文化

〈講演会録〉戦後日本のなかの沖縄―日米安保・密約とメディア 質問編

2012.10.01

〈講演会録〉戦後日本のなかの沖縄―日米安保・密約とメディア 後編(2012.10.01)

質問:日米地位協定の密約についてお聞きしたいと思います。米軍、米軍関係者が事故を起こした場合の第一次裁判権についてですが、アメリカは国外105カ国ほどに米軍基地を所有しています(2002年現在)。今はもっと増えていると思いますが、これらの基地の所有は、日本と取り決めているような地位協定に基づくものなのでしょうか。これがヨーロッパ(例:イタリア、ドイツ)ですと、基地を作る前に、その国の裁判権に基づいて当地の警察・軍が介入し、米軍を押さえることができるようですが……。

二点目になりますが、以前テレビドラマ「運命の人」(注:「西山事件」を題材にしたとされる、山崎豊子の原作に基づいたドラマ。2012年1月から3月にTBS系列で放映)を見ました。(山崎豊子の)原作にないような部分もいくつかありましたが、西山さん自身はあのドラマの脚色についてどのように思われましたか。例えば最初、崖から飛び降りる場面がありましたが、西山さんはそのシーンについて何か関与されたのでしょうか。



回答:「地位協定」は、外国の例に比べても日本のものはかなりの不平等協定であり、後れていることが指摘されています。地位協定は、根本をたどれば日米安保条約の受け取り方に端を発していると思っています。これについてはきちっとした認識を持ち直さない限り、その上部構造である地位協定の問題も変わらないと思います。日本は「守ってもらっている」。守ってもらっているからあまり強く言い返せない、という観念が常に支配している。1960年安保からずっと派生してきたそのような思想の傾向が根を張っているのです。ですからいくら言っても政府の方は反論しません。いくらテクニカルな、合理主義的なことを言ってもダメです―根っこにある問題を変えない限り。

アメリカの戦略が変われば、日本の戦略も必ず変わってきました。アメリカの戦略というのは、10年単位でずっと変わっている。すると、地位協定の運用も変わっていくんです。一番最初が冷戦構造、その次が超大国・アメリカの時代。超大国・アメリカの世界戦略ができあがる。すると、今度はアメリカの地位が落ち始める。「斜陽超大国・アメリカ」の戦略ができあがります。日本は必ずそれに対応していきます。そこに問題があります。守ってもらっている以上、対応しなきゃいけない。現在の安保はもはや「守ってもらっている」という論理ではありません。アメリカの世界戦略に日本が対応する、というものに変わってしまいました。根本のところで発想の転換がないからいけないのです。そういう原点がある。裁判権の問題にしろ、身柄拘束の問題にしろ、です。

第二点についてですが、あのドラマで私はモデルとなっているだけです。原作者でもなければテレビのプロデューサーでもありません。あれには製作にせよ内容にせよ、一切ノータッチです。渡辺恒雄は私がタッチしているという抗議めいたことを書いていますが、私がタッチしていないということでちゃんと返事をしています。原作にしても、現実とはかなり遊離しているものです。それと、私自身沖縄には何度も行っていますが、最後の「崖から」というのは完全なフィクションです。私が自殺・自殺未遂をして一番喜ぶのは政府・与党です。ですから、そんなことは絶対にしません。また、もし自殺していれば西山問題もありえず、沖縄密約は自然消滅していたでしょう。勝手に殺さないでください(笑)           



質問:ジャーナリズムのあり方についてお聞きしたいと思います。沖縄密約の情報をキャッチし、裏付けもされていたと思いますが、なぜ日本社会党(当時)の横路孝弘議員にリークしたのでしょうか。他にそれを伝えるような策はなかったのでしょうか。



回答:こう言ってはなんですが、私はいわゆる「特ダネ記者」でした。政治部時代、特ダネを探すことにかけて私の右に出る人はいなかったでしょう。そしてそれを書かないとなると、どうして書かなかったのか、ということになるのですね。また、あの問題を外務省でトレースしていたのは私だけでした。社会党はネタがないものですから、それを追い続けている私のことを見ている。何かこいつは持っているぞ、と。横路の東大時代の同級生が政治部のどこかにいたこともあって、彼がやって来るわけです―それも、しょっちゅう。それで、何か情報を出してくれよ、と言ってきます。私の方は冗談じゃない、出せないと断り続けてきた、という経緯はありました。

私はその当時、外務省のキャップ、すなわちボス的な立場でした。安川外務審という人がいたのですが、故郷が近いということもあって、私は彼と意気投合します。兄弟のようになる。そのくらい親しい間柄だったので、「安川―西山ホットライン」とも言われていました。そこまでいっているのだから、新聞に書いてしまったら調査の対象が絞られてしまう、という事情がありました。そこで、国民に知らせる手段は何があるか、と考えます。だから、国権の最高機関で論じてもらうことにしました。第三の選択をしたわけですね。私は新聞記者、しかも一番「書く」記者であったのですが、書きたくても書けない時がある。そういう切羽詰まったファクターがあったために、第三の選択、最も悪い選択を迫られることになったのです。.



