企画

エリート×起業家×ニート 新入生キャンペーン2010講演会録

2010.05.21

4月16日、京大時計台ホールにて「新入生キャンペーン2010第1回講演会」が開かれた。主催は新入生キャンペーン実行委員会。 講演者は、金融機関に勤務すると共に人材育成、政策提言を軸に活動するNPO法人MPI(Management and Policy Institute)の理事長を務める山崎貴弘氏(法学部卒業)、サイエンスグラフィックス株式会社代表取締役の辻野貴志氏(大学院工学研究科卒業)、28歳で会社を辞め、日本一のニートを目指すpha氏(総合人間学部卒業)の3名。それぞれ留学、起業、ニートという全く違うキャリアを持つ彼らに共通するのは「自分の好きなことをやる」こと。自らのやりたいこと、やってきたことについて20分ずつ講演した。

実行委員会は、それぞれの学生が自分の目標を発見するきっかけを作ることを目標とし、新入生向けに京大卒業生による講演会や、学生が主体となる勉強会を開いている。(編集部)

起業家・辻野貴志 「新しい市場を求めて」CGが技術と産業を結ぶ

新入生向けの話と言うことで、いろいろテーマを考えてきたのですが、おそらくこの後に控えているお二方から、変化球とか剛速球とか投げてくると思いますので、私はストレートの球でいきます。

私は2000年に京都大学の工学部に入ったのですが、ちょうど10年前ということで、その当時のキーワードを振り返ってみたのですが、政治でいえば構造改革、経済でいえばITバブルが弾けたばっかりという時代でした。私が一番刺激をうけたのは、サイエンスとか科学技術の部分で、ナノテクノロジーやヒトゲノムの解読が終了したことが、日本に限らず世界中で大々的にニュースになったことがありまして、それにかなり強く影響を受けました。

大学に入りたてのころは、どんな専攻とか学科に進んでもそうだと思うのですが、多少自分の専攻とか学科が将来どんなことにつながるのかなっていうのは考えていったりします。そういった科学の情報はどんな所から集めてたのか考えてみると、今けっこう国内のニュースサイトとか色んな情報源があり、特にブログが一番情報を深く集めてこられるんですが、数年前というのはまだそんなに国内に情報があったわけではなくて、むしろ海外に情報は依存していました。国内では紙媒体の目次みたいなものがおまけ的に載っているという感じでして、Webで面白い情報があまりなかったのかなというところがあったのですが、海外と言っても主に米英で、全文の記事が載っていたりだとか、雑誌の内容そのままだったりとか、それが無料で見られるということで、まあ今でこそ当たり前のWebの無料文化っていうのがアメリカとかイギリスとかで、徐々に始まっていて、それがかなり衝撃を受けたことでした。

その中で何か情報発信したいなと常々思っていたのですが、当時情報発信するツールっていうのは、今はブログとかツイッターとかで情報発信できると思うのですが、ちょっと当時は違いまして、信じられないことですけれども、メルマガが情報発信の主役になっていまして、その頃は小泉内閣の出すメルマガが200万部を超えたりだとか、当時のちょっとした流行でした。そのメルマガを使って海外の情報を紹介する形で、科学技術の情報を発信していました。「こちら気になる科学探検隊」という形で2000年ごろから2年間くらいメルマガを発信していたのですが、それと合わせてコンピュータグラフィックをニュースと一緒にWeb上で公開するということで、毎日夜ニュースをチェックしながら、金曜日には文章をまとめて毎週メルマガを発行するということをやっていました。

今だとブログとか携帯小説とかでありますけど、当時はメルマガを本にするというのが流行っておりましたので、運よく私もメルマガの内容を本にすることができて、確かあれは3年生のときだったと思います。出版後は、一つ本を出すまではそれが一つの目標のような形でやっていましたが、本を名刺がわりにあちこちに顔を出すことができるようになりました。学生でしたが、ライターという形で、科学技術系の記事をあちこち取材して書いていました。例えばアスキーだとか、日経サイエンスの技術系のところだとか、そういうところによく記事を出していました。京大の先生にも取材していましたが、阪大や、授業をさぼりつつ東大や福島大にいったりして、色んな先生から話をきいてまとめていました。あと大学で最近産学連携というのがキーワードの1つになっていますが、大学でやっている研究を企業が活用するというか、企業も最近は景気がよくないというわけで、自前ですべて研究開発ではなくて、一部は大学に求めるということをやっていますので、そういった産学連携の、特に大学と企業が共同研究やっていく枠組みをつくる団体があります。

