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「科学の発展なしに人類は生き残れない」松本総長、宇宙戦略を語る

2009.12.06

11月25日に一般公開講座・春秋講義(水曜講義)が宇治キャンパス・宇治おうばくプラザにて開かれ、松本紘・京大総長が講演「日本の宇宙基本計画と宇宙開発利用」を行った。講演は主に、今、政府が開いている「行政刷新会議」での大学の研究費削減問題に苦言を呈し、地球環境問題やエネルギー問題の視点から宇宙戦略・宇宙開発を進めていかなくてはならないことを訴えるというものであった。

松本総長はまず、これまでの人の進化や将来を考えて「我々は生き残れるか」という問題提起を投げかけ、豊かな生活の基盤の背後に、人口爆発や食糧問題、自然環境の悪化、エネルギー資源の大量消費があることを考えると、今まさに地球型文明・人類は危機にあると述べた。そこで資源に限りある地球では、さらなる科学技術の発展なしに生き残れないとし、そこに「行政刷新会議」のあり方が問われるべきだと主張。さらには地球という枠を超えて、宇宙に人類の文明を広げなければならないと提唱した。

続いて、松本総長が開発に取り組んできた、宇宙に太陽光パネルの衛星を打ち上げて太陽光発電を行うという「SPS(宇宙太陽発電所)」の構想と、それを今年の6月に案の1つとして採用した政治政策「宇宙基本計画」について語った。「SPS」は新たなエネルギー・イノベーション(革新)であり、宇宙空間であることを生かして大量の発電が可能で、エネルギーをマイクロ波という電波に変えてコードなしに地球に送るという。松本総長はマイクロ波の研究に力を入れてきた第一人者であり、2030年ごろに打ち上げ実験がされ、2050年ごろには実現すると予測しているが、「SPS」の設備が巨大であることや採算性からまだ技術開発が必要だという。「宇宙基本計画」は「国民が安心して安全に豊かな生活を」のスローガンのもと宇宙開発利用をする戦略で、5つの利用システムの構築と4つの研究開発プログラムの推進を打ち出し、安全保障や外交を始め、農業、漁業、災害対策などに役立てるほか、地球規模の課題の解決を目指すものである。松本総長はこのスローガンはまだ甘いものであるとして、「持続可能社会」の実現のためにはイノベーションの継続が必要と訴えた。

その他、最近の政治問題について触れ、今年9月に鳩山由紀夫首相が国連気候変動首脳会合で二酸化炭素の大幅削減を公約したことに関して、科学技術で高いレベルを維持した上で、もっと画期的な取り組みをしなくてはならないと述べ、快適な生活から質素な生活に戻せないように、頭では分かっていても実際に行動することが出来ないという心の問題があることを指摘。また、政府の教育に対する予算が(GDP比で)先進国28カ国中で最も低い上に「行政刷新会議」でさらに削られることに関しては、「行刷(ぎょうさつ)」(「行政刷新会議」の略称)はまさに「驚・殺(ぎょうさつ)」であり、日本に未来はあるのか、と嘆いた。

最後に、人類が宇宙空間に進出できるかについての考察を紹介し、人類は地球から太陽系に出なくてはいけないと述べ、もしも宇宙に文明を築けたときの予想図などについて示した。