企画

【特集】大学生と月経 第2回 生理用品設置 国立大の現状に迫る

2024.12.01

全国的に生理用品を無料設置する大学が増加している。11月16日号では、杉田教授(大阪大・人間科学研)に生理用品の無料設置の意義を伺った。また、京大は生理用品設置の必要性を認識しつつも予算の都合で設置が実現していないことが本紙の取材で分かった。今号では、生理用品の無料設置を行っている10の国立大に取材を行い、設置の契機や予算の規模を調査した。(史)

編集部注:月経がある人が全て女性とは限らず、女性でも月経のない人もいる。近年、月経研究では「menstruator」(月経のある人)という呼称を用いる。ただし、本稿では月経のある人を便宜上「女子」「女性」と呼ぶ。

目次

設置規模・予算に違いも 利用者からは好評
広告サービスを利用しない7大学 学生・研究者からの提案で実現も
広告サービスを利用する3大学 生理用品 購入費は企業が負担

設置規模・予算に違いも 利用者からは好評


本紙は、大学のホームページなどで生理用品を無料設置していることを公表している国立大を調査した。設置を行う10大学に取材を行い、全大学から回答を得た。※を記載した箇所は記事執筆者が追記した。

総括

▼設置の経緯
発案者が大学である場合と、学生や研究者である場合がある。大学が主体的に設置した理由としては「経済的負担の軽減」と「女子学生が過ごしやすい環境の整備」がある。また、学祭での討論会や学生団体が立ち上げたプロジェクトが契機になった事例もあった。

▼設置形態
企業が提供する広告付きディスペンサーサービス(※)を利用するか/個室に置くか/男性トイレにも置くか、という3点で違いが見られた。(※OiTr社などの企業の開発したアプリを使い個室内のQRコードを読み取ると、ディスペンサーからナプキンが1枚出てくる。液晶に表示される広告の収入が、生理用品の購入費用にあてられる。)

▼配布実績と費用
広告付きディスペンサーを導入した3校は生理用品の購入費用の負担がない。機器設置のために15万円を負担した大学もあった。

その他7大学のうち、5大学が具体的な必要経費を回答した。各大学で配布数が異なることや一部で概算を含むことに留意が必要だが、年間で15万円程度が3大学、100万円・373万円程度が各1大学であった。

配布枚数について、設置箇所の数の違いや期間の違いを考慮する必要があるが、1年間で1500〜6万枚程度を配布もしくは購入していることがわかる。(=左上の表を参照)

▼学内からの意見
ほとんどの大学が、好意的な意見が寄せられていると回答した。学内の一部のみ設置されている大学での設置場所の拡大や、配布する生理用品の種類の増加、個室への設置を求める意見も共通して見られた。

▼対象
福島大、埼玉大、東京大(教養学部)、東京科学大(旧東京工業大)、横浜国立大、大阪大、神戸大、九州工業大(飯塚キャンパス)、長崎大(文教キャンパス・坂本キャンパス)、宮崎大(地域資源創成学部・医学部・工学部・農学部)

▼質問事項
設置の経緯/設置場所または設置個室の数・設置台数/予算の拠出元/必要経費額/配布枚数/学内からの意見

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広告サービスを利用しない7大学 学生・研究者からの提案で実現も


埼玉大


▼設置の経緯(※「Spring Up『すべての人が過ごしやすいトイレプロジェクト』2024年度報告書」や、ダイバーシティ推進センターのサイトも適宜参照した)
埼玉大では、学生団体が大学のダイバーシティ推進センターと共同で設置を求める運動を行い、大学による設置に至ったという。

様々な社会問題に対してアクションを起こすことを目的に設立された学生団体「Spring Up」が中心的な役割を担った。団体内で議論している際に「生理用品がトイレにあったらいい」との意見が出たことを受け、22年6月に「すべての人が過ごしやすいトイレプロジェクト」を立ち上げた。車いすユーザーや生理のあるトランスジェンダー男性の存在を踏まえて、女性トイレに限らず設置するべきだと考えたという。同時に、生理用品などを使用する人がいる可能性を考慮して、男性トイレと多目的トイレにもサニタリーボックス(※使用した生理用品などを廃棄する箱)が必要であるとの結論に至った。

