文化

インタビューで迫る創作の裏側 北部祭典「森見登美彦、京大北部に帰ってくる。」

2023.12.01

11月25日、北部祭典のインタビュー企画「森見登美彦、京大北部に帰ってくる。」が理学部6号館で実施された。森見氏は京大農学部出身の小説家で、在学中に『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、2003年にデビューした。主人公が京都を舞台に不思議な事件に巻き込まれながら大学生活を送るストーリーは多くの読者を惹きつけ、独特の世界観で人気を博している。登壇を依頼した文学部2回生と、森見氏の作品で卒業論文を執筆するほどの大ファンである京都精華大学4回生がインタビュアーを務め、森見氏が事前に寄せられた質問に回答した。

「大学生活はどのようなものでしたか?」という質問に対して、森見氏は寒々しく悲しい生活を送っていたと振り返った。「先輩」が「黒髪の乙女」に想いを寄せる『夜は短し歩けよ乙女』のイメージでキラキラと充実した生活を送っていたと思われることが多いが、実際の大学生活に近いのは、京大の男子学生がかつての恋人を「観察と研究」という名目で追いかけるなかで様々な出来事に遭遇する『太陽の塔』だという。自身の大学生活で得たネタは1作目の『太陽の塔』で使い切ってしまい、それ以降の作品は想像を基に執筆したと話した。

ストーリーの発想法について、最初から完成形の話を思いつくと読者は思っているかもしれないが、そうではなく、色々なきっかけで浮かんだアイデアを膨らませて執筆していると答えた。例えば、『夜は短し歩けよ乙女』では最初にタイトルが浮かび、その言葉を基にして、夜を歩く女の子の話かな、その子は飲み歩いているのかな、などと想像を巡らせて執筆したと語った。また、中学生の頃から自分の考えを書き留める習慣があり、デビューした後にアイデアを書き留めるノートを作ったと明かした。そのノートにはネタだけではなく、日々の悩みや今後の生き方についても思いを綴っているという。

森見氏の作品では、京都、特に左京区や上京区、中京区を舞台に物語が進んでいくことが多い。京都の地理的・文化的特徴として、異なる時代の歴史的なものが重層的に存在しており、その上に色々な人が住んでいることをあげた。日本中の人々が京都に幻想を抱いているおかげで、京都を舞台にした自身の作品が多少現実味に欠けていても、物語として納得してもらえているのではないかと語った。終盤には、15年に第2作が発表された『有頂天家族』の第3作の発表時期について聞かれ、書こうという意志はあるが、約束しても結局破ってしまうから何も言えないと答え、会場には笑いが起こった。

当日は整理券が事前に配布され、大学関係者や遠方から訪れたファンが観覧用の600席を埋めた。観客は森見氏の言葉に熱心に耳を傾け、1時間半のインタビューは和やかな雰囲気で終了した。(史)

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