書評 ブリギッテ・シテーガ著『世界が認めたニッポンの居眠り』(阪急コミュニケーションズ)(2013.11.01)

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世界各国には、容易には理解できない様々な文化があり、その文化圏の外の人々は、好奇心あるいは猜疑心から、そのような文化に対して何らかの関心を寄せる。日本の睡眠習慣である居眠りは、海外の人々から注目を集める文化の一つである。居眠りはだらしない、と否定的に捉えられたり、日本は居眠りができるほど安全な国なのだ、と単純に納得されたりすることがある。著者は、日本人の居眠りの実例を多数取り上げながら、居眠りを客観的に分析していく。

著者は居眠りを何か他のことをやりながら眠ることと定義している。そして世界の文化、習慣が同じようになってきている中で一概に睡眠文化圏をくくることはできないと断った上で、世界の国々を睡眠習慣に関して三つの文化圏に分類する。一つ目は単相睡眠の文化圏で、一日の睡眠が一回だけで夜間に限定される。二つ目はシエスタ文化圏で、夜間の睡眠時間が短く、昼間の睡眠が社会的に制度化されている。三つ目は仮眠文化圏であり、夜間の睡眠が短く、各個人が気ままに昼夜を問わず、うたた寝・居眠りをする。日本はこの仮眠文化圏に分類される。

睡眠習慣の変化は時代によっても変わりうることが指摘される。資本主義発達過程において工場などでの労働が一般的となり、単相睡眠の文化圏が拡大した。そして今日グローバル化が加速する中で常時世界各国と連絡を取る必要もあり、シエスタ文化圏は衰退している。一方不規則な生活リズムを余儀なくされることや作業時間より作業内容が評価される仕事が増加するため、勤務時間が縛られないといった理由で、仮眠文化圏が拡大していると著者は見る。記者は、日本に代表される仮眠文化圏は世界に広がりつつあるのかもしれないと感じた。

ただし著者はその居眠りが人前で行われていることは日本に特有な習慣であると指摘する。

ここで著者が分析対象とするのは、主に電車での居眠り、国会議員をはじめとする会議中の居眠り、そして授業中の居眠りの三つである。それによって日本の居眠りの特異性を強調する。電車での居眠りが、日常生活で本来やってはいけないことを可能とすること(眠っている人が自身の身体を異性の肩にもたれさせることなど)、また他者に席を譲らないための方策に使われうると指摘を加える。こういった指摘からは、居眠りを単に怠慢と片付けてしまうのではなく、踏み込んで分析する著者の姿勢を感じられる。会議中の居眠りや授業中の居眠りが、仕事あるいは勉強に(勤務時間、授業時間以外に)真剣に取り組んでいることを示す勤勉のシンボルとして表され、容認されているというが、こういった社会観は日本中どこでも支持されているとは言い難く、やや強引な一般化、との印象を受けた。以上の三つの例から、著者は上記での指摘に加え、日本社会では状況への参加が積極的に求められない場合が多いなど、居眠りを容認する理由、背景が多数あげられると述べた。

著者は居眠りについて批判を加えながらも肯定的にとらえる。居眠りを詳細な分析にもとづいて紹介することで、読者に睡眠習慣の探求を促す。何かを取り入れるにあたって、その歴史的あるいは文化的背景を知っておくこと、それが個々の習慣をより自信に満ちたものとするはずだ。読者はこの際、自身の睡眠習慣を見直してみてはいかがだろうか。(千)

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