新刊書評 児玉聡『功利主義入門―はじめての倫理学』(ちくま新書)(2012.10.16)

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倫理学から批判的思考を学ぶ


J美は悩む。「倫理的に生きるにはどうしたらよいか」。そしてジェレミー・ベンタムの著、『道徳及び立法の諸原理序説』を手にとった――。

本書は、功利主義という、倫理学上の一つの立場について解り易く解説した、倫理学の入門書である。著者は、読者の功利主義への理解をたすけるために、同じく倫理学初学者のJ美というキャラクターを登場させる。読者は本書の中で、このJ美とともに功利主義について学んでいくことなる。

功利主義と聞くと、「最大多数の最大幸福」という言葉を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。この功利主義のスローガンは、多数派の幸福のために少数派を犠牲にすることを肯定するものだと理解されがちだ。しかしそうではないのだと著者は述べる。功利主義が初めて提唱された産業革命期まで、上流階級の幸福のために、労働者や奴隷などの幸福は無視されていた。それらの多くの人々の幸福も考慮に入れた政策を実行すべきだとして提唱されたのが、公平性を重視した、功利主義という立場だったのだ。

本書の前半では、功利主義とはどういうものか、そしてそれに対する批判やその反論が扱われている。そして後半では主に、功利主義的な思考が公共政策を練る際にどう関わってくるのかが論じられている。

しかし著者は、当初のJ美の問い「倫理的に生きるにはどうしたらよいか」には、明確な答えを提示していない。功利主義という指針を、読者が無批判に受け容れるのではなく、その問題について自ら考えるように促す狙いがあったのかもしれない。倫理学の理論を学んだからと言って、それを当てはめるだけで、現実の社会問題全てを解決できるわけではない。倫理学を学ぶことで得られるのは、現実の問題について批判的に検討する能力だ。この能力を用いて、問題に対処していくことが大事である。そう著者は語っている。

また、巻末には本書で引用された文献、また著者が薦める文献が、コメント付きで紹介されている。本書を読んで、倫理学について、功利主義について、さらに詳しく学びたいと感じた読者にとって、大きな助けとなるだろう。(待)

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