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北川氏・坂口氏 ノーベル賞受賞

2025.10.16

北川氏・坂口氏 ノーベル賞受賞

会見で記者からの質問に答える北川氏

スウェーデンの王立科学アカデミーは10月8日、ノーベル化学賞を北川進・高等研究院特別教授ら3人に、6日には同生理学・医学賞を坂口志文・名誉教授ら3人に贈ると発表した。2人はともに京大出身で、北川氏は工学部、坂口氏は医学部の卒業生。また、北川氏は1998年から現在まで、坂口氏は99年から2011年まで京大で研究教育に携わっており、坂口氏は現在大阪大学に所属する。京大出身の研究者2名が同年にノーベル賞を受賞するのは初めて。


北川進特別教授 化学賞 これからは「気体の時代」


北川氏の受賞は多孔性配位高分子(PCP)の開発によるもの。PCPは内部に多くの微細な穴を持ち、その穴に気体を吸着する性質を持つ多孔性材料の一種。身近な例では脱臭に用いられる活性炭や、乾燥剤として知られるシリカゲルも多孔性材料に分類される。「金属有機構造体(MOF)」とも呼ばれるPCPは、金属イオンと有機物の配位結合を利用して穴の大きさや性質を変えられ、従来の多孔性材料にはない画期的な自由度の高さを持つのが特徴。北川氏は1997年、PCPを世界で初めて合成し、気体物質の貯蔵や分離などの応用分野に大きな影響を与えた。

8日の受賞発表後の会見で北川氏は、世界中に存在する空気を「目に見えない金」と表現したうえで、これからは「気体の時代」だと語った。記者から後進へのメッセージを求められると、フランスの生化学者・パスツールの「幸運は準備された心に宿る」という言葉を引用し、「色々な経験が将来のためになる」とエールを送った。京大の環境については「誰もやっていない面白いことをやる」という精神的な自由があると話し、設備よりも「連綿と続く学術の精神」に恵まれたのだと笑った。

石破首相が「昨日は眠れましたか」と北川氏を労う場面もあった



翌9日には時計台前で北川氏に花束が贈呈された。その後の会見で本紙の取材に対し、これから研究者を目指す若い世代に向けては「やることは山積しているのでますます学問にのめり込んでほしい」とメッセージを送った。午後には石破茂首相から祝電を受けた。石破首相はパスツールの言葉をいくつか引用したうえで、主に北川氏の研究姿勢について尋ねていた。北川氏は国への要望として、基礎研究への支援拡充を訴えた。

北川氏は2016年から高等研究院に所属している。高等研究院は京大のトップ研究者が「従来の定年制度にとらわれず」研究活動を継続できるよう、総長の強い指揮のもと運営される研究組織。傘下には北川氏が07年から23年まで所属した物質—細胞統合システム拠点(iCeMS)を有する。

24年から京大の理事・副学長(研究推進担当)を務める北川氏は、大学改革においても中心的な役割を果たしている。23年に実施した本紙のインタビューに対して、国際卓越研究大学への申請により世界中から「研究資金を集められる優秀な人を呼び込む」ことができると期待感を示していた(本紙23年1月16日号)。また、湊長博総長とは長年の交流があり、8日の記者会見では湊総長が北川氏を「友人」と紹介する場面もあった。

京大は10月18日、北川氏の文化勲章の受章と文化功労者への選定が決まったと明かした。北川氏はコメントで、「身に余るほどの大きな栄誉」と喜びをあらわにした。

北川氏は1974年に京大工学部石油化学科(現・理工化学科)を卒業。近畿大学理工学部助教授などを経て98年に京大大学院工学研究科教授、2013年にiCeMS拠点長・教授。17年から高等研究院特別教授(現職)。24年から理事・副学長(現職)。

職員から花束を受け取った北川氏



坂口志文名誉教授 生理学・医学賞「ブレーキ役」免疫細胞発見で


坂口氏の受賞は、自己組織への免疫反応を抑制する「制御性T細胞」の発見とその免疫抑制メカニズムの解明によるもの。T細胞は、免疫系の司令塔としてほかの免疫細胞を活性化したり、病原体に感染した細胞を破壊したりする免疫細胞。中には自己に由来する成分を認識して攻撃してしまうT細胞もあり、1型糖尿病や多発性硬化症など自己免疫疾患を引き起こす原因として知られていた。坂口氏が発見した制御性T細胞は、このようなT細胞の「暴走」を抑制するブレーキ役として働く。制御性T細胞の働きを強めて臓器移植の拒否反応を抑えたり、逆に弱めて自己の細胞に由来するがん細胞への免疫反応を促進したりするなど、医療への応用も期待されている。

6日の記者会見で坂口氏は、「うれしい驚きに尽きる」と受賞の感想を述べた。国による研究支援について尋ねられると、「日本の研究資金は非常に少ない。GDPが同程度のドイツと比べて、免疫分野では資金規模が3分の1。基礎研究への支援をぜひお願いしたい」と話した。

坂口氏と25年以上の親交があり、制御性T細胞を用いた医療技術の開発に取り組むベンチャー企業を2016年に共同で起業した京大医生物学研究所長の河本宏教授は、受賞から一夜明けた7日の記者会見で、「昔から応援していたので自分のことのようにうれしかった」と喜びを語った。京大の研究環境が坂口氏の研究・発見に与えた影響について本紙の質問に対し、京大の研究設備は「海外との競争に勝てる原動力になったと思う」としたうえで、坂口氏が自身で稼いだ研究費で独自に研究環境を整えていたことに触れ、「研究所が環境を提供しただけでなく、ご自身の力が大きい」と語った。

坂口氏は1976年に京大医学部医学科を卒業。米スタンフォード大学客員研究員などを経て99年に京大再生医科学研究所(現・医生物学研究所)教授、2007年同所長。11年大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授、16年から阪大特任教授(現職)。16年に京大名誉教授。

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