取り組みを開始するにあたって学内の意見を集約する必要性を感じ、団体でアンケートを作成。総務課に実施希望を伝えてトイレへの掲示許可を求めたところ、学内のサークル等の掲示物の規定に反するとして却下されたという。そこで、ダイバーシティ推進センターに相談し、2名の研究者と調査について議論を実施した。ポスター掲示は行えなかったものの、講義で回答を募集する時間を確保した。大学関係者約8千人の1割(800)を回答者数の目標に設定。最終的に目標数以上の回答が集まり、設置に賛成する意見が97・6%と大多数であった。その後協力企業が見つかり、23年12月より本設置を開始した。

▼設置形態・配布実績と費用
各学部に最低1か所と利用者の多い主要施設を選定し、計24か所(女性トイレ13・男性トイレ2・多目的トイレ9)に計28個のディスペンサーを設置した。ディスペンサーを1つしかおけない場合は個室に、食堂など利用者が多い箇所には個室と洗面台の両方に用意する。

洗面台横に設置されているディスペンサー(埼玉大提供)



今年5月からの約5ヶ月間で計6338枚を配布した。必要な経費は年間99万円であり、ダイバーシティ推進センターが負担している。生理用品の補充などのメンテナンスは業者に委託している。(※サイトによると、ディスペンサーは大阪大が開発したものを採用している。)

▼学内からの意見
「急に月経が始まったが、大学のトイレに生理用品があることを思い出し安心した。心に余裕ができるので続けてほしい/持参した生理用品を使い切ることもあるので助かる」と好意的な意見が寄せられている。ただ、「周りに人がいると取りづらい/急な月経で一度個室から出てトイレ待ちの列に並び直すと授業に間に合わないこともある」と個室への設置拡大を求める声も聞かれた。また、男性トイレへの設置について「私はクローゼット(※周囲に自分の性的嗜好を明かしていないこと)でトランス(※生物学的性別と性自認が一致していないこと)なので、男性・多目的トイレへの設置をとても嬉しく思う」との意見がある一方で、「男性トイレへの設置理由がいまいち理解できない」という意見もあるという。

(※プロジェクトは報告書で、前立腺がんや腸疾患でサニタリーボックスや生理用品を使用する人の存在を指摘し、現在のトイレ環境は無意識のうちにマジョリティに利益を与えられた結果だと説明。「私は使わない」との意見は設置を行わない理由にならないと述べている。)

東京大・教養学部


▼設置の経緯
22年の五月祭で開催されたジェンダーに関する公開討論で、キャンパスのトイレに生理用品が設置されていないことが問題提起されたことがきっかけ。議論を聞いていた清水晶子・教養学部副学部長(当時)は、同時期に独自配布を検討していた教養学部学生自治会と共同で取り組みを開始。教養学部が女性トイレと多目的トイレ、自治会は教養学部が設置していない女性トイレ及び男性トイレに生理用品を試験的に配布し始めた。コスト面でも賄えるとの判断から、23年度からは教養学部が主体となって生理用品を無償配布しているという。

▼設置形態
駒場Iキャンパスの25施設78フロア(女性トイレ57・多目的トイレ20・通路1)と23施設の男性トイレの個室81か所に生理用品を設置している。

▼配布実績と費用
設置は教養学部の経費で賄っている。23年度の具体的な費用については、生理用品に約12万円/ケースに約2万円/ステッカーやシールに約1万円の計15万円が必要となったという。設置にあたり、モニタリング調査など事前調査のために、約60万円の支出があった。

また、23年度用として、約6万1千個の生理用品を約60万円で購入した。

▼学内からの意見
具体的な意見は明かさなかったが「概ね好評だ」と述べた。

東京科学大


▼設置の経緯
23年10月に新設した建物に女子学生が使いやすいトイレを設置するよう執行部(※当時は東京工業大)から相談があり、設計担当の教員と建築系の学生が生理用品設置を提案した。その際に「日用品としてトイレットペーパーに近い考え方をすべきで、学内で試行実験を行いコスト・ベネフィットを検討するべきではないか」と学生から意見があった。1ヶ月間のトライアルを2回実施し、利用者からの強い要望とベーシックサポートとしての必要性を実感して常設に至ったという。

