〈書評〉今することを決めるために 『武器としての決断思考』(2022.04.16)

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この本は、京大で教鞭を執っていた瀧本哲史による講義形式の実用書である。2011年9月、東日本大震災の半年後に発行された。当時著者は京都大学に客員准教授として赴任し「意思決定論」「企業論」などの授業を担当していた。原発廃止の賛否を含む多様な例を取り上げながら、競技ディベートをどう実生活の意思決定に転用するかを論じている。そして、人生の典型が無くなり一人ひとりが決断を多く迫られる現代日本で生きるための「武器」を読者に与えるものになっている。

まずディベート思考がなぜ必要なのかの前提として、そのとき考えうる最善の結論を自分で導き行動に移すことの大事さを著者は強く説く。「正解」なんてものはないこと、自分で考え行動を伴う結論を出す必要性を随所で挙げ、ディベート思考の有用性を職業選択やビジネスなどの例に基づいて説明している。

次の本論では、陥りがちな誤断を網羅しつつ、競技ディベートの方法論をどう生活に取り入れるか例証している。ここでいう競技ディベートは、ランダムに割り当てられる賛成反対いずれかの立場で、交互に反論し主張を補強しながら、最後に審査をする第三者により説得力があると判定されることを競うものである。問いの立て方、下準備の仕方、議論の進め方、審査の仕方に分け、内容整理の箇条書きをこまめに用いながら解説されているため、わかりやすい。たとえば、問いを立てる際、答えが出るような具体的行動の是非を取り上げるべきという。筆者はあくまでも実生活での意思決定を補助するためにディベートを方法的に使うことを薦めているためだ。高校時代ディベートを齧っていた自分だが、競技では問いは事前に与えられる。問いの立て方を解説したこの箇所は特に自分の思考を見直すきっかけになった。

例として大学生に身近なもので言えば、就職活動が挙げられている。第二志望群のX社からしか内定をもらえていない大学4年生のA君が、就活を続けるべきかという議題だ。メリットは「X社よりも、より良い会社に就職できる可能性がある」「就活自体を成長の機会として活用できる」だ。デメリットは「就活を続けることで、さらに多くの時間を消費することになる」「研修やインターンに集中できないので、入社後のパフォーマンスや評価に悪影響が出る」である。たとえば、1つめのメリット「より良い会社に就職できる可能性がある」に関しては、メリットの3条件①内因性(就活を続けない限りX社より良い会社に修飾することはできない)②重要性(仕事選びは人生を左右する選択である)③解決性(就活を続ければ他のよりよい会社に巡り合える)の観点から有効である。更にそれぞれの論点に対して両立場から反駁を繰り返しながら比較検討する。

繰り返しディベートの有用性を説いた後に、筆者が、両立場の勝敗は主観に基づいて決められるものだ、と述べるのが意外だ。徹底して客観的な議論を求めたにもかかわらず、突き詰めた先にあるのが「価値観に基づいた」主観的判断だというのは、根本的な一番かゆいところに手が届かない残念さがある。また、誰もが意志決定において多かれ少なかれ物事の美点欠点を天秤にかけるものだし、ディベートを用いる意義についても新しい議論は無いように感じた。ただ、言語化されることで頭が整理されるのにくわえ、多くの例や誤りへの指摘から自分の思考のクセに気づくことができる。その日の夕食から将来の進路や人生設計まで、たくさんのことを決めなくてはいけない私たち大学生に、この本が与えるヒントはきっと多いに違いない。(怜)

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『武器としての決断思考』
著者:瀧本哲史(たきもと・てつふみ)
出版社:星海社
発行日:2011年9月
価格:820円(税別)


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