ともに稼ぐ農業を目指して「次世代を担う農企業経営とそのネットワーク」
2013.12.16
12月7日、京都大学北部総合研究棟益川ホールにて、秋季第4回シンポジウム「次世代を担う農企業経営とそのネットワーク」が開かれた。このシンポジウムは、京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻が寄附講座として、広く一般に向けて公開しており、今回は本シンポジウムの開催から2年目となる。
初めに、京都大学大学院農学研究科教授の小田滋晃氏と農林水産産業協同投資株式会社社長の本井秀樹氏が基調講演を行った。
小田氏は、「六次産業化を駆動する農企業戦略」と題する講演を行った。
まず、六次産業化は、農家に多様な事業に携わる機会を提供するため、農家の収入を安定的にする。また、生産から流通まで一地域で完結できるため、地域活性化をもたらすなど、多くのメリットを指摘した。そして、六次産業化を進めるためには、グループ内に一定の規律や方向性を与えるガバナンスや、グループ内競争を導入し、企業を活性化させることが重要である、と前回までの講義内容を振り返った。
その上で、日本では六次産業化に似たものが以前から行われており、それらの例から今後の六次産業化の組織・事業パターンを想定できるとして、10の様式を示した。これらを様々な農業形態に合わせて採用していくことで、生産者、加工業者、商品販売者をまとめていくことができると述べた。そして、従来農家は、投資と経営を家族単位で行ってきたが、六次産業化が推進される中で様々な組織が関わり、農家の担うべき役割が縮小してきたと指摘。そのため、ガバナンスを重視して農家を含めたグループをバラバラにならないようにする必要があると語った。
本井氏は、「農業(金融)におけるファンドの役割」のタイトルで講演を行った。
まず、農林水産省が減反政策の廃止を打ち出したことなど、農業の大規模化を促している現状を確認し、農業に経営力がますます重要視されているとの見解を示した。そして、農業ファンドは、事業拡大や新規事業のために投資を行う必要のある農業経営主体に対して出資することで、資金を貸すとともにこれから期待をもって事業を進める助けとなると語った。
また、現在進められている六次産業化に対応して創設した六次化ファンドを紹介した。一次産業者は生産物を高く売ること、二次三次産業者は生産物を安く仕入れることを追求する傾向があるため、「六次産業には、農林漁業者と二次・三次産業者が利益相反関係にある側面も持つ」と問題点を指摘。その上で、「ファンドは事業がうまくいかなかった場合はファンド側がある程度補填するが、予想以上に利益が出た場合はお金を余分に返済してもらう。ファンドを使用することで、ファンド側と事業側で互いに利益を得られる関係を築いていきたい」と締めくくった。
基調講演の後には、パネリストによる事業報告がなされ、現在進められている活動が紹介された。パネリストは、今井聡氏(近畿農政局、経営・事業支援部、事業戦略課、課長補佐)、小寺悟司氏(兵庫西農業組合、営農生活部、営農指導課、課長代理)、佐々木美樹氏(つくばテクノロジーシード株式会社、代表取締役社長)、濱田和夫氏(株式会社滋賀有機ネットワーク相談役)、山田敏之氏(農業生産法人こと京都株式会社代表取締役社長)の5名であった。
続くパネルディスカッションでは、「地域内ネットワークを活用した新たな農企業経営の展開」をテーマとして、京都大学大学院農学研究科の長命洋佑特定准教授による質問に、パネリストが各自の事業で得た経験を通して回答した。
長命氏は、はじめに、生産者、地域、行政の三者間で築いているネットワークについて、これからの在り方を尋ねた。小寺氏は、「生産者とネットワークを築く上で大切となるのは、生産者に自信や期待を与えることである。そのために、原材料が最終的にできあがった商品を農家さんに意識させるなどの工夫を行っている」と語った。
また、生産者側の山田氏は、「農家の7~8割は企業と協同して事業に取り組もうとするのに後ろ向きであり、そのような農家の特質を踏まえた上で、信頼あるネットワークを築いていくべきだ」と答えた。
行政側には、「ネットワークを生かした日本の農業の強みをどのように発揮していけばよいか」との質問が寄せられた。それに対して今井氏は、「全国的に農業生産者は価格統制やリスク管理を目的に、水平的なネットワークを大切にしている。一方、行政では一次・二次・三次産業が連続した垂直的ネットワークの発展を推進しており、現場と施策のミスマッチが生じている」と指摘。これを解消するためには、「早い段階から農家さんと行政とがコミュニケーションをとって、相互の目的意識のギャップを埋めていく必要がある」と語った。
最後に兵庫野菜農家ネットワーク太陽の会会長の八木隆博氏が、「六次産業化を進める農企業のネットワークには、みんなで農家を育てていこうとする意識がある」と積極的に評価し、「高付加価値農業をどのように営んでいくかが、ネットワークを組んだ上での今後の目標となる」と展望を語り、シンポジウムを閉じた。なお、本講座は来年度3年目に開かれる春秋2回で、全6回が完結する。(千)
用語解説 【六次産業】第一次産業である農林漁業者が、第二次産業である加工、第三次産業である流通や販売にも提携していくこと。各産業の頭文字を掛け合わせて6となることから、六次産業となづけられている。東京大学名誉教授の今村奈良臣氏が提唱した。第一次産業従事者が農産物生産以外の事業にも携わることで、農林漁業者の雇用創出や所得向上が期待されている。なお、2010年には、「六次産業化法」(正式名称は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」)が成立し、第一次産業の振興や農業、漁業地域の活性化が進められている。
