文化

環を広げる清掃活動へ 野口健氏 ~世界の霊峰、富士山、そして世界遺産~ 3R国際会議開催記念シンポジウム

2014.03.16

3月11日、百周年時計台記念館・百周年記念ホールにて、アルピニスト野口健氏による講演「世界の霊峰、富士山、そして世界遺産」が行われた。今回の講演は3月10日から12日にかけて京都大学時計台にて開かれた「3R国際会議」の開催記念として行われたもの。3R国際会議は、3R(ごみ削減のためのReduce・Reuse・Recycle)についての最新の研究や今後の方向性を世界の研究者、政策担当者たちが議論する、初めての国際的な学術会議である。UNEPなどの国際機関と連携した特別セッションが一般公開されたほか、企業・団体による展示イベントなど、3R・環境問題に関わるさまざまな催しも開かれた。

野口氏は、世界の名立たる山々の登頂に成功した登山家で、現在は講演会や自然教室などを通じて環境問題を伝える活動を行っている。登山家として初期の頃は、登山ゴミなどの問題にもさほど意識は向かなかったという野口氏。しかし、エベレストへの登山中に出会う外国人登山家たちから、日本人が捨てるゴミが多いという指摘を受けたことが、清掃活動を始めるきっかけになったという。

エベレストでの清掃活動を始めるにあたっては、現地のネパール人スタッフの協力が欠かせない。しかし、資金集めや高山病の危険性など抱える問題はさまざまだった。特に、ゴミを拾うという行為自体、カーストの低い人々が行うものとみなされていたこともあり、現地住民の理解がなかなか得られなかったという。しかし、清掃活動を続けていくうちに彼らの意識も変わっていき、ついには野口氏の力を借りず、自立してエベレストの清掃活動を続けるようになる。彼らの精力的な活動はメディアの注目も集めるようになり、やがて政府も含めて多くのネパール人たちが彼らの活動に協力し始めた。結果として、現在のネパールではこれまでにはないほど清掃意識が高まっているそうだ。

また、その後取り組み始めた富士山の清掃活動でも、最初はうまくいかない時期が続いたという。活動を始めて2~3年のうちはなかなか人が集まらず、「周囲の人たちとの意見の食い違いや不法投棄を行う人々からの嫌がらせなどもあり、何度もあきらめたくなった」と話す野口氏。しかし、ある程度活動を続けていくうちに参加者も多くなっていき、今では毎年7000人以上が野口氏の行う清掃活動に参加し、活動以外の機会でも自主的にゴミを拾う登山者が増えているという。

野口氏は、これまでの活動を振り返り「環境問題は、自然に対して取り組むものというイメージを持っていたが、実際はむしろ人間社会を相手取るものだということに気付いた」と語る。そして、最後に「色々なところで発言しているのだから、途中でやめるわけにもいかない。あきらめたい時もあったが、やはりこうした地道な活動を通して、活動の環をどれだけ広げていけるかが重要なことだと思う。今後も活動を続けていきたい」と話し、講演を締めくくった。    (真)

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