文化

春秋講義 岡田知弘・公共政策大学院教授 「ハード事業に頼らない防災のかたち」

2012.10.01

9月16日、百周年時計台記念館・百周年記念ホールにて、岡田知弘・公共政策大学院教授による春秋講義「大災害から暮らしと地域を守るために-3・11から学ぶ-」が行われた。春秋講義は京都大学の学術研究を学内外へ広く発信する目的で、年に2回、春と秋に一般の方を対象に無償で開講されている。

今年の秋期メインテーマは「危機管理」。テーマに沿って4回の講義が行われ、今回はその2回目にあたる。岡田教授は地域経済学の視点から過去の震災と地域復興を分析し、今後予想される西日本大震災に向けた危機管理のあり方を語った。

はじめに岡田教授は、昨年の東日本大震災によって露呈した問題について指摘した。1つ目は東京一極集中型の国土構造の脆さ。東京一極集中は同時に地方経済の衰退をもたらす。その結果、今回の震災で首都圏では経済危機が、三陸地域では産業衰退による復興の遅れが生じたという。

2つ目は、原発の安全神話が崩壊し、原発依存のエネルギー政策の転換が迫られたことであり、とくに老朽原発が集中している若狭原発群の問題を指摘した。

3つ目は市町村合併・広域自治体の弊害。例えば、今回被災した仙台市若林区では2001年以降、行政改革の一環として3つの支所がなくなり、区の職員は約30人削減されていた。これらが原因で、震災後の安否確認や救援に大幅な支障をきたし、二次的な被害が拡大したという。加えて、区役所に経済課がなく地域の実情に合った復旧計画が立てられない事が復興の足かせになっている、と話す。

さらに、岡田教授は阪神・淡路大震災と中越大震災を例に、地域復興のあり方についても言及した。阪神・淡路大震災ではコミュニティのつながりを無視して、被災者を仮設住宅に「収容」したことで600人もの孤独死をもたらした。一方で、中越大震災で大きな被害を受けた山古志村は、全村避難して仮設住宅へ引っ越した後も旧村、集落単位で再編しコミュニティを維持させた。そして、村が主導してコミュニティ中心の復興計画を立てることによって、3年後には7割の住民が村に戻る事が出来たうえに、新たな特産品まで生まれたという。これら2つの経験は基礎自治体を中心とした住民の合意にもとづく生活再建の重要性を示している、と語る。

岡田教授はこうした過去の震災の教訓を踏まえ、危機管理について防災や減災といったハード事業のみならず、東京への人口・政治経済力集中の抑制と地域経済の育成、国内農林業の再生や大規模広域自治体制度の見直しといったソフト面での強化が必要だと話した。そして、とりわけ京都市にとっては高齢化の進む住民同士のコミュニティの弱さや区役所の防災機能の弱さなどが課題になるだろうと述べ、講義を締めくくった。(羊)