〈展示評〉物語へ誘う装画の魅力 「中村佑介 装画の世界展」
2026.03.16
中村さんが描いた装画の数々が並ぶ
ひときわ目を惹いたのが『謎解きはディナーのあとで』(著・東川篤哉、小学館)の装画だ。優美な雰囲気を醸し出す独特の色づかいやキャラクターたちのコミカルな表情から、これから始まる物語の世界観がありありと伝わってくる。各所に散りばめられた剣やトロフィーといったモチーフも、物語に絡む重要な要素なのだという。物語を1枚の絵で表現するにあたり、中村さんが本を深く読み込んでいることがわかる。また作品のキャプションでは、「刊行当時、赤い表紙の本が多かったため、補色の緑色を背景に使って目立つようにした」という裏話が明かされている。装画が売り上げに大きく影響することを実感させられるエピソードだ。
中村さんは音楽の教科書の装画も手がけている。現代音楽と伝統音楽の繋がりをテーマにした『高校生の音楽2』(教育芸術社)の表紙は、ベースやドラムを演奏する高校生の周りで世界各地の伝統楽器が奏でられているイラストに仕上がっている。教科書の内容とイラストの対応が見事だ。また、教科書の収録曲・くるり『ばらの花』の楽譜を「ブレーメンのロバ」が咥えているという小ネタも仕込まれている。くるりには『ブレーメン BREMEN』という楽曲があるのだ。大人になってから教科書を手に取り、こうした小ネタが理解できたとき、自らの音楽の世界が深まったと気付くことになるだろう。巧妙なしかけである。
今回の展示会は、中村さんが初めて創作した装画から近年の作品まで幅広く扱っている。大垣書店の島田芽依さんは「1周すると装画家・中村佑介のストーリーが見えてくる。書店に立ち寄ったときのように肩の力を抜いて楽しんでほしい」と思いを語った。会期は3月15日まで。会期中は無休で、10時から19時まで開催中。一般500円、グッズ付き1800円(数量限定)。(梅)
中村佑介さん×森見登美彦さんトーク
展示会初日の2月14日には、中村さんと森見登美彦さんのトークイベントが行われ、『四畳半神話大系』(角川文庫、2008)からタッグを組む2人の間で赤裸々な会話が繰り広げられた。
トークは中村さんと森見さんが事前に用意した質問を交互に相手に聞く形で進んだ。「自分の本が書店に初めて並んだ時どう思った?」「初めて書き上げた作品は?」「AIについてどう考えている?」など、クリエイターとして敬意を払いつつ、互いが互いのファンなのだろうと思われるような深い質問も飛び交った。中村さんから森見さんへの「初めて恋人ができたのは何歳?」という思い切った質問に会場がどよめくと、「森見さんは聞かれたくなさそうだから聞くんです」と中村さんはいたずらっ気な笑顔を見せて笑いを誘った。これに対し森見さんは大学で初めて付き合った人と結婚したことを明かし、「僕は一直線で結婚したから男女の複雑な関係はわからないんです」と答えた。
さらに、森見さんの作品の装画の製作時には、中村さんは「森見さんの世界に没頭しながら潜って、自分が文章を書いた気になっています。違う人生を体験する感覚はゾクゾクします。知らないことを知るのが楽しいんです」と語った。また大学時代に、美人画で著名な画家・竹久夢二の絵が持つエネルギーに圧倒されたことを振り返り、「夢二の描く女性には情があるんです。僕も『絵』じゃなく『人間』として人の頭の中で生かして動かしたい。明石さん(『四畳半神話大系』に登場するヒロイン)が生きた人間として皆さんに受け入れられているのは、森見さんが魂を込めたからです。いつか自分だけでそれをやりたい」と熱意のこもった目で語った。
2人の話が盛り上がり、終盤にはお互いが用意した質問を慌てて尋ねるという一幕もありつつ、イベントは盛況のうちに終了した。(燈)
