文化

〈書評〉『ホセ・ムヒカ 日本人に伝えたい本当のメッセージ』

2017.03.16

ウルグアイ前大統領から考えるヒントを

本書は朝日新聞社の記者である筆者が、ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカ氏を取材し、その言行、思想、経歴を著述し、日本社会に問題提起を行うものである。「私が思う『貧しい人』とは、限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。でも私は少しのモノで満足して生きている。質素なだけで、貧しくはない」。ムヒカ氏はそう言って「世界で一番貧しい大統領」という呼び名を否定し、独自の哲学を語る。ただ机上の空論を弄ぶだけではない。筆者は彼を「言行一致の政治家」と呼ぶ。その言葉は理想と現実が乖離している日本の人々の心に刺さる。これは、一つの結論を出すというより、現在の日本の社会へ疑問を投げかけ、ムヒカ氏から考えるヒントを得る書である。

まず本書からムヒカ氏の略歴を紹介する。10代の頃から路上で花を売り、貧しい母子家庭に育ったムヒカ氏は、国民党に入り、人民連合を結成するが選挙で大敗。武力闘争に加わり、13年間収監され、ウルグアイが民政に移行するとともに解放される。所属していたグループ、トゥパモロスは拡大戦線に加入。1994年に初当選、2010年にはムヒカ政権が誕生し、大麻の自由化、同性婚の合法化、貧困者向けの住宅建設事業を手掛けた。

ムヒカ氏が苦難も含めた多様な経験をしたことで庶民の言葉で語りかけることができ、地に足のついた政策を実行できたことを筆者は指摘している。また、異なる勢力が議論を重ねながら共存する拡大戦線のあり方も見習うところが大きいという。そういった政治姿勢を裏打ちするムヒカ氏の思想が本書の核となっている。大量消費社会への批判と質素に生きる事の大切さをムヒカ氏は説く。

筆者は多少ムヒカ氏への称賛一辺倒なところはあるが、自身が持ったムヒカ氏に対する疑問は本書の中で解消している。また編集されていない生の言葉を多く含むことで、読者に解釈の余地を与えている。写真や人々の描写が豊富なことから、読者はさながら筆者とウルグアイや日本を飛び回り、人間と語り合っているような気持ちになれるだろう。(竹)

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