〈書評〉読み出したら止まらない 東野圭吾『危険なビーナス』(2020.11.01)

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本が売れないと言われる昨今でも、この本の著者である東野圭吾氏は、ベストセラーを連発し、人気作家としての地位を築いた人物として挙げられることが多い。物理学者の湯川学が事件を解決していく「ガリレオシリーズ」や、刑事の加賀恭一郎が登場する「加賀シリーズ」など、本格ミステリーで知られる著者だが、本作も意外な展開が用意されており、読み出したら止まらないミステリーとなっている。

本作の主人公は、独身男性の獣医である手島伯朗である。彼のもとに、彼の弟の明人と結婚したという女性・楓が「明人が失踪した」と助けを求めてくる。弟の失踪に加え、16年前の主人公の母の不審死、取り壊されたはずの家が残っていたことなど様々な謎が複雑に絡み合う。さらに、主人公が次第に楓に惹かれていく様子も描かれる。

一般的には、本作は複数の謎の行方や主人公の恋に注目するミステリーだと捉える人が多いかもしれない。しかし、本作のもう1つのテーマとして、「研究者の苦悩」もあるのではないか。登場人物には、脳や数学の研究者が数人いるが、彼らの思惑がミステリーの結末に深く関わることになる。作中には、「天才が幸せをもたらすとはかぎらない。不幸な天才を生むより、幸せな凡人を増やす努力をしたい」という言葉がある。ここに著者なりの結論が示されているのだろう。

作中では、動物実験、サヴァン症候群、フラクタル図形、素数の分布を示すウラムの螺旋など、東野作品らしい理系の要素も満載で読み応えがある。終盤には、緻密に張られた伏線が怒濤の勢いで回収されていく。着いていくのが大変ではあるが、全ての辻褄が合うのは見事の一言に尽きる。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい作品である。(凜)

書誌情報
著者 東野圭吾
出版社 講談社
発行日 2019年8月9日
価格 900円

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