そういった形で学外で活動することが多く、大学生だということもあって大目に見てもらえたというところもありましたが、当然周りはプロフェッショナルばかりですので、自分よりもレベルが上の人たちの中で、ある程度刺激を受けながらやっていたことが大きいかなと思います。だから当然自分が卒業したらライターとかになるんだろうと思っていましたけれども、いくつか活動をしていると疑問が出てきまして、1つが出版業界の実情です。もう1つが日本の科学技術は高いと言いますけど、それって本当かなという話です。具体的にどういうことかと言いますと、科学技術一般の出版というのは、1980年代からずっと右肩下がりで、出版業界全体が細くなってるということもあるんですが、サイエンスの分野で食っていくのはなかなか大変だなというのが解って来まして、何かいい方法はないかなと。

その中で結構悪いことばっかりではなくて、さっき言ったように企業が不景気で研究資金のために大学と一緒にやるのですが、企業と大学とでやっていることが違うわけで、なかなか技術の内容などのコミュニケーションが取れない。そこで打つ手はないかと言われていた中で、メルマガやホームページとか、CGというのが受けが良くてですね、それを軸に事業とかできへんかなということで、2004年ごろぐらいからグラフィックスを作っては売っていました。

実際どんなところでそういうのが必要になるかということなんですが、日本の科学技術が高いということはさっき言いましたけれども、産業と結びついていないように思います。例えば半導体や液晶など、他の国にとられてしまっている。意外と技術評価は高いんだけれども製品化とかビジネスではなかなか苦戦しているところがあります。そういうところで、その技術がいかに製品にとって魅力的になるのかということを示すのが必要とされている、というのがわかりまして、そういった映像とかデザインとか作っています。あと、例えば最近の話題でいくと、事業仕分けが半年前にありましたが、その中でスーパーコンピューターが危うくということがありました。色々と問題は言われてはいるんですけれども、ひとつ間違いなく言えるのはあの説明の仕方では説得はできんだろうと。実際にいい研究をしていればそれはそれでいいんですけれども、最低限他人を説得できるだけの努力というのは必要だろうというわけで、あれを機にけっこう上手いこと説明していたところもありました。そういったところでも映像というのはけっこう伝わります。

というわけで、今は5人という小さい会社ながら、主に大学とか研究機関と一緒に映像を作り上げているのですが、国などの開発研究費予算というのはこれはこれでけっこう大きなものです。数字で言うと、国が2割で民間が8割、合わせて18兆円という数字があるんですけれども、この中に人件費だとかやたら高い装置の値段とかが入ってるわけですが、プロモーションとかそういう側面的なことに使えるのであれば市場っていうものは大きいわけですし、製造業とか物造りで使われている広告費っていうのが結構あるんですけれども、そこからも市場として大きいというのは実感できます。

最後に、問題意識としては大学に入ってからスケールの大きい話が多くてですね、ぼくにその中でできることっていうのは限られているんですけれども、その中で自分の目線のプロセスに落とすとですね、けっこう地味なことではあるんですが、一個一個ステップを積み重ねる形で今に来ているのかなと思います。皆さんにも皆さんなりの問題意識があって、特に入学したばかりにはそういうのが強くあると思うんですが、けっこう大学生活楽しいのであっというまに過ぎちゃうと思うんですけれども、時間は結構ありあまってると思うので、それと自分との立ち位置というか、そういうものを考えながら自分目線に落とし込んでいけると、やりたいこととかに結びつくんじゃないかなと思っています。話がとりとめのない感じになりましたけれども、私からは以上です、ありがとうございます。

ニート・pha 「『働く』ことを考える」 基本生きてればいいでしょ

ニートということで定職につかずにふらふらしているんですけれども、何でぼくがよばれたのかな、とも思っているんですが、他の二人がちゃんとしたお話をしてくれるので僕はおまけのような、箸休めのような感じでふらふらと話せばいいのかなという感じで来ました。来てる中で新入生ってどれくらいいるんですか?6割7割くらい?じゃあ新入生に話せることもあんまりないですが聞いて下さい。

