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ガンダーラ美術の仏教的意味を解釈 田辺理・特定准教授 國華奨励賞

2023.12.16

10月7日、田辺理・白眉センター・文学研究科特定准教授が著書『ガンダーラの仏教彫刻と生天思想』で「第35回國華奨励賞」を受賞した。國華賞は、日本および東洋美術に関する優れた研究に贈られる。このうち國華奨励賞は、若手研究者に贈られるもの。選考委員は、ガンダーラの仏教教団が西方文化を受容・展開した方法を新たな視点から論証した点を受賞理由にあげた。

今回の研究では、パキスタンとアフガニスタンにおいて、2世紀から3世紀の間に栄えたガンダーラの仏教彫刻について扱った。ガンダーラ仏教彫刻の図像には、飲酒饗宴図など仏教との関係が不明確であるものが存在し、それらはこれまで仏教的意味を持たない単なる装飾だと考えられてきた。田辺氏は、輪廻転生を前提としたインド古来の生天思想と、帝政ローマの石棺に表された死後の楽園を想起させる図像を関連づけて、それらの図像も仏教的意味を持つことを明らかにした。非仏教的な外観の図像は、仏教徒の死者が天界で得る安寧安楽を表現し、善行の仏教徒を天界への再生希求に誘引するために製作されたと考えられるという。選考委員は今回の研究を「ガンダーラ美術研究に新生面を招く画期的な著書として学術的貢献度が高い」と評価し、今後の研究の進展を期待して奨励賞の授与を決めた。

國華賞は、岡倉天心らが創刊し、現在も刊行を続ける日本最古の雑誌、『國華』の創刊100年を記念して1989年に創設された。田辺氏は本紙の取材に対し、「國華奨励賞は美術史研究を始めた時からの目標であり誠に光栄」とコメントした。今後について、「この成果をもとに中央アジアや中国、日本の極楽浄土の美術の再検討を行い、西アジアやインドに見られる美術遺産にも幅を広げ、日本文化の源流とされるシルクロード文化や仏教の東方への伝播についても研究していきたい」と述べた。

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