▼設置形態
2つのキャンパスの計78か所(うち11か所が多目的トイレ)の個室に設置している。なお、トライアル後に全学で新設した場所はDE&I部門で費用を負担しているが、具体的な金額の公表は差し控えるとした。周知が進んでおらず現在の使用数とは異なるとしつつ、23年5月のトライアル時には1週間で約200個の利用があったという。

▼学内からの意見
学内からは「たまたまいつもと違うバッグで忘れてしまったのでものすごくありがたい/研究室からナプキンを持ち出すのが恥ずかしいから、この企画は非常に役に立つ」との意見が寄せられており、「校内の全てのトイレで実施してほしい」と拡大を求める声もある。男性学生からも「デメリットが特に思い浮かばない/困っている方を助けられるなら素敵な取り組みだ/大学に女性に優しいイメージがつくことで女子学生の増加にもつながる」と好意的な意見があると回答した。

大阪大


▼設置の経緯
大阪大では、月経をめぐるウェルビーイング(※身体的・精神的・社会的に良い状態にあること)の向上を目指す研究プロジェクトからの提案が設置の契機だという。

「ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」実現に向けた、担当執行部と学内女性研究者との意見交換において、プロジェクトのリーダーを務める杉田映理教授から全学展開について提案があり開始したと説明する。(※詳細は11月16日号に掲載した特集第1回の杉田教授のインタビューを参照)

▼設置形態・配布実績と費用
大阪大は3つのキャンパス内の33の施設に、女性トイレ224台、多目的トイレ25台の計249台のディスペンサーを設置しているという。(※研究チームは独自に3種類を提供できるディスペンサーを開発しており、利用者は2種類のナプキンとタンポンから選択することができる。)23年度の配布実績はナプキンとタンポンをあわせて約4千個であった。

ディスペンサーは1台5千円で、補充分を含む生理用品代の概算は1台あたり年間1万5千円であり、費用は大学本部の予算で賄っているという。(※これをもとに編集部で計算すると、ディスペンサーの購入に約125万円、生理用品の購入に年間約373万円が必要となることがわかった。)

▼学内からの意見
学内からは「突然の体調の変化にも対応でき、経済的にもメンタル的にも安心できる/今後も続けてほしい」との声があるという。

神戸大


▼設置の経緯・設置形態
神戸大は、学生の保護者が女子学生支援のために寄付した資金をもとに23年10月から設置を行い、現在は計8か所(女性トイレ7・多目的トイレ1)に設置している。また、保健管理センターなどでは突然の月経に対応できるようショーツ型ナプキンも用意しており、住吉地区の女子寮及び住吉国際寮には、夜用の生理用品を設置している。

寄付を受ける前から、月経の負担軽減を図ることで、女子学生が心身の健康状態を良好に保ち、経済的な状況に左右されない環境を整えることは極めて重要であると考えていたという。

▼配布実績と費用
この取り組みは寄付金と学内予算を併用して実施しているという。ただし予算の拠出元や必要な金額、配布枚数については回答できかねるとした。

この取り組みについて、学生から好意的な意見が寄せられているという。

九州工業大


▼設置の経緯・設置形態
明専会(※同窓会)の記念事業として、明専会の女性理事より提案があった。百周年中村記念館内の3か所(女性トイレ2・多目的トイレ1)に設置している。

▼配布実績と費用
23年5月から1年間で500枚程度を配布し、必要経費は約1万5千円であった。これは明専会が負担し、大学としての支出はない。定期的な補充が必要となっているため、利用者は一定数おり、役立っていると感じているという。

この取り組みとは別に、23年9月より飯塚キャンパスの情報工学部でも設置を行っている。

▼設置の経緯・設置形態
オープンキャンパスのイベントに参加した女子学生へのアンケートの結果を受けて、花王株式会社の協力のもと、利用者の多い女性トイレ計39か所に設置した。