まずは自己紹介。2003年総合人間学部(卒業)。入学したのは1997年で2年間ぐらい休学したりしていたので6年間大学にいましたね。卒業後はニート。そんな感じです。ニートと言っていますけど毎日ダラダラ暮らしています。しばらく前までは働いていたときの貯金とかで暮らしていたのですが、貯金が1年ぐらいで無くなって、あとはウェブ制作、サイトとか作ってそこに広告はったりとか、ネットで本を売ったりとかそんなことで生活費を稼いでいます。基本的に毎日だるいなとか思っていますが、どんなことをやっていたかと言うと、中学校高校とかも通うのがだるいなあと思っていて、授業中とか寝てばかりいました。基本的にだるいだるいと言っているのでこんな感じになりました。働きたくない。どんな生活をしているかと言うとですね、昼前ぐらいに起きてだらだらして、適当にご飯つくって食べて、散歩したり猫と遊んだりして、で寝るとかインターネットばっかりしているという感じです。で、ニートでだるいなあとかばかり言って、ブログに書いていたらテレビに出ませんかっていう人が来て、「たけしのニッポンのミカタ」という番組で働かないニート代表みたいな感じで呼ばれて出ました。基本的に大学時代もやっていることは変わらなくて、大学時代のだらだらした生活、学校行かずにごろごろしているというのを10年続けて30になってもやっているとテレビに出られますっていうわけです。

ところで京大出身なので京大にいた頃の話をします。さっきも言ったようになんとなくだるいなあと思いつつ、公立の小学校中学校高校と進んで、高校出てもやりたいこと特にないし、だるいし、働きたくもないから大学に入るかという感じでした。総合人間学部に入ったのも、何がやりたいというのもなかったし、総合人間学部だったらとりあえず決めなくていいから入ってから考えようと思い入って、別に結局決まらなかったんですが。そんな感じで総人に入ったんですけれども、受験勉強をゲーム感覚でやったら受かったというだけであって、社会的に目標があって京大に入ったとかそんな感じではないんすね。なんとなく入ってしまってだらだらしてという感じなんですけど。そういう感じの人っています?特にいない?すごいですね。なんかいっぱいいても嫌だし、いないならいないでそれが一番な気がします。京大入ってからは、高校とかは学校に行かなくちゃいけなかったけど、あんまり大学行かなくても怒られなかったし、単位はそれなりに取れるしということで、タガが外れて毎日だらだらして、結局大学時代こんなことを繰り返したというわけです。

全然まともなこと、有意義なことを喋ってないですけど、皆さんが何を聞きたくてここに来ているのかが全然わからなくて。すいませんこんな話で。

僕が住んでいたのは熊野寮で、基本的にここでだらだらしていました。熊野寮はほんとに、まあ吉田寮とかもありますけど、本当にもうボロくて汚くて廃墟のようで、いるとどんどんやる気が失われていくという感じなので、あんまり住むことはオススメしませんけど、見に行ってみることはお勧めします。廃墟見学的な、ちょっと時間が止まっているようなすてきな建物を見学するという意味で、行ったら面白いと思います。

戻りますが、基本的にだらだらしているのが楽しかったので、それを10年間ぐらい続けてしまいました。2年ぐらい休学していて、ずっと働きたくないなあと思って適当に暇そうな仕事を見つけたけど、それでもやっぱりしんどいなあと思って、3年でやめて、その後ニートになって現在で3年ぐらいです。

働きたい人は働いたらいいと思うし、基本的には死なないようにしましょう。ちゃんと働かなくちゃいけないというわけじゃなくて、基本的に死ななければいいんじゃないかなって思っていて、生きられたらそれでいいんじゃないかな、無理して働かなくても、というのが基本になるんですけれども、人間は結構死にます。僕みたいなふらふら一般的な社会人の道を歩いてない人は、回りの人もそういう人が多いんですけれども、特にちょっと死にやすい。いずれみんな死ぬんですけれども、できるだけ死なないほうがいいかなと思います。色々頑張って楽しいことはあるし、頑張りたい人はそれでいいと思うんですけれども、死ぬほど頑張らなくてもいいなと思う。自分一人がご飯食べられていたらそれでいいじゃないかと僕は思うし、無理して仕事を頑張ろうという気はないので、そういうことは向いている人がやったらいいんじゃないかなと思います。僕みたいな人がちょっと頑張らないといけないなと思って、気合いを入れたりするとすごくしんどいし、死んだりするので。

