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農学部でシンポジウム 農業を支える「消費者の倫理」構築を

2010.05.21

農学部W100教室で5月8日、第6回食と農の安全・倫理シンポジウム「食べて農業を支える―消費からの倫理を考える―」が開催された。食糧・農業を取り巻く問題について、今回は主に消費者側の倫理意識をテーマに、講演者4名がそれぞれの研究・実践内容を報告した。

寄附講座「食の農の安全・倫理論」はエスケー食品株式会社等、食品メーカーなどからの寄付により2007年4月に設立され、以来食品管理のリスク管理等、研究課題に関するテーマについてシンポジウムを開催してきた。

今回のシンポジウムは、科学研究費補助金「キリマンジャロの農家経済経営と農村発展」、科学研究費補助金「食品分野における消費者政策のプロセス研究」等の共催。当日は学内関係者のみならずJA関係者など外部からも含めて100人をこえる観衆が訪れ、熱心に耳をかたむけていた。

農学研究科の新山陽子教授の挨拶ではじまった今回のシンポジウム。まず、農学研究科の辻村英之准教授が自身のキリマンジャロのルカニ村での取り組みを事例としてフェアトレードの概念と仕組みを紹介。理念を共有する生産者と消費者の一体化・連携が持続的フェアトレードのために不可欠となるという結論を提示し、ルカニ村民の「客をこの上なく歓待する」ような、人と人とのつながりが直に意識される関係性が望ましいとした。

続いて生活クラブ生協連合会の加藤好一会長が、自身の活動とその背後にある「消費材を生産者とともにつくる」などの理念を説明した上で、近年取り組んでいる飼料用米栽培の事例を紹介。従来米をつくっていた水田を活用することによる農地の保全(減反の解消)や現在ほとんどを輸入に頼っている飼料自給率の向上を意義して挙げ、成功事例として山形県の遊佐町での取り組みを紹介した。

また「食品公害を追放し安全な食べ物を求める会」の大野貞江前事務局長は35年にわたる産消(生産者と消費者)提携活動の中で感じてきた望ましい消費者像を提示。持続的な農産業を目指すためだけではなく、消費者自身が安全な食べ物を得るためにも、食べ物に関わる企業や行政の動きに関心をもつことや農業を実際に経験することで生産者の立場を理解することが求められるとした。

最後の発表者は京都新聞論説委員の井上理砂子記者。より大局的な視点から、消費者の「より安いものを常に追い求める」意識が農産物の価格破壊を招き結果として食糧自給率の低下を促していることを説明。また食べ残しのごみが700万トン、金額換算で11兆円にのぼるという数字も提示して、消費者それぞれ、そして新聞等のマスメディアが「消費者至上」の考えを改めることが必要という結論を下した。

最後のプログラムとして報告者の4人が農学研究科の秋津元輝准教授を司会としてパネルディスカッションをした。司会者からの質問に各々が順に答えていく形。テーマである消費者の倫理観や生産者と消費者との連携に関してそれぞれの報告に即して意見が交わされた。

最後には消費者倫理というものに関して理念の共有のために、生きた関係、即ちつくっている「人」を感じることのできるような「生」の交流が重要であるとまとめられ、シンポジウムは終了した。

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