文化

情報学研 AIと人間の共生目指すシンポ ゲストにオードリー・タン氏

2025.10.16

情報学研 AIと人間の共生目指すシンポ ゲストにオードリー・タン氏

聴衆に語りかけるタン氏(中央)

10月8日、百周年時計台記念館記念ホールにてシンポジウム「ポスト生成AI共生社会の展望〜集中、分散、そして第三の道〜」が開催された。次世代情報・AI教育研究センターが人工生命国際研究機構と共同で主催するもので、センターの設立と、人工生命国際研究機構の京都ラボのオープンを記念したイベント。元・台湾デジタル大臣のオードリー・タン氏をはじめ、出口康夫・文学研究科長や伊藤孝行・情報学研教授ら7名がパネリストとして登壇した。

タン氏は著書で、AIが人間を大きく上回る知能に達する特異点「シンギュラリティ」を目指すのではなく、社会的差異を超えてAIと人間、人間と人間がコラボレーションするための技術「プルラリティ(多元性)」を実現するべきだと提唱。AIが発展した今後の社会について、テクノロジーを持った一部の人が社会をコントロールする「集中型」の社会や、反対にテクノロジーを持った個人が自由に動き回り秩序がなくなった「分散型」の社会とは異なる第三の道として「デジタルデモクラシー」の実現を呼びかける。

シンポジウムは2部構成で、第1部では「AIシステムの開発が目指すゴール」が議論された。伊藤教授は、AIが人間の議論の司会をし、合意形成を助けることで人間同士の心理的距離が近づくという自身の研究を説明し、そのうえでAIが意図しない目的に用いられ悪影響をもたらす可能性に懸念を示した。これに対しタン氏は、能力の最大化を目指してAIに強化学習をさせると、少し状況が変わっただけでAIが思いもよらない行動にでる脆弱なシステムになってしまうため、最大化よりも一定基準の達成を評価する考え方に移行する必要があると主張した。

第2部では、AIと人間の「共生」がテーマとなった。出口教授はAIを含むすべての身体行為を行う主体をひとつの「WE」という単位で捉える「WEターン」について説明し、「WE」のなかでは対等な双方向的関係を築くべきだと述べた。これにオードリー氏も賛成し、この「中心を据えることに反対する考え方」はデジタルデモクラシーにおいても重要だとした。多数決ではなく、大きく異なる意見との橋渡しとなるアイデアが採用される「ブリッジングシステム」を紹介し、共生は常に不安定だからこそ、周縁に追いやられている人々の声は中心に近い人々の声より大きくカウントする必要があると述べた。

タン氏は最後に学生へのメッセージとして、カナダの歌手レナード・コーエンの曲から「すべてのものにはひびがある/そのひびから光が差し込むのだ」と引用し、完璧を求めて焦る必要はないと背中を押した。(悠)

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