働かない人も一定人数世界にはいるし、そういうものが世界だと思うし、それでバランスが取れているんじゃないかな、という世界観があるんですね。みんな頑張ってちゃんと働かないといけない社会というのはすごく生きづらい気がするし、逆に働くのだるいなって人が100%でも、それはそれで社会として不安に思います。両方いてちょうどいいバランスがあるような気がするので、向いてない人は働かなくていいと思うんですよね。30過ぎてもニートだとか、まあ僕なんですけど、自営業者だとか、フリーライターだとか旅人だとか、何をして食べているのか分からない人がいます。育った環境によってはまったく会ったことがないかもしれませんが、けっこういるところにはいるものです。親とかが真面目な人で、親戚とかもみんなそんな人だったらあんまり触れ合う機会はないかもしれないですが、けっこういます。僕の友達とかもそんなふらふらした人が多いんですけれども、東京とか都会はそういう人が多いので過ごしやすいですね。京都もけっこういるので、そういう人と仲良くなりたいと思ったら、うさん臭そうなおっさんがたまっている所に行ったり、そういううさん臭いサークルとか、寮とかでもいいんですけれども、そういう人たちがいるのでネタとして面白いかなと思います。まっとうな社会人ではないけどとりあえず自分が食べていけたらそれでいい。周りがそういう人ばっかりだったらそれが当たり前な感じですし、半分ニートで半分働いてる人もいるし、そういう人ばっかりだったら割と気楽なんですね。

あんまり働かなくても、ぼくもそうですけど人と繋がり合えればなんとかなる部分があって、人と繋がりがあったらちょっとお金に困っているから仕事手伝いたいとかそんなのもできるし、すごく困ったときに助けてくれたりとかそんな感じで、真面目に働かなくても人と繋がりをちゃんと作っておけばなんとかなるんじゃないかと思っています。

1つの生き方として僕が思っているのはインターネットがあれば結構なんとかなるということで、もともと僕は総合人間学部で文系でプログラミングとかやってなかったんですけど、28歳になってからプログラミングを始めて、そこからインターネットでサイト作ったりとか遊び始めました。だいたい28からでもなんとかなるなと思ってます。そしてネットではあんまりお金をかけなくてもいろんなものが手に入ります。暇つぶしにもことかかないですし、僕は割とサイト作ったりとかそんなのが好きなので、やりたいこと、ものを作って発表したりとかもお金をかけずにできる。信頼できる友達もそこそこできるし、基本的に今ネットの知り合いと遊んで過ごしてますね。お金はそんなに儲からないですね。僕は事実上それで生活してたりするんですけど、苦手な人にはお進めしないし、嫌いな人だったらちゃんと働いた方が労力に見合った収入が得られるくらいです。いろいろ稼ぐ方法はあるのかもしれませんが、そんなに稼げないし、お金稼ぎの方法としてはお勧めしません。でもまあ生活できなくはないし、インターネットは素晴らしいなあと。

ネットにお金なくて困っているんですと書いたら、わりと誰かが振り込んでくれたりします。この贈与はけっこう楽しくて、人に何かをあげたりするのって面白いと思うんですよね。僕も自分よりお金のない人に適当におごったり困っているというのを聞いて1000円とか振り込んだりしたんですけれど、そういうのって面白い。自分の稼いだお金を自分だけで使うというのはつまらないと感じます。ゆるくもうちょっと分け与えるという部分があった方が世界は面白いと思うので、絶対自分の生きる分は自分で稼がなくちゃいけないっていう風には思えない。適当にお金をあげたりするのはいいんじゃないでしょうか。そこで自己責任というのもあんまり面白くないなあと思いますし、そういう風に気軽にお金をやり取りする文化が増えたらいいと思いますね。

新入生のみなさんにはとってつけたような話でしたけど、ありあまる時間を使って自分の行こうとする道を見つけられるといいと思います。僕はだらだらしているのがいいなあと思って大学時代もそんなのをしていたんですけど、働くというのが面白ければ頑張って働けばいいし、それが幸せなことです。それぞれ自分の楽しいなと思える場所を見つければいいと思うし、大学時代と言うのはそんないろんなことをして、いろんなところに行って自分の居場所を見つけるための時間だと思います。ではこれで終わります。ご清聴ありがとうございます。

エリート・山崎貴弘 「『何でもあり』の大学」 コミュニケーションが肝要

ビラにエリートって書いてあって僕びっくりして、ハメられたなと思いました。いやな奴が来るなとか、こいつうさん臭いなとか思う人もいると思うんですが、僕が言いたいのは京大に入ったからエリートだとか、僕はハーバードですけど、ハーバードだからエリートっていうことは全然ないです。それは間違っていて、エリートってもともと神様に選ばれた人という意味で、神様に選ばれるっていうのは1つは自分のためだけじゃなくて人のためにいろんなことができる。それがエリートでしょう。最初この講演会の話を聞いたときに、自分がエリートって書かれると皆さんは僕のことを色眼鏡で見るかもしれないということと、もう1つは僕はまだ世の中のために何もできていないのですごく恥ずかしいなと思って。

