文化

第二の人生をキャンパスで送る 瀧本哲哉『定年後にもう一度大学生になる』

2022.10.01

本書は、59歳で京都大学経済学部に入学した著者による、大学再入学の手記である。次男の通う北海道大に惹かれ、56歳から受験勉強をはじめた著者が、自らの受験経験や学部時代の体験を綴り、大学での「学び」の楽しさを説いている。

前半では、著者の大学生活に焦点をあてており、話題は吉田寮での共同生活や、大学での学修に及ぶ。多様な学生を受け入れる吉田寮の雰囲気は、自らの興味の赴くままに学び続ける著者の姿勢に大きな影響を与えたそうだ。講義中の質疑応答やゼミナールでの議論では、すべての学生が平等に扱われる。著者は年齢を理由に区別されることはなく、思いのままに教員に質問を投げかけ、積極的に議論に参加したという。

社会人が大学での研究を志す場合、院の社会人枠に応募するという選択肢もあるものの、著者は多様な科目の履修や若者との交流を魅力としてあげ、学部入学をすすめている。

後半では話題が大学受験に移り、著者が仕事を続けながら受験勉強を進める中で実践した勉強法を紹介している。社会人ならではの逸話もあるものの、過去問や参考書の使い方など、10代の受験生でも参考になる内容だ。

本書を通して強調されているのが、同じキャンパスで学ぶ若い学生との交流である。ノートの見せあいや、下宿での会食など、学生同士のつきあいを通じて、著者自身が若返ったような感覚になったそうだ。経済学部に所属していた著者は、金融機関での勤務経験で培った感覚が学部での学びに役立ったと感じる一方、会社勤めの経験をもたない学生の斬新な発想や意見にも刺激されたという。著者は異なる世代が同じ学生として交流する意義は小さくないと指摘。グローバル化の風潮の中で学生の国籍が多様化してきたように、学生の年齢の多様性も広がっていくことを期待する。立場や世代が異なる学生同士が机を並べることで、思考の幅が広がり、議論が深まることもあるだろう。若い学生もまた、自分たちの3倍近く生きてきた著者の物の観方に大きな刺激を受けたに違いない。

本書は主に大学再入学を目指す社会人に向けた指南書という体裁をとっているが、著者の学生生活や、自らの興味・関心を追求する学習への姿勢は、世代を超えた「学び」の本質に迫るものである。齢の離れた学生どうしの交流を通して、多様性の尊重がどういうものか、その一端を窺うこともでき、自由・調和を根幹とする学びの場のあるべき一つの姿を示唆する。年齢や立場に関係なく、「学び」を志すすべての人に一読を薦めたい一冊である。

『定年後にもう一度大学生になる』
著者:瀧本哲哉
出版社:ダイヤモンド社
発行:2022年6月14日

関連記事