンダーラ彫刻のどんな部分に西方の影響が表れているのか、具体的に知っている人は少ないのではないか。本展を通じて深く知れば、ガンダーラが影響を受けて当たり前の地域だということが見えてくる」と語った。まさに「頭でっかち」の代表であり、一問一答の決まり文句しか暗記していなかった評者は、本展で多くの視点を得た。
まず、ガンダーラとギリシア・ローマの彫刻の類似点として、片膝を軽く曲げて立つ「コントラポスト」という姿勢がある。直立するよりも動きが感じられるが、躍動的というよりは品のある所作だ。こうした細部によって、この2地域の彫刻は肉感などは驚くほどリアルでありながらも、どこか浮世離れした理想像という印象を受ける。優美な仏像や神像の人を惹きつける神聖な雰囲気が、ガラスケースを通り抜けて漂ってくるのを肌で感じた。
ガンダーラは政治についても西方の影響抜きでは語れない。本展では時代ごとにガンダーラで流通したコインが展示された。ギリシアの文字や神々が刻印されたコインは、その地域にいかに西方の文化が浸透していたかを示している。岩井さんによると、日本でガンダーラ美術が展示されること自体がそもそも珍しいが、コインの展示はさらに珍しいという。貴重な遺物の実物をじっくり見ると、無機質な教科書の記載の奥から当時の国際色豊かなガンダーラの空気が立ち昇ってくるようだった。
2月1日には京大白眉センター・文学研究科の田辺理特定准教授による記念講演会が行われ、ギリシア神話のディオニューソス神がガンダーラにおいてどのように受け入れられたのか説明された。講演会後、ガンダーラ美術の魅力について、田辺特定准教授は「一見単純な仏教美術に見えるかもしれないが、実は文化交流史の学問でもある。考察するにはインド、西アジア、ギリシア、日本の文化や美術を全体的に視野に入れなければならないので、ガンダーラ美術を鑑賞する際には、ぜひ他の地域の影響を探してみてほしい」と語った。
一点の狭い地域に見えて、ガンダーラを取り上げることは東西の広い文化に焦点を当てることである。仏教の長い歩みを知ることはガンダーラを知ることで、ガンダーラを知ることは仏教の歴史を知ることかもしれない。評者は本展を訪れてガンダーラの奥深さに驚かされた。仏教の歴史だけでなく、仏教美術の鑑賞の視点についても丁寧に説明された展示だった。(燈)