僕は2002年に法学部を卒業して働いて、1回ハーバードに留学しました。大学時代にはMPIっていう勉強会を立ち上げて、今でもまだあるんですけど、何をやったかというと、大学の先生はやる気ないですから、どんなことやったら楽しいか自分たちでいろいろ考えて、政策を考えたりビジネスを考えたりする団体をつくったのがMPIの大元です。それで今日は何を話そうかなと思ったんですが、スピーチはビジネスと似ているんですね。商品をどうやってみなさんに売るか、それを考えるとマーケティングというのが必要です。お客さんは誰なのか、誰がぼくの話をきいてくれるのかというのと、どうやったらみなさんに解ってもらえるか、要するに売り方ですね。この2つが必要。で18歳とか19歳のみなさんが何をやろうと考えているのかは正直解らないので、今日は12年まえの自分がそこにいたら何を伝えたいかな、というのを考えてお話したいと思います。

1番伝えたいと思ったのは、大学に入ったら今までとは全然違う世界が広がっているということです。今まで小学校中学校高校って、ある意味惰性なんですね。さっきphaさんが面白いこと言ったんですけど、「タガが外れた」と。大学生なったら外して全然OKだけど、小学校中学校高校だと普通にやっていれば外れることはない。そういう意味では、小学校から中学校にはいって中学校から高校に入ってとほとんどみなさん同じ価値観でものを考えたと思うんです。要は法律を犯したりしたらいけませんけど、勉強ができればOKです。で勉強できたから京大に入れた。ところが京大出るときにどういう能力が必要かとか、どういう考え方が必要かというと全然違う。今日は3人話をしていますけれども3人バラバラじゃないですか。phaさんはITにすごい強いとか、辻野さんは映像ができるとか。要するにそれぞれみんないろんな道を歩んでいるんだけど、必要とされる能力は受験勉強じゃないんですね。3者バラバラ。何でもありっていう世界になるという断絶があるんです。なので大学に入る時と出るときとではこんなに違うんだと思うんですよ。だからその断絶を楽しんでもらうとか、あるいは今までと同じではちょっと足りないかもしれないぞ、というのを感じてもらえればと思いました。

それでさっき申し上げた以外でも、大学に入ると軸がなくなります。要するに受験勉強できればいいという話ではなくなるので、軸は「なんでもいいです。みなさん好きなことやってください」という世界になります。

もう1つは答えがないんですよ。今までは教科書で受験勉強ですから、なんとなく数学の問題を解ければ答えが出ます。その答えにたどり着ければ京大入れましたよね。でもこれからは答えは全然ないです。新しいよくわからん世界になる。そのときに何をしなければいけないかというと、1つは自分の興味とかを広げてもらうのがいいんじゃないかなと。それは海外でもいいのかもしれないし、年上の方でもいいのかもしれないし、何でもいいので幅を広げた方がいいです。もう1つは、教科書がないので答えがないという世界だと、何を信じるかが重要だということです。自分が教科書になる。そういう自分というのを考えてやっていく必要があるので、みなさんそれぞれ自分は何をやりたいのかとか、自分は何をやるのが楽しいのかと考えるのがいいという話です。

そして3つめは、ハーバードに行っていたときに授業中に先生がよく言っていたことがあって、”Make the world better place”と。何かと言うと世界を変えましょうという意味ですね。この人たち頭おかしいんじゃないかって思っているとですね、先生は本気で言うんですよ「みなさんなんでここに来たんですか?」と。最初のうち「大丈夫?この人たち」と思っていたんですけど、世界を変えるというのはそんな大げさなことじゃないんですね。例えば、何か国際機関に行きますとか政治家なりますとかビジネスマンになりますとか色々あるんですけど、そういうことだけじゃなくて、ゴミを片付けますとか、席を代わりますとかそんなのだってある意味世界はよくなっていますし、それこそお金ないという人に振り込んであげるとかでもいいんですけど、そういう周りにどうやって貢献できるかというのを考えてもらえると面白いんじゃないかなと考えています。それはなぜかというと、こうやって国公立の大学に行かせてもらって結局税金で勉強しているわけです。なので京大で学ぶっていうことは生活苦しい人景気悪い人含めて税金で勉強させてもらってるんだということを忘れないでほしいな、と僕は思います。