初めに、京都大学大学院農学研究科教授の小田滋晃氏と農林水産産業協同投資株式会社社長の本井秀樹氏が基調講演を行った。
小田氏は、「六次産業化を駆動する農企業戦略」と題する講演を行った。
まず、六次産業化は、農家に多様な事業に携わる機会を提供するため、農家の収入を安定的にする。また、生産から流通まで一地域で完結できるため、地域活性化をもたらすなど、多くのメリットを指摘した。そして、六次産業化を進めるためには、グループ内に一定の規律や方向性を与えるガバナンスや、グループ内競争を導入し、企業を活性化させることが重要である、と前回までの講義内容を振り返った。
その上で、日本では六次産業化に似たものが以前から行われており、それらの例から今後の六次産業化の組織・事業パターンを想定できるとして、10の様式を示した。これらを様々な農業形態に合わせて採用していくことで、生産者、加工業者、商品販売者をまとめていくことができると述べた。そして、従来農家は、投資と経営を家族単位で行ってきたが、六次産業化が推進される中で様々な組織が関わり、農家の担うべき役割が縮小してきたと指摘。そのため、ガバナンスを重視して農家を含めたグループをバラバラにならないようにする必要があると語った。
本井氏は、「農業(金融)におけるファンドの役割」のタイトルで講演を行った。
まず、農林水産省が減反政策の廃止を打ち出したことなど、農業の大規模化を促している現状を確認し、農業に経営力がますます重要視されているとの見解を示した。そして、農業ファンドは、事業拡大や新規事業のために投資を行う必要のある農業経営主体に対して出資することで、資金を貸すとともにこれから期待をもって事業を進める助けとなると語った。
また、現在進められている六次産業化に対応して創設した六次化ファンドを紹介した。一次産業者は生産物を高く売ること、二次三次産業者は生産物を安く仕入れることを追求する傾向があるため、「六次産業には、農林漁業者と二次・三次産業者が利益相反関係にある側面も持つ」と問題点を指摘。その上で、「ファンドは事業がうまくいかなかった場合はファンド側がある程度補填するが、予想以上に利益が出た場合はお金を余分に返済してもらう。ファンドを使用することで、ファンド側と事業側で互いに利益を得られる関係を築いていきたい」と締めくくった。
基調講演の後には、パネリストによる事業報告がなされ、現在進められている活動が紹介された。パネリストは、今井聡氏(近畿農政局、経営・事業支援部、事業戦略課、課長補佐)、小寺悟司氏(兵庫西農業組合、営農生活部、営農指導課、課長代理)、佐々木美樹氏(つくばテクノロジーシード株式会社、代表取締役社長)、濱田和夫氏(株式会社滋賀有機ネットワーク相談役)、山田敏之氏(農業生産法人こと京都株式会社代表取締役社長)の5名であった。
続くパネルディスカッションでは、「地域内ネットワークを活用した新たな農企業経営の展開」をテーマとして、京都大学大学院農学研究科の長命洋佑特定准教授による質問に、パネリストが各自の事業で得た経験を通して回答した。
長命氏は、はじめに、生産者、地域、行政の三者間で築いているネットワークについて、これからの在り方を尋ねた。小寺氏は、「生産者とネットワークを築く上で大切となるのは、生産者に自信や期待を与えることである。そのために、原材料が最終的にできあがった商品を農家さんに意識させるなどの工夫を行っている」と語った。
また、生産者側の山田氏は、「農家の7~8割は企業と協同して事業に取り組もうとするのに後ろ向きであり、そのような農家の特質を踏まえた上で、信頼あるネットワークを築いていくべきだ」と答えた。
行政側には、「ネットワークを生かした日本の農業の強みをどのように発揮していけばよいか」との質問が寄せられた。それに対して今井氏は、「全国的に農業生産者は価格統制やリスク管理を目的に、水平的なネットワークを大切にしている。一方、行政では一次・二次・三次産業が連続した垂直的ネットワークの発展を推進しており、現場と施策のミスマッチが生じている」と指摘。これを解消するためには、「早い段階から農家さんと行政とがコミュニケーションをとって、相互の目的意識のギャップを埋めていく必要がある」と語った。
最後に兵庫野菜農家ネットワーク太陽の会会長の八木隆博氏が、「六次産業化を進める農企業のネットワークには、みんなで農家を育てていこうとする意識がある」と積極的に評価し、「高付加価値農業をどのように営んでいくかが、ネットワークを組んだ上での今後の目標となる」と展望を語り、シンポジウムを閉じた。なお、本講座は来年度3年目に開かれる春秋2回で、全6回が完結する。(千)
用語解説 【六次産業】第一次産業である農林漁業者が、第二次産業である加工、第三次産業である流通や販売にも提携していくこと。各産業の頭文字を掛け合わせて6となることから、六次産業となづけられている。東京大学名誉教授の今村奈良臣氏が提唱した。第一次産業従事者が農産物生産以外の事業にも携わることで、農林漁業者の雇用創出や所得向上が期待されている。なお、2010年には、「六次産業化法」(正式名称は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」)が成立し、第一次産業の振興や農業、漁業地域の活性化が進められている。