文化

〈新刊紹介〉 京大理学研究科編「わくわく理学」

2009.06.10

2008年は4人の日本人ノーベル賞受賞者(※アメリカ国籍の南部氏を含む)が誕生した。そんな日本人ノーベル賞ラッシュを起爆剤に、理学志望の若者を増やそうという狙いで出版されたのが本書「わくわく理学―夢ふくらむ京大理学部」である。主に受験を控えた高校生を対象読者に、京都大学大学院理学研究科・理学部が編集した。

本書はおおまかに分けて3部構成。2008年にノーベル物理学賞を受賞した名誉教授の益川敏英氏と学生の巻頭座談会に始まり、各専攻(数学・数理解析専攻、物理学・宇宙物理学専攻、地球惑星科学専攻、化学専攻、生物科学専攻)ごとにいくつか具体的な研究内容が紹介された後、尾池和夫前総長のインタビューで幕を閉じる。その合間にはトピックとして理学部生同士の対談が入ったり、巻末には大学院修了者の就職先や採択された21世紀COEプログラム名などが載っていたり、とにかく、京大理学部の話題がてんこ盛りなのだ。

かく言う私も受験生時代に理学部へ志望転換した学生のひとりである。その時はただ漠然と、幅広く科学を勉強したいと思い理学部を志望していた。理学部に関する情報はほとんど知らず、進路に迷いが無かったと言えば嘘になる。受験する学部を決めかねている高校生にとって、本書のように大学の学部自体が編集・発行している本は他に例を見ず、かなり参考にできるのではなかろうか。研究内容の紹介はやや内容が高度すぎるきらいがあるけれども、大学に入ってからもっと学ぼうというモチベーションに繋がると考えれば結構だろう。

何度か読み返して思うに「わくわく理学」という題はなるほど言い得て妙である。わくわくしているのはまず、記事の執筆者たちだ。理学部の先生方に話を聞いて、聞いた内容だけを伝えるのではなく、執筆者自身が感じたわくわくまでも伝えようとしてくれている。そして、そのわくわくが読者に伝染する。大学に関して詳しく知らない高校生のわくわくはもちろんのこと、内容がある程度高度なだけに、本書は他学部1・2回生の理学部への転学を促すものともなり得るはずだ。それでも、一番わくわくしているのはきっと教授・准教授なのだろう。写真の表情だけからでも、容易に想像がつく。

ページの左下余白には、教授陣のちょっとしたアンケート回答が掲載されている。内容は高校時代の自分をひとことでいうと、趣味、尊敬する人物、座右の銘、など。これが存外おもしろい。いつもはきりりとした表情で授業している先生のおちゃめな部分が垣間見られて、理学部上回生なりに楽しめる。

蛇足かとは思うが最後に少し、理学部生として本書を補足しよう。夢がふくらんでわくわくする1・2回生を過ぎ上回生になったら、徐々に自分の追いたい夢がはっきり絞れてきます。そしていざ研究を始めるという時にはもう、わくわくを通り越して、ぞくぞくします。(侍)