〈講演会〉「速さ」の時代をゆっくりと歩む ポール・サロペック氏講演
2024.12.16
講演の前半では旅の概要が述べられた。旅を始める前、サロペック氏は国際報道官として記事の題材を求め、世界各地を飛び回っていた。しかし、移動中の飛行機の窓から暗闇を見下ろした時に、自分が各地で書く記事と記事の間にはまだ語られない無数の物語があり、それらは明日の大見出しと同様かそれ以上に重要だと気づいた。そこで、太古の時代から人々が語り合ってきた「旅」の物語によって、それら無数の物語や自身が記者として目撃してきた様々な物語をまとめようと決意した。そして旅の中でも最大かつ全人類に関係する「人類拡散の旅」を題材とし「人類に適した速度」で情報を集め処理できる徒歩での旅を開始した。筆者の心に残ったのは、シリア内戦でヨルダンに避難した難民との話だ。シリア難民の一部は爆撃で財産を失い、ヨルダンの農場で肉体労働に従事するが、見ず知らずのサロペック氏にトマトや水を分け、話を聞かせてくれた。サロペック氏はこの体験から人のやさしさを学んだという。こうした難民問題もまた、旅の物語に編み込まれていく。
後半では、サロペック氏とゲストが「日本での徒歩の旅」をテーマに対談した。サロペック氏は9月6日に福岡市に上陸して以来、長門市、鳥取市と主に農村地帯を歩いてきた。日本での同伴者である郡山氏は、半日人と会わないこともあるという農村の静けさに触れ、都市への人口流出が予想以上に進んでいることに気づいたという。サロペック氏はその静けさを、韓国、中国の田舎と共通しているとしたうえで、食糧安全保障と記憶の保持という問題を提起した。松山氏は「目的」ではなく「道のり」をゆっくりと楽しむ徒歩での旅と禅の親和性について話した。小山氏は、田舎と都会、老人と若者といったコントラストが日本に多いことを指摘した。それに対しサロペック氏は、徒歩での旅に境目はなく、実は文化や状態は混ざり合い、流動的であると述べた。
講演後サロペック氏は、自身の旅の物語に刺激を受けた人々が、更に多くの物語を紡いでいくことを望むと語った。イベントの模様は、ナショナルジオグラフィック公式ユーチューブにて配信中。(雲)