▼配布実績と費用
23年8月~24年10月末に、9408枚を配布したと説明する。予算は年間15万円であり、運営費交付金から情報学部裁量経費として拠出している。

宮崎大


▼設置の経緯・設置形態
宮崎大では、医学部、工学部、農学部、地域資源創成学部の計31の女性トイレに生理用品を設置している。22年1月に生理にともなう様々な負担に悩む学生を支援するために医学部で設置を開始。以降、22年8月に農・工学部、23年2月に地域資源創成学部に拡大した。

▼配布実績と費用
4学部ともに学部予算で費用を負担し、23年度には一部概算を含めて合計で約13万円の支出があった。23年度の配布実績は一部概数を含めて1万3140枚であったという。

▼学内からの意見
医学部で行ったアンケートでは男女ともに「ありがたい/よい取り組みだ」との意見が寄せられた。「羽付きがあった方がいい/個室においてほしい」との声もあったが、衛生面や費用面から、当初の設置方針を変更していないという。

農学部でも羽付きの設置を求める意見があったが「緊急時に備えて大学に設置されており、それだけで大変ありがたい。個別の要望に応じるときりが無い」という意見が多数だったため、現状の1種類のままとしている。

また補充作業について、医学部は清掃業者に委託、他3学部は学部職員が担う。地域資源創成学部では、女性職員しか作業ができないため、業務負担が限られた職員に偏ることや補充忘れを指摘する意見もあるという。

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広告サービスを利用する3大学 生理用品 購入費は企業が負担


福島大


▼設置の経緯・設置形態
21年1月に実施したコロナ禍の学生アンケートで経済的な問題が多く寄せられ、学生への経済的支援の一つとして導入することにした。16台を計10か所(女性トイレ9・多目的トイレ1)に設置した。

▼配布実績と費用
当時は設置費用無料のキャンペーンがあり、設置を行った部署(経済経営学類・食農学類)が器具の利用に必要な電源を引くために、コンセント増設工事で約15万円を負担した。

23年度の配布枚数は1589枚であった。生理用品の費用については、OiTr社の広告費用で賄う。日常的に補充する作業には人件費が発生しているが個別に算出していないと回答した。

▼学内からの意見
学内からは、「緊急時に助かっている/学内での設置場所を増やしてほしい/設置場所を周知してほしい」との声がある。ただ、設置当初は認知されておらずアプリやユーザー登録に対する不安の声もあったという。

横浜国立大


▼設置の経緯・設置形態
世論の高まり等を受け複数の選択肢を検討した結果、21年に3台のOiTrを設置した。

▼配布実績と費用
設置はダイバーシティ推進室の事務室の経費をあてた。24年10月の配布枚数は156枚。

▼学内からの意見
他の配布方法を希望する意見があり、神奈川県の協力により窓口での配布を行う予定だという。

長崎大


▼設置の経緯・設置形態
医学部保健学科の大学院生が、クラウドファンディングを利用した「生理の貧困」への取り組みを行っていた。学内でも支援が必要と考えたセンター長が執行部に意見をあげ、試験的に設置を開始し、学生の声を聞いたうえで機器導入に至ったという。まずは文教キャンパス11か所に設置。その後、他キャンパスへの導入を求める声があり、坂本キャンパスに12か所設置した。

▼配布実績と費用
OiTr設置に際して文教キャンパス・坂本キャンパスとも大学が負担。生理用品はOiTr社からの無料提供だとした。生理用品の補充に関わる費用は、清掃業者に支払っており、文教キャンパスで約18万円(24年度の1年間)坂本キャンパスで約5万円(24年度の後期半年間)であったという。文教キャンパスでは23年度で4613枚、坂本キャンパスでは24年度の約2ヶ月間で529枚を配布した。

▼学内からの意見
当初の設置ブランでは女子学生数に応じて設置可能台数が決められており、契約時に女子学生数が一定基準を上回っていた文教キャンパスに導入したという。他の学部やキャンパスの女子学生からも設置の要望が上がっていると説明した。

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