それで、この講演をするときにネタを探してたらですね、日本とアメリカと韓国と中国の高校生がどういうこと考えているのかというアンケートがあるんです。で質問が2つあるんですね。1つは教科書の内容を覚えるという授業は好きかという質問。もう1つは自分の考えをがんがん話す授業が好きかという。そういう質問があって、どっちにもイエスと言ってもいいんです。面白い結果が出ているのは、日本の高校生の人は七割が覚える授業が好きだ。逆に3割の人が自分が話す授業の方が好きだという答え。なぜかどっちにも手を挙げていいのにきれいに分かれているんです。どっちもという人もいると思うんですけど。ところがアメリカの学生は自分が発言する方が好きだというのが7割。ちょうど逆なんですね。ここまではみなさんなんとなくいけると思うんです。ここで、中国人は65%の人は覚えるのが好きだと言っているんです。ところがどっこい、なんと90%の人が発言する授業が好きだと言っているんです。なので、中国の人はまずほとんどの人が発言するのが大好きだ。かつ、教科書を覚えるのも大好きだという人が多い。やる気に満ちている中国人。発言が大好きなアメリカ人。教科書覚えるのが好きな日本人。

で、これは良い悪いじゃありませんが、たぶんどんな仕事するにしてもしないにしても、たとえば海外の人といろいろやりとりすることになると思うんです。そのときに、英語ができるできないは抜きにして、考え方が全然違うんです。中国人はすごい勢いでくるし、アメリカ人は発言大好きだし、僕は教科書覚えるのが好きなんで、と言っていると話にならないということになりかねないわけですね。なので、みなさん高校までのやり方とこれからは違う、断絶があるということをぜひ忘れないようにしていただきたいです。ただ、発言してくださいと言っているわけではなくて、みなさんこれから世の中に出ていくと、全然価値観が違う人が出てくると思うんですね。価値観も違うし言葉も通じないし宗教も違う。そういうことにだんだんなっていくと思うんですよ。そのときに必要なことは、色々な価値観があるということを知らなきゃいけないし、自分はどう思うかということを伝えなきゃいけない。そういう能力は持っておかないといけないと。それは京大に入ったときに必要とされる能力ではないので、ぜひそういう色んな人の話を聞くとか、色んなところに旅行に行くとか、なんでもいいと思うんですけど、そういうことをやってもらえればいいと思います。

しかも京都はすごくいいところなんですね。僕はもともと大阪の出身なんですけど、東京とかで働きだすと、京都はすごいいい街だということがよく解ります。1つは学生にめっちゃ甘い。みなさんがそこらへんで寝てても、まあ学生だから、京大の人だから、で許してくれる。東京に行ったらいろんな問題が起きると思うんですけど。もう1つは京都は伝統の街だとみなさん思うでしょうが、企業とかも含めて革新的な街でもある。例えば日本で最初に小学校ができたのは京都です。日本で1番というのがいろいろあるんですね、京都は。この伝統があるだけではなくて革新的でもあるというのは京都のすごくいいところなので、みなさんぜひ大学にいる間に京都のよさを感じてほしい。

最後に、さっきも言いましたけど、世の中を良くするために頑張ってくださいね。それは小さいことでもいいという話をしたんですけど、みなさん京大に入れたのは1人の力ではなかったと思うんです。親御さんもそうだし、兄弟もそうだし、高校の時の友達もそうかもしれない。そういう色んな人に支えてもらったというのを毎日考えるのは気がめいると思いますけど、たまに思い出して「ありがとうございます」と心の中で言ってください。それで充実した京大生活をエンジョイしてもらえればなと思います。ありがとうございました。


つじの・たかし 2006年京大大学院工学研究科を卒業。2003年に日経BPより「こちら気になる科学探検隊」を出版した後、ライターとして活躍する。2004年にはサイエンスグラフィックス株式会社を設立し、現在は同社の代表取締役。

ふぁ 2003年総合人間学部卒業。一旦は就職するも3年で辞職してからはニート。現在東京都中央区でプログラマーによるシェアハウスを運営している。

やまさき・たかひろ 2002年法学部卒業。2008年にはハーバード・ケネディ行政大学院を修了。在学中3回生からMPI(現MPI京都)代表。現在はNPO法人MPI理事長を務める。論文「アジアのリーダー育成の拠点・京都大学」が2008年京大111周年記念論文コンクールにて最優秀賞を受賞。

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