文化

NF鼎談連動書評 佐々木俊尚・著『Google』(文春新書)

2009.10.05

連続書評第1回目となる今回は、鼎談参加者の一人である佐々木俊尚氏の著書を紹介する。本著は表題の通り大手検索エンジンであるグーグルについて書かれた本である。グーグルと言えばその特異さが目につく。シンプルなトップページ、特殊構文、メーラーであるGmailなど枚挙に暇が無い。国内最大手のヤフージャパンと比べれば一目瞭然であろう。だがそれ以上に奇妙なのは、グーグルが「企業」である点だ。企業である以上、どこかで収益を挙げなければならない。その手段の一つが「アドワーズ」である。これはキーワード検索結果の上に表示されるスポンサー広告である。本書ではこの機能によって閑古鳥の鳴いていた羽田空港近郊の駐車場が溢れんほどの利用客を獲得した事例が紹介されている。こうした広告活動によって得た利益を元に、グーグルはブラウザ開発や詳細な全世界地図といった無料サービスの開発を行っているのである。

現代では、検索エンジンがインターネット利用者の「入り口」となっている場合が多い。つまり新たな企業観として、どれだけ利益を上げるかはもちろん重要なのだが、それに加えてどれだけ注目を浴びるかが価値判断における一つの尺度と化している。

ここまではグーグルの良い面を紹介してきたが、むしろ本書で論じられているのはグーグルが世界の支配者になるのではないかと予想されている点だ。グーグルの広告に「アドセンス」なるものがあるが、これは従来のバナーとは異なりアドセンスが添付されているウェブページやメールの内容に関連した広告が自動的にセレクトされるという画期的なものだ。だが、アドセンスにはいささか議論を要する部分があり、例えばGmailでもアドセンスが自動的に表示されるが、これはメールの文面をグーグルが検閲しているような感覚に近いのではないか。他にもグーグルマップのストリートビューという機能では自分があたかも道路にいるかのような360度の画像が表示されるが、これはあたかも「町中に設置されたカメラにより、グーグルに監視されている」錯覚に陥ってしまう。最近では、グーグル本社がサンフランシスコ市内全域に無料の無線LANを整備する計画まで浮上している。この場合も当然、個人が閲覧するサイトから趣味嗜好を引き出そうとしている訳だが、グーグルに個人情報が管理されることに近い感覚だと言える。

いかなる技術の進歩に越した事はないが、その功罪にうまく折り合わなければ問題が浮上するという点は、個人の倫理観でしか何ともならないのかと思ってしまう。(如)

《本紙に写真掲載》

11月祭の鼎談企画に向けて、京都大学新聞では今号から11月16日号まで、関連出版物の連続書評を行います。(編集部)

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