文化

〈書評〉歴史を通じて自分を見つめ直す 『今起きていることの本当の意味がわかる 戦後日本史』

2025.08.01

本書は駿台予備学校の講師である著者の「戦後日本史」の講義録である。戦後史というと、教科書の最後の数ページで、授業では「時間切れ」だったという人も多いだろう。しかし著者は、戦後史をみることが現代をみること、そして自分の立ち位置を確認することになると主張する。8月15日は「終戦記念日」であり、日本は「戦後80年」を迎える。本書を読めば、その80年がいかに自分を規定しているかがわかるだろう。

本書は、ポツダム宣言の受諾から第2次安倍晋三内閣の誕生までを「鳥の目」と「虫の目」を使って描き出す。「鳥の目」とは、諸外国とのかかわりの中で日本国がどのように政治、外交を行ってきたのかを、「虫の目」とは、そのもとで人々がどのような思いを持って生きてきたのかを見ることである。本書が教科書と一線を画すのは後者だ。例えば、東京大空襲では10万人の死者が発生した。そこまでは授業でも習う内容だろう。それでは、その10万人はどこでどのように死に、遺体はどこにいったのか。こうした思慮の深さこそが著者のまなざしのあたたかさであり、本書の魅力の1つだ。もちろん、予備校講師の書だから政治史、外交史の記述は明快だし、講義録らしくドラマや映画などの雑談も挟まって、読んでいて飽きが来ない。

本書の特徴は、「日本国」という枠組みに著者が一貫して非共感的なことだろう。著者は「日本人」という感覚を自明視しない。例えば著者は、大学入試の問題文にある「我が国の~」という言葉を批判する。「我が国」が指すものは当然、読み手によってかわるはずだ。もちろん、日本国籍を有する読者の多くは「日本人」の感覚を持っているだろうし、評者も同様だ。だから、受験会場でその問題に出会っても、評者自身、読み流してしまうかもしれない。しかし、「私は○○人だ」といって生まれてくる人はきっといないだろう。それが、なぜ、いつから、その問題文に違和感を持たなくなったのか。本書で語られる戦後史は、その答えを自分なりに見つけられるような示唆にあふれている。

戦後史と今を生きる人たちとのつながりを著者は強調する。80年は日本の平均寿命と同じくらいだから、年長者から戦後史を体験として聞くこともあるだろう。同時に、今を生きる私たちも戦後史の当事者であり、それを語る立場にある。例えば、今の小学生は東日本大震災を体験していない。彼らにとっては教科書で学ぶ「戦後史」の1つだ。そんな彼らに対し、どんな言葉で自らの体験を語るのか。それを考えるためには、まずは自身の一部になっている歴史を自覚しなければならない。受験生にもそうでない人にも、現代を生きる全ての人に勧めたい1冊だ。 (省)


◆書誌情報
『今起きていることの本当の意味がわかる 戦後日本史』
福井紳一著、講談社
2015年
920円+税

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