ニュース

マツタケの可能性に期待 公開シンポジウム「マツタケがつなぐ世界」

2008.10.09

京都大学国際交流ホールで9月20日、公開シンポジウム「マツタケがつなぐ世界」が開かれた。里山再生運動の現状や、マツタケ市場をめぐる人間模様など自然史や文化史の交錯する不思議な食べ物マツタケを考えようと京都大学マツタケ研究会が主催し、京都を中心にマツタケ山再生の市民運動を展開するまつたけ十字軍、京大こころの未来研究センター、京都学園大学マツタケ研究会が共催した。

元岩泉まつたけ研究所長でまつたけ十字軍代表の吉村文彦氏は、マツタケの歴史や生態を紹介したうえで、「マツタケ栽培の拡大」と「里山再生」の結びつきを説明した。吉村氏によれば、日本全体は現在、かつてないほど緑が豊かになっているにも拘わらず、そこに棲む生物の数や種類は激減しているという。かつて里地里山は多くの生物種の生息域であったが、林業の衰退で里山の放棄が広がり、生育域を奪われた生物たちは姿を消していった。里山のアカマツ林をきれいに手入れをしておかないと生育しないマツタケもそのひとつ。マツタケの収量は大きく落ち込んできた。

吉村氏は、里山をきちんと手入れして、マツタケを呼び戻すという活動が、アカマツ林(=里山林)という自然を保全することにつながる、と締めた。その後、全国各地の里山再生運動を紹介。実際に活動する市民らから現地報告があった。このなかで、近年、京都学園大学でもマツタケ研究会が発足し、里山再生のための活動が行われていることなどが紹介された。

また、トロント大学人類学部の佐塚志保氏は、日本に北米産松茸として輸入されるパインマッシュルームの産地とその生産者について報告。研究フィールドであるカナダでマツタケがパインマッシュルームとして注目され、かつてインドシナ戦争で難民としてカナダに逃れた東南アジア系の人々が多くマツタケ狩りに従事しているという。

京野菜の八百屋である「かね松老舗」の上田耕司氏は、高価なマツタケを時代の好不況に関係なく買っていく人たちがいること、それはどういう人たちか、など実際にマツタケを売る立場からの興味深いエピソードを披露した。

この他、微生物生態学者の小原弘之氏(同志社大学名誉教授)がマツタケ研究の流れを紹介、陶芸家の近藤隆弘氏が自然と人間の関わりと工芸について講演した。

会場は約200人が訪れるほどの盛況ぶり。シンポは丸一日かけて行われたが熱気は衰えず、終盤に行われた会場との応答では里山再生運動に取り組む市民や研究者、林業行政の担当者らとの間で活発な意見交換がみられた。      (ぞ)

《本紙に写真掲載》

関連記事