〈講演会〉文化心理学からみた心 ミシガン大 北山忍教授
2026.01.16
2025年11月25日、京都大学百周年時計台記念館にて、トークセッション「文化が違えば心も違う?―文化心理学の冒険―」が開催された。本講演会は25年8月に刊行されたミシガン大学心理学部の北山忍教授による同名新書の出版を記念したもの。北山教授による新書の解説と、内田由紀子教授(人と社会の未来研究院)との対談の二部構成で実施された。
第一部では北山教授が新書をもとに文化心理学を紹介した。文化心理学では、文化によって感情や動機づけ、さらには主体そのものが形作られると考える。北山教授は、欧米の「独立モデル」と東アジアの「協調モデル」の違いを説明した上で、日本人の動機付けには「自己向上(足りない部分を改善したい)」と「社会的承認(周囲に認められたい)」の二軸があると考察した。北山教授は「社会的承認に過度に縛られると、期待に応えようとするあまり常識の範囲内に収まってしまう」と指摘。米大リーグで活躍する大谷翔平選手を例に挙げ、社会的承認から解き放たれた純粋な自己向上が傑出した成績に繋がったのではないかと分析した。
第二部では北山教授が教え子の内田教授と対談した。ある基準を押し付けるのではなく、才能ある個人の伸びしろを許容する柔軟な社会システムの必要性を北山教授は強調した。モデレーターの稲谷龍彦教授(法学研究科)も、大学も柔軟なシステムの一部と考えられるのではないかと述べた。続いて、内田教授が幸福の感じ方にも文化差があるとする研究成果を紹介した。日本では日常の中で感じる、ほどほどの幸せが好まれる傾向にあり、仏教的無常観に通じると語った。
講演会の最後には質疑応答が行われた。北山教授は「文化とは何か」という問いに対し、「誰も覚えていない生存過程に対する解答」という定義を紹介した。文化は多様だが、多様な外的環境との相互作用で文化を形成するプロセス自体は、どの文化でも普遍的だという。歴史的な視座を持って文化を捉えることの重要性を説き、講演会は幕を閉じた。(法)
講演会終了後、本紙は北山教授に単独インタビューを行った。新書に込めた思いや、日米の大学生の違いについて聞いた。(聞き手:法)
――今回の新書の狙いは。
文化に関する日本の研究では、日本と欧米の文化の比較が多いです。世界はもっと広いことを伝えるために、アフリカを本の冒頭で話題にしました。国際理解を進めるために、文化の多様性の背後に歴史的な共通性があるという視点を伝えたかったのです。他者を理解しようとしなければ、不必要な対立や誤解を招いてしまいます。
――研究における社会貢献について。
社会貢献をしようとしていい研究ができるとは限りませんが、研究の意義を社会に理解してもらうように意識することは大切だと思います。学生でも、家族に自分の研究の面白さを話せるくらいになってほしいです。
――日本とアメリカの学生の違いは。
個人や組織によって違いはありますが、アメリカの方がゼミや研究室の研究を自分のものとして取り組む傾向にある気がしますね。また、アメリカの学生はよく質問する一方で、日本の学生はあまり質問をしません。質問をすると、自分なりに理解して自分の言葉に置き換えるという思考の訓練になるので、日本でも積極的に質問してほしいです。
――大学が知の創造を支えるために重要なことは。
教員と学生が対等に議論することです。学生は基礎を身に着け、教員は新しい意見やユニークな視点を受け入れる努力が必要です。
――北山教授は京大を卒業し、京大で教鞭を取っていたこともある。京大の「文化」や京大らしさとは。
知の創造に不可欠な「外れ値」や「変人」を許容する土壌があり、ノーベル賞受賞者を多く輩出していることにも影響を与えていると思います。ただ、「変人」にも自分の研究の学問的・社会的意義を伝える責任があります。また、京大は自由すぎて勉強していない学生もいると思いますが、勉強はしっかりやった方がいいですね(笑)。
――ありがとうございました。
