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京大GCOE 時計台で語る最先端物理学

2008.12.18

11月30日、時計台百周年記念ホールで「宇宙と物質の謎に迫る」をテーマにした市民講座が開かれた。本講座は今年度より新しくスタートしたグローバルCOEプログラムの一環として、最先端の物理学を一般市民に伝えることを目的に設立されたもの。今回は第1回にあたる。COEのテーマを「普遍性と創発性から紡ぐ次世代物理学」と銘打ち、大入りの会場の中で幕が切って落とされた。(麒)

グローバルCOEは、大学の国際競争力を高め、研究水準の向上と創造的な人材育成を図り研究拠点形成を目的とした文部科学省策定の補助金事業。平成14年度以来の21世紀COEを継承しており、本学においては今回の講座が新プログラムを認知する「お目見え」の場になったということになる。

講座は京大理学部教授が最先端の研究を一般市民向けに解説するもので、今回は山本潤・物理学第一教室教授、太田耕司・宇宙物理学教室教授、江口徹・基礎物理学研究所所長が担当した。

講座の開会にあたっては川合光・物理学第二教室教授が、物理の基本法則からは容易に演繹できない現象を表す「創発性」というタームを紹介。大徳寺元管長の「円相 無一物中無尽蔵」という言葉も引いて、最先端物理学の境地が興味深く語られた。

山本教授の研究対象は「ソフトマター」と呼ばれるもので、これは我々の普段目にしているマクロな世界と、量子力学で扱われるミクロな世界の中間に位置する独特の大きさを持った物質の動きを記述するもの。分子間に働く分子間力と呼ばれる力が,遠すぎても近すぎても働かないことから、古典力学・量子力学双方の理論の体系からこぼれおちる特殊な現象が観測されている。液晶ディスプレイが代表的な応用例だが、生き物の細胞などの構造がソフトマターに近く、予想を超えた分野への展開が期待されている研究テーマである。

太田教授は「銀河の誕生と成長の謎に迫る」という題で、一転して宇宙の大きなスケールについて講演した。太陽をスイカのサイズと考えて時計台に置くと、遠い惑星は三条京阪まで行くという。遠くの銀河を見ることで昔の銀河の様態がわかるという理論に基づき、太田教授は現在、生まれたての銀河を観測しているが、銀河が成長してどのようになるかは未だ予測できず、今後の課題であると言う。

江口教授は「アインシュタインと宇宙の謎」と題して、アインシュタインを起点として物理学の歴史を解説し、現代物理の花形とも言える大統一理論や超弦理論の予想に至る壮大な物理学の世界像を語った。面白いのは、あらゆる相互作用を統合したゲージ理論で語られる説明によれば、我々の住む宇宙の他に10の300乗の数の宇宙が存在しているという。さらに、ビッグバン以前の時間関係すらない因果律の崩壊した空間という概念はSFの世界を彷彿させる。

会場の時計台百周年記念ホールには大勢の市民が来場し、激しい質問も数々飛んで最先端物理への関心の深さが伝わる熱狂振りであった。4時間の長丁場も、見頃の紅葉に勝る興奮に包まれていたようだ。

《本紙に写真掲載》