文化

◆◇法学会春季学術講演会◇◆

2015.05.01

4月16日、法経本館第1教室で法学会春季学術講演会が開かれた。法学研究科の増田史子准教授と森川輝一教授が登壇し、研究に基づいた講演をした。

前半は増田准教授が壇に立った。「海の法秩序と運送法・海商法改正」というテーマの講演では、最初に改正が検討されている運送法・海商法の現状を説明した。その上で、規程の見直しにおける論点を解説した。

続けて、森川教授が「『政治的なるもの』の行方――アーレント研究の視角から」と題して講演した。

冷戦終結とともに、世界は二極対立という安定した指針を失い、政治の基本的な諸問題に直面することになった。そこで左派・右派などの範疇ではとらえきれない思想の持ち主であるアーレントが注目されているのだという。

ユダヤ人のアーレントは、第二次世界大戦の際にドイツからパリへと逃れた。しかし、そこでも敵国民として収容所に入れられ、危うく命を落としかける。この間、彼女は居場所を失い世界を漂流する「難民」だった。難民には、ある特定の人権だけでなく、人権を持つ権利も与えられない。

「アーレントは、『近代世界はこうした難民を生み出し続けている』と説いた」と森川教授は話す。帝国主義や全体主義、そして資本主義は、人を機械的に動かそうとする無限の運動である。こうした、個人が全体に組み込まれてしまうような社会では、人々は他者との関係を絶たれ孤立し、難民となるのだという。

アーレントが見る近代世界の問題点を紹介した森川教授は、これに対する処方箋へと話を移した。人々が抱える疎外感を克服するにはどうすればいいのだろうか。アーレントが考えた対策は、民衆の政治への参加だ。社会的な圧力から逃れ、安らぐことのできる空間を守るためには、自ら公的領域に出て行き、政治的市民として意見を交わさなければならない。政治参加によって、資本主義という荒波にのまれないための「島」をつくることの必要性をアーレントは説いた。

それでは、「公的領域に出る」、「政治市民になる」とはどういうことなのだろうか。それは、人と語り合うことだと森川教授は分析する。他人と言葉を交わしている時、私たちは相手を人として認めている。この相互承認が続く限り人と人との関係は続き、また非暴力のルールが暗黙のうちに保たれていて、暴力は行使されない。さらに人としての承認は人権を持つ権利を担保するから、難民にもなることはない。この言葉を介した交流こそが「政治的なるもの」の正体だ。小規模の人民の語り合いから自由の空間を無から作り上げ、それを積み重ねていけば自由で非主権的な共和国をつくることもできるとアーレントは考えていた。

最後に森川教授は「20世紀に起こった出来事から、私たちは世界を大きく変えようとする革命のような思想はどんな結果をもたらすかを学んでいる。今、政治における言葉の力の意味を考えなければならない」と述べ、講演を締めくくった。

法学会は法学部・法学研究科内の親睦団体。毎年春と秋に講演会を開催している。(B)

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