インタビュー

〈腹が減っては〉二人三脚で紡ぐ天丼綺譚 かふう

2024.10.16

〈腹が減っては〉二人三脚で紡ぐ天丼綺譚 かふう

人気メニューの「みっくす天丼」

京大正門から東へ30秒ほど歩くと、吉田神社の鳥居前、一階部分がえんじ色の建物が見える。天麩羅「かふう」だ。引き戸を開け暖簾をくぐると、レトロで穏やかな空気に身を包まれる。ゆったりとしたスペースのあるカウンター席に腰を落ち着けると、てきぱきと働くご夫妻が出迎えてくれた。

西岡利文さん、絵理さん夫妻は1996年4月より28年と半年、二人三脚で「かふう」を営業してきた。二人は木屋町で料理屋や仕出し屋を営んでいたが、利文さんの「天ぷら屋をしたい」という願いから「かふう」を開店した。店名は利文さんの好きな小説家、永井荷風に由来する。

開店当時は割烹料理店として営業。利文さんは胸に蝶ネクタイを結び、絵理さんは和服を着てお客さんをもてなした。京大工学部や医学部の教員が接待で頻繁に訪れ、一時は「高級料理店のよう」だったという。

「二人きりでの営業は、思い付きをすぐ形にできて面白い」という絵理さん。20年程前からはインターネットでの通販も始めた。はも茶漬けや酒の肴になる惣菜を販売し、メディアにも取り上げられるようになった。しかし、ネット上で誹謗中傷を受けたことが原因で10年程前に通販を辞めた。その後通販に費やしていた昼間に天丼の提供を始め、体力が低下した今では、「仕入れ回数が少なく続けやすい」天丼をメインで提供している。絵理さんはこの変化について、「今は楽」とほっとした表情で話した。

店の人気メニューは「みっくす天丼」。海老、穴子、キス、野菜の天ぷらが丼の縁を乗りこえて盛られ、あっさりとした天つゆがだくだくとかけられる。天ぷらの熱さと油っぽさは天つゆで和らぎ、次々と天ぷらを口に運んでしまう。ふわふわのキスやしっとりとしたかぼちゃは思わず記憶に残る。締めは優しい味のみそ汁。温かな汁が胃に落ちてくるのを感じると、店の落ち着いた雰囲気と相まってしみじみとする。

「記憶力の衰えが困る」と話す絵理さんだが、天丼については「スマホをいじって食べない人がいるとイラっとくる、揚げたてを食べてほしい!」と気炎を上げた。「かふう」の天丼がいつまで食べられるのか気にかかるが、絵理さんは「あと5年かな⋯⋯。去年も言うてるけど!」とお茶目に笑った。「かふう」の営業時間は11時30分から14時、17時から20時。日曜・祝日休業。(雲)

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