春秋講義「書物とウェブのメディア論」(2010.10.16)

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京都大学では1988年より毎年、春と秋に春秋講義という一連の講演会を開き、学内外に広く大学の「知」を提供している。今年は電子書籍元年と呼ばれていることもあってか、10月4日、18日、25日の各月曜の講演は「電子書籍と出版」というテーマで開催される。今号では10月4日に行われた講演会について取り上げる。(空)

10月4日の春秋講義は「書物とウェブのメディア論」の題で行われた。講師は佐藤卓己・教育学研究科准教授。メディア史・大衆文化論が研究分野。今回、佐藤氏はiPadや、kindle、先日発表されたガラパゴスなどの電子デバイスを例に出してその電話的形状について述べ、利用者数がなぜ増加しているかについて考察した。さらに、ロングテール化(後述)や文化的細分化の問題、教育などの観点から電子書籍のこれからの発展性について迫った。

まず佐藤氏は、iPadなどの電子デバイスが基本的に電話の形をしていることの意味について述べた。読書人口はテレビ人口よりも少ない、つまり一冊も本は読まないけれどテレビは見ている人がたくさんいる。さらにテレビは見ないけれども電話は使っている人はおそらくもっとも多い。そう考えると、こうしたデバイスのマーケットから考えれば「電話的なもの」に流れていくというのはある意味自然な流れではないかという。

さらに、ロングテールについても述べた。ロングテールとは、縦軸に販売数量、横軸にランキングをとったグラフにおいて(図)、販売数量が少なく、ランキングが低い層の本(死に筋商品)のことを言う。このロングテールは、仕入れても売れにくいため店頭には並ばない。しかし、アマゾンでは収益率の半分以上もこのロングテールが占めているという。インターネット書店のメリットは、店頭に並ばずに売れない膨大な在庫を広く人々に買ってもらえることだ。電子書籍化するとロングテールの購入が促進されると一般的には言えるが、電子書籍化により手軽に手に入る本が多くなりすぎてしまい、文化的細分化が加速化することもまちがいない。人々の関心や趣味は細分化され、誰でも読んでいる売れ筋の本が娯楽・実用以外では成り立たなくなる。たとえば、大学のゼミで歴史学や社会学を勉強している学生だったら誰でも読んでいる本というものはますます少なくなってしまう。

また佐藤氏は、教育における電子デバイスの実用化に疑問を感じるという。授業で使用する教科書を全て電子化すると、授業中、生徒が本当に教科書を読んでいるのか分からなくなるのだ。紙の教科書なら背表紙を見ればちゃんと授業を受けているのか分かったが、電子書籍では後ろから覗きこまないと分からない。電子黒板の導入にも懐疑的だ。いまのところ大学入試のような学習能力の公正・効率的な測定は筆記試験によってしか測定できない。そのため、教室の電子化は実験校でしか行われないだろう。以前パソコンが登場したときも、「情報革命が教室を変える」と言われていたが、教室風景を何も変えなかった。これまでメディア教育が目指した改革はすべて失望に終わり、黒板と教科書を使った授業が相変わらず行われている。電子黒板の予算があるなら、一人でも生身の教員を増やすべきだという。その意味で京大はあえて教室の電子化に対してガラパゴスであること、つまり独自の進化を遂げていくことを誇りに思うべきだ、と佐藤氏は講演を締めくくった。

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