パネリスト:今の質問に関連して、私にも考えることがありました。丸紅がインドネシアでマングローブを違法に伐採していたという事件があり、うちの新聞社で書かせることになったのですが、それがすごく大変でした。というのは、丸紅の支店長と私のところの外信部長が東京外大の同期生だったんです。それだけの関係で潰そうとしてくるんですね。だから西山さんが記事を書いていたとしても、毎日新聞というところのメカニズム上、ニュースソースを守っているということはあったと思います。皆さんは「そういう特ダネならちゃんと新聞に書けばいいじゃないか」とお思いになるかもしれませんが、自分の勤めているところがそういうところを保証するかどうか、ということは考えていただきたいと思います。



回答:新聞社のいう「国家機密」ということについて考えなければいけないのは、外交交渉のプロセスというのは全て機密になる、ということなんですね。まず部内秘というのがあります。原子力潜水艦の特ダネの際、外務次官が記者会見で、なぜこれが表に出たのか分からないと言いました。この件については三人しか知らなかったんですよ。これが部内秘です。その次に極秘がある。そして極秘の下に秘密があります。このように3つに分かれている。外務省は徹底解明します。とある件で私は後をつけられることになりました。アメリカ大使館からも調査が入りました。だけれども、それはすぐに公表され、その途端捜査はスーッと消えてしまった。機密といったって、やがて発表されるものはみんな大したことない。その瞬間に機密でなくなるわけですから。そして、そのプロセスにおいて抜かれた機密も機密ではなくなっていきます。結局、何を国家機密にするかというと、違法機密であり違憲機密なのです。だから全部破り捨て、破棄する。このサイクルを潰すのがメディアの仕事です。

「特ダネ記者」といったって大したことはありません。やがてたいていの機密はスーッと消えてしまう。一番大事なのは永久機密であり、違法機密であり、違憲秘密なんです。そしてそれが機密の核心、権力の中枢にあたるものです。これに肉薄するためには、若干の非合法性さえ伴う。そんなのはすぐに取れるものではなく、鉄壁に守られています。一対一で向かってもそう簡単には取れません。だから、アメリカの情報開示でしか出て来なかった。日本で機密漏洩したケースが他にあったでしょうか。そう、取れないのです。それくらいすごいのです。本来、メディアと国家の緊張関係はそういうところから発生します。向こうはそういう機密をどっさりと抱えている。でも、日本から出たことは一度もありません。全てアメリカです。日本のメディアからはメッセンジャーが出て来ません。

裁判所にしても、こちらの違法性については厳しいけれども、権力の違法性には全くそうではない。最高裁判所の私たちに対する判決は偽証の上に成り立っていますから、もし今真剣に裁判をすればこちらが勝つでしょう。沖縄返還密約の金額は3億2000万ドルのつかみ金でまとまったのだ、という判決ですね。冗談じゃありません、同意したのは6億ドルです。その3億2000万ドルというお金も国会でちゃんと議決したのだから、それくらいのテクニックがあってもいいんじゃないか、と判決を下したのです。しかしそんなつかみ金というのは嘘なのです。年間400万ドルというのも、みんな上乗せしていくことにする。それは国会を欺くことになっているのではないか。ですから、最高裁の言うことは全部嘘です。最高裁の判事になんて面と向かえるものじゃありません。

違法性というのは、両方について論じなければいけないはずです。相手の違法性、それは全て偽証であることです。相手が偽証した、ということが認められれば裁判なんて全部吹っ飛ぶことになるでしょう。違法機密事態、保護され得ない機密ですからね。国家機密には三つの要件があります。まず公知されていないこと、すなわち非公知性ですね。もう一つは保護されるべきものであること。この二つが成り立った時に機密となります。これが最後まで争われる機密です。ですが違法機密、違憲機密であれば保護され得ません。私の裁判では、相手が偽証の上に立っていた上に、保護されるべき機密という前提も成り立たなかったはずなのです。ですから、そもそも裁判なんてありえなかった。

何が言いたいのかというと、国家機密というのは、権力の究極の「政治犯罪」です。それはメディアとの間に強い緊張関係を生みます。なのに「へえ、そうでございますか」「あの件、どうなりましたか」という態度で挑んでも、永久機密なんて抜けるわけがありません。

実際に肉薄まで行き着いたのは私だけでしょう。ですから、私はいつかは引っかかるとは思っていました。ですが、引っかかって、罰せられてもいいのです。しかし、最高裁判決が間違いであったと言ったメディアはひとつもありません。「不平等条約」どころのことではありません。言わせてもらえば、学者もダメ。学者なんて偉そうなことは言っているけれども、実践論的な意味では本当のメディア論をやっていない、と思います。そんな甘っちょろいものではないのです―国家権力とメディアが緊張関係を持った時には。

経済的にはそうでないかもしれませんが、そういう意味では欧米というのは先進国です。行政の間違いについては、徹底的に追及をします。イラク戦争になぜ加担したかにせよ。メディアが追及をしない日本は、イラク戦争に直接加担していたのです。それは航空自衛隊の違憲行動で明らかです。しかしメディアは何も言いません。日本という国では、そういう状況が改善されないままずっと続いてきたんです。結局、問題はそういうことなのですね。(了)

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