第一部では北山教授が新書をもとに文化心理学を紹介した。文化心理学では、文化によって感情や動機づけ、さらには主体そのものが形作られると考える。北山教授は、欧米の「独立モデル」と東アジアの「協調モデル」の違いを説明した上で、日本人の動機付けには「自己向上(足りない部分を改善したい)」と「社会的承認(周囲に認められたい)」の二軸があると考察した。北山教授は「社会的承認に過度に縛られると、期待に応えようとするあまり常識の範囲内に収まってしまう」と指摘。米大リーグで活躍する大谷翔平選手を例に挙げ、社会的承認から解き放たれた純粋な自己向上が傑出した成績に繋がったのではないかと分析した。
第二部では北山教授が教え子の内田教授と対談した。ある基準を押し付けるのではなく、才能ある個人の伸びしろを許容する柔軟な社会システムの必要性を北山教授は強調した。モデレーターの稲谷龍彦教授(法学研究科)も、大学も柔軟なシステムの一部と考えられるのではないかと述べた。続いて、内田教授が幸福の感じ方にも文化差があるとする研究成果を紹介した。日本では日常の中で感じる、ほどほどの幸せが好まれる傾向にあり、仏教的無常観に通じると語った。
講演会の最後には質疑応答が行われた。北山教授は「文化とは何か」という問いに対し、「誰も覚えていない生存過程に対する解答」という定義を紹介した。文化は多様だが、多様な外的環境との相互作用で文化を形成するプロセス自体は、どの文化でも普遍的だという。歴史的な視座を持って文化を捉えることの重要性を説き、講演会は幕を閉じた。(法)
北山教授 単独インタビュー 「変人」の説明責任
講演会終了後、本紙は北山教授に単独インタビューを行った。新書に込めた思いや、日米の大学生の違いについて聞いた。(聞き手:法)
北山忍教授
京都大学大学院文学研究科心理学専修修士課程修了。1987年、博士(ミシガン大学)。オレゴン大学准教授、京都大学総合人間学部助教授(当時)などを経て、2003年より現職。京都大学・人と社会の未来研究院特任教授も兼任。専門は文化心理学。
京都大学大学院文学研究科心理学専修修士課程修了。1987年、博士(ミシガン大学)。オレゴン大学准教授、京都大学総合人間学部助教授(当時)などを経て、2003年より現職。京都大学・人と社会の未来研究院特任教授も兼任。専門は文化心理学。
――今回の新書の狙いは。
文化に関する日本の研究では、日本と欧米の文化の比較が多いです。世界はもっと広いことを伝えるために、アフリカを本の冒頭で話題にしました。国際理解を進めるために、文化の多様性の背後に歴史的な共通性があるという視点を伝えたかったのです。他者を理解しようとしなければ、不必要な対立や誤解を招いてしまいます。
――研究における社会貢献について。
社会貢献をしようとしていい研究ができるとは限りませんが、研究の意義を社会に理解してもらうように意識することは大切だと思います。学生でも、家族に自分の研究の面白さを話せるくらいになってほしいです。
――日本とアメリカの学生の違いは。
個人や組織によって違いはありますが、アメリカの方がゼミや研究室の研究を自分のものとして取り組む傾向にある気がしますね。また、アメリカの学生はよく質問する一方で、日本の学生はあまり質問をしません。質問をすると、自分なりに理解して自分の言葉に置き換えるという思考の訓練になるので、日本でも積極的に質問してほしいです。
――大学が知の創造を支えるために重要なことは。
教員と学生が対等に議論することです。学生は基礎を身に着け、教員は新しい意見やユニークな視点を受け入れる努力が必要です。
――北山教授は京大を卒業し、京大で教鞭を取っていたこともある。京大の「文化」や京大らしさとは。
知の創造に不可欠な「外れ値」や「変人」を許容する土壌があり、ノーベル賞受賞者を多く輩出していることにも影響を与えていると思います。ただ、「変人」にも自分の研究の学問的・社会的意義を伝える責任があります。また、京大は自由すぎて勉強していない学生もいると思いますが、勉強はしっかりやった方がいいですね(笑)。
――ありがとうございました。
