ニュース

人々が考える倫理的規範を 上廣倫理研究部門開設記念シンポジウム

2013.08.01

7月24日、吉田キャンパス百周年時計台記念館・百周年記念ホールにて「CiRA上廣倫理研究部門開設記念シンポジウム iPS細胞から考える生命(いのち)へのまなざし」が開催された。このシンポジウムはCiRA(Center for iPS Cell Research and Application 京都大学iPS細胞研究所)の一部門である上廣倫理研究部門が4月に開設されたことを記念し開催された。当日は、京大内外の関係者や高校生など多数の人々が参加した。

シンポジウムは、CiRAの所長である山中伸弥教授の開会の挨拶に始まり、来賓挨拶が行われた後、再び山中教授が壇上に上がって30分程度の講演を行った。教授は自身のiPS研究について一通り概説した後、科学の発展に伴う倫理的な問題の解決について語り、「倫理的にどこまでが許されるかなどの基準は研究者たちだけで決めていくものでは決してなく、一般の人たちも含めた社会全体で決定していくものだ」と語った。

山中教授の講演後は、上廣倫理研究部門の関係者がそれぞれ講演を行った。まず、八代嘉美特定准教授が「伝えることからはじめるiPS細胞の時代」と題し、iPS細胞の発見によって起こる様々な倫理的問題を紹介。新しい技術の発見に伴い生ずる人々の過剰な期待や誤解に対し、正確な情報を伝えていくことの重要性を語った。

次に部門長である藤田みさお特定准教授は「生命倫理・調査研究でわかること」というテーマに沿い、生体肝移植を行う際に研究者・医療対象者・社会そのものなど様々な局面に生ずる問題点を考察した。この中で藤田氏は現状把握の大切さを強調。社会の実情にあった建設的な意見を築いていくためには、実際の現場はどうなっているのかなどの情報収集をすることが重要であるという。

さらに、鈴木美香特定研究員の講演では、「人を対象に研究するとは?」というテーマを設定。iPS研究にも欠かせない臨床実験の必要性とそれを行うための諸条件が紹介され、研究者が社会との信頼関係を築きながら研究活動をしていくべきだと話した。

シンポジウムの最後には、京大内外から5名のパネリストを招き、八代氏も加えたパネル・ディスカッションの時間が設けられた。再生医学の専門的な内容をはじめとして、社会の制度的問題や児玉聡文学研究科准教授による倫理学の話などさまざまな話題が飛び出し、iPS細胞という一つの医学的研究が社会の様々な側面に影響を与えうるものだということがよく分かる内容であった。

またパネル・ディスカッションの最後には、出席者からの質疑応答の時間も取られ、最終質問には山中氏自らが答える場面もあった。山中氏は「このように一般の人たちが関心を持ち意見していく場を設けることも大切」と話し、このシンポジウムの意義についても言及して締めくくった。(真)

関連記事