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春秋講義「死刑を考える」 データで見る制度分析

2009.05.02

4月の春秋講義は吉田キャンパスで行われる月曜講義。「死刑を考える」と題して、冨谷至・人文科学研究所教授「東アジアの死刑―その歴史と思想―」、髙山佳奈子・法学研究科教授「刑罰の目的と死刑の意義―なぜ人が人を裁けるのか―」、堀江慎司・法学研究科教授「刑事手続きの中の死刑―とくに裁判員制度との関係で―」の各テーマで講義が行われる。

春秋講義は1988年秋より開講された、京大の知的財産の広い共有を図るため、市民向けの公開講座である。今回の月曜講義は吉田キャンパス時計台百周年記念ホールで行われており、4月20日には髙山佳奈子教授による講義が開催された。

髙山教授の講義は、死刑制度について、存置論・廃止論の主張、世論調査、国際的動向などの基本的な概念に立ち返って紹介することで、重大犯罪を人が裁くことの意義を狙いとする。死刑に関する世論調査は、存置派が81%、廃止派が6%と、従来より存置派の圧倒性が言われている。しかし、廃止派の傾向として、男性より女性、老人より若者のほうが若干多いという特徴も看過できない。また、存置派の理由として増加傾向を示す抑止力効果について、多数の考える予防効果への疑問を示した。また、伝統的な刑罰理論としての応報刑論・目的刑論を紹介し、目的刑としての一般予防論の際限のなさについても言及。また、ここ30年の国際的動向として、死刑廃止を掲げる国家が増えていることにも触れた。

さらに、死刑に代わる代替案として持ち出される絶対的終身刑については、ナチスの反省から絶対的終身刑を導入した戦後ドイツにおいて、次第に絶対刑の残酷さに批判が集まり、死刑に復帰していく過程が紹介される。一方で、日本の仮釈放制度は運用が厳格で、実質的に絶対的終身刑に近い運用がなされているとも説明した。最後には、永山則夫やサダム・フセインを持ち出し、忘れられてしまう死刑囚よりは、韓国国民が生かして役立たせた金賢姫に関する判断の方を、保護される法益が大きいとして評価した。

【編集員の視点】 主観と客観―せめぎあう2つの犯罪観―

髙山教授は死刑制度については廃止論の立場から検討を進めた。特に、専門の比較刑法(刑法の国際的な比較)から、日本の世論や思想対立を相対化させて考えることを促す端緒を構成する講義を設定したように見受けられた。

裁判員制度が導入され、2001年の大阪教育大附属池田小事件の犯人が1年でスピード死刑が執行されたことを始めとして、我々には死刑制度について考える必要性がますます深まっている。そこにはますます意味の広範化した「社会性」という概念が不可欠だ。

たとえば、刑罰が国家の管理する重大な人権侵害であり、最低限に抑えるべきと考えたとき、「法益侵害」という概念は重要である。カントは、ある島が解散するとして最後の島民まで厳重に罰するべきと主張したが、一方で、それを執行する国家の正当性はいつも俎上に上がらねばならない。このとき、死刑を考える上で、抑止力の正当性、生かしたときの用益等、社会的な比較考量の視点は重要な要素となり得る。このように考えたとき、本講義のように世論調査や国際的動向といった死刑制度に関する主要なデータを概括する行為は、重要な意味をもつものであろう。(麒)