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京大スピリッツ 三千年前中国に唐揚げは存在したか

2011.07.27

6月28日、時計台記念館二階の国際交流ホールにて冨谷至教授(人文科学研究所)による講演会「中国三千年の味を求めて―歴史の考証とは、歴史的思考とは」が開かれた。この講演会は、学部新入生を対象としたリレー形式の講演会「京大スピリッツへの招待」の第5回目にあたる。

東洋史で特に法律・刑罰を専門とする冨谷至教授は、自身が中華料理に関心を抱いたエピソードを紹介した。それは以前一般教養向けの講義で試験を実施したところ、解答用紙に学生が勝手に「うまい餃子の店」を教える書き込みをしていたこと。そしてテレビのコマーシャルで「中国四千年の味」の文言を見て、四千年前にラーメンは存在したか調べてやろうと思ったことだという。

講演会では、謎に満ちた食の歴史が解明される契機が説明された。文献として残るのは特殊な歴史的事件であり、当り前とされる日々の生活に関する記述はほとんどない。歴史の中でも衣食住の歴史は解明が一番難しいという。そんな中、湖南省長沙市で1973年、前漢時代の墓から副葬品として多数の料理が発掘された。皿に入った穀物、卵の入った竹籠、ウサギの骨などだった。死後の生活が墓の下で営まれると信じられていたため、生前愛好していた料理を食べられる状態で入れ、それがミイラとなったのだという。遺体とともに埋葬された竹簡が副葬品の料理をリスト化しており、これによれば生モノ(生肉、刺身など)、乾物(干肉など)、漬物(塩辛、マリネなど)、加熱料理(スープ、焼き肉、包み焼、燻製)などが確認された。

現在の中華料理はいつ誕生したか。中華料理の調理方法の中心である、揚げる・炒めるには強火で素早く加熱する火力と中華鍋が必要となる。木材から火力のある石炭、さらに匂いを減じたコークスが出現するのは9世紀。鉄が紀元前5世紀に中国へ伝来し武具、農具へ利用されたが、料理器具に鉄が利用できる必要条件が揃ったのは鉄不足の六朝時代後、再び回復する9-10世紀ころと考えられる。現在の中華料理ができる下地はそろっても、食文化は保守的であり突如9世紀ごろ出現したとは考えにくい。こういったことなどから炒め物・揚げ物を中心とした今日の中華料理は14-15世紀の明清時代以降のものという。すなわち三千年前にから揚げが存在した可能性は99%ない。

またこれらの問題は、産業革命や西洋と中国の発展の違いといった、より重要な問題をも含んでいるという。質疑応答では「歴史的思考法において必要となる、普通のことを普通に考えるとはどういうことか」「他分野において歴史的思考法はどのような意味を持つか」といった質問がなされた。(鴨)

《本紙に写真掲載》

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