「やりたいこと」を肯定する生き方 『このようなやり方で 300年の人生を生きていく』
2023.07.01

「あたい」はテントの入った大きな荷物を背負って、似顔絵の料金を書いた看板をさげている。似顔絵を描いて旅費を稼ぎ、野営をしたり、人に泊めてもらったりしながら旅をするという方法をとった。だから日記は自然と出会った人とのコミュニケーションが中心になる。似顔絵を描くときに人の顔をよく見るためだろうか、出会う人への眼差しの豊かさは本書の大きな魅力だ。沖縄独自の民俗の描写が、作品の基層を流れる雰囲気を形づくり、良いアクセントを加えている。
日記の形をとっているため、ところどころ記憶を辿るようなおぼつかなさがあるものの、それでいて読みにくいということはない。出来事はおおむね時系列で書かれているし、著者の気分の浮き沈みもわかりやすい。不愉快なことは不愉快そうに、嬉しいことは嬉しそうに書かれているから、素直に読み進めれば「あたい」のマインドで旅を追体験できる。
「あたい」は他人のために生きるよりも、自分のやりたいことをやる(あるいはやろうとしている)姿こそ、人の励みになり、社会や人のためになると考えていた。表題「このようなやり方で300年の人生を生きていく」は「あたい」の決意であり、沖縄への旅はそうした生き方を実践する一歩だった。
将来設計に直面する若い時期には、かくあるべき、という規範を強く意識することがある。規範に従って行動することは確実で楽なのだが、同時に自分がやりたいことを見つめたり、追求したりするうえで妨げになる。そこに葛藤が生まれて、悩むことになる。
本書を貫く「あたい」の人生への向き合い方は、時に規範と対立する「やりたいこと」にとことん寄り添い、やりたいことをして生きていく人生のあり方を肯定する。だからこそ、読者を規範意識から解き放ち、元気づけてくれるのだ。(汐)
『このようなやり方で300年の人生を生きていく あたいの沖縄旅日記』
キョートット出版
2023年