【グルメ企画】腹が減っては 特別編
2024.11.16
11月祭に合わせ、それぞれの編集員のとっておきを5軒紹介したい。NFの出店で満腹になるのもいいけれど、我々のお気に入りに舌鼓を打つのはどうだろう。どのお店も、あなたの胃袋を掴んで離さないはずだ。(編集部)
目次
五感で揚げた乙なかつ とんかつ処おくだ地域に根付く飾らぬあじ 武川
運動部御用達 親心こもった定食屋 キッチン松之助
心落ち着く空間でひと休み さるぅ屋カフェ
洋食店で感じる「母」の愛 GRILL満佐留
五感で揚げた乙なかつ とんかつ処おくだ
東大路通と御蔭通の交差点を東に曲がって数歩先、マンションの1階に1軒の定食屋がある。とんかつ処おくだ。1988年の創業以来、35年以上も大学生や地元の人の腹を満たし続けてきた。
現在、店を回すのは2代目店主の藤原孝治さん。10年前、顔見知りだった先代が体調不良で閉業を考えていることを知り、料理好きな性格から、抵抗なく後を継ぐと決めた。それから先代の背中を見て修行すること2年半、先代が急逝したため、正式に店を継いだ。
先代の教えは忠実に守っている。店の営業後に行う仕込みでは、先代に教わった方法で包丁を研ぎ、豚肉の塊を160㌘ずつにカット。それから筋を包丁で取り除く「掃除」を行い、より心地よい食感を目指す。
おくだでは、創業当初から素材にこだわり、豚肉は国産のブランド豚を、ご飯は近江産コシヒカリを、お茶は玉露入りの京都辻利の茶葉を使う。現在のメニューは30種類ほど。先代の頃ほど多くはないが、「お客さんに楽しんでもらえれば」と定期的に期間限定メニューを出す。メニューの参考に、店公式インスタでのアンケートを利用することもあるという。
人気メニューはロースかつ定食。注文が入ってから豚肉を叩き、水分が抜けてちょっと軽くなり、「高めの音」がし出すまで揚げる。こうして一番美味しい状態で揚がったとんかつにソースをかけ、自家製のポテサラとドレッシングのかかった千切りキャベツ、それにからしを添えて提供する。
店の内装は「無機質なものと有機物のギャップが面白い」と、藍色のアスファルト風の壁、テーブルには木目のしっかりした杉を使用。店の奥には、先代の店の名残として、創業当初から店頭にあった看板を飾った。店内はオシャレで落ち着いた雰囲気に満ちている。
「美味しいお肉でお腹いっぱい」。先代が何かある度に言っていたというこの言葉は、今、店のポリシーになった。藤原さん曰く、ちょっぴり値段は張るものの、「大学生、もっととんかつ食べようぜ‼もっと肉食おうぜ‼」。営業時間は11時30分~14時、17時~21時。火曜定休。(郷)
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地域に根付く飾らぬあじ 武川
京大北部キャンパス北門から東へ徒歩5分。御蔭通の閑静な住宅街に店を構える。
オーダーしたのは「ちょっと欲張り定食」1000円。トマトソースのハンバーグとだし巻きを色とりどりのおばんざいが囲む。ハンバーグは肉のうまみに溢れ、厚切りのだし巻きはふわっと口の中でとろける。
この地に店を構えて23年になる。切り盛りするのは新見礼子さん、御年73歳。47歳の時に立命館大学で経営学をまなんだ。旦那さんが学生時代の友人と楽しく過ごす姿を見て、大学生活にあこがれを抱いて入学。自分の年齢に抵抗感はなかった。
時を同じくして旦那さんが亡くなり、「ひとりで食べていかなきゃならなくなった」。大学卒業後、友人の紹介でこの地に店をオープンした。小さいころから料理が好きだった。いまでも自宅でレシピ本を片手に料理研究をする。気に入った調合はノートに書き留め、メニューの改善のために用いる。
足しげく通う京大の学生や先生もいる。親しくなった学生と飲みに行ったり、パソコンの使い方を教えてもらったりした。誕生日を祝ってもらうことや、ゼミのパーティーに招待されることもあった。「かしこくて気持ちの良い若い人に出会えたことが幸せ」
コロナ禍では営業を週2日に短縮した。今年の7月、約5年ぶりに週6日営業に戻した。客足の戻りはまだ鈍いが「ゆっくりぼちぼちやっていく」。「あと10年頑張りたい」とほほえむ。
「普段着で気軽にふらっと寄れるお店であり続けたい」。旅先で購入したモノクロポスターや、友人に描いてもらった水彩画が壁を飾る。どこか懐かしさを感じさせる、人の温かみに心奪われる場所である。営業時間は11時半~14時、18時~22時。日曜は8時~12時。月曜定休。(順)
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運動部御用達 親心こもった定食屋 キッチン松之助
厨房から運ばれてきた鉄板がぐつぐつと音を立てる。白ネギをたっぷりと乗せるのは豚角煮だ。食べやすいサイズにカットされた角煮を口に運ぶと、その柔らかさに思わず目が飛び出る。タレの風味と炙られた香ばしさを口一杯に広げながら、角煮は口の中で湯気を上げてとろける。その瞬間、食欲は理屈抜きに掻き立てられ、味覚の神経は白旗を揚げる。気づけば箸は、次の角煮をつかんでいた。今出川通にある定食屋・キッチン松之助である。明治大正期に活躍した銀幕スター・尾上松之助になぞらえた屋号には、「映画のように老若男女に親しまれてほしい」という想いが込められている。
店内を見渡すとラクロス部やアメフト部などの京大運動部のチラシが目立つ。「体育会の学生さんたちはよく食べる。特にアメフト部は凄い」。嬉しそうにそう語るのは店主の吉田さんだ。吉田さんが松之助をオープンしたのは今から19年前。当時は御蔭通沿いにあったが、今出川通沿いに移転して今に至る。農学部グラウンドから近いこともあり、体育会の学生が多く訪れる。そんな血気盛んな学生がたくさん食べているのを見るのが幸せだという。
吉田さんがオススメとして紹介するメニューは和風炙り豚角煮定食。大学生1人がしゃがんで入れるほど巨大な寸胴にバラ肉を目一杯に入れ、ネギや生姜、酒などの具材とともに、絶妙な火加減で一日かけて加熱する。具材は全て国産。「殻を剥けないほど柔らかい」と自負する半熟味玉も添えられている。試行錯誤は続けているが、昔から変わらない味になるよう努めている。手間はかかっているものの、学生は手間を気にせずに食べて欲しいという。
吉田さんは、店を続けていく楽しさの一つに、常連客の存在を挙げる。なかには京大卒業後に子どもを連れて来てくれたお客さんもいるそうだ。「卒業しても来て欲しいが、来られないほど忙しくなってほしいとも思う」と、吉田さんは目を細めて語った。「4年間に1度でも来て『楽しかった』『美味しかった』と思ってくれれば」。店主の親心が込められた学生食堂のような定食屋・松之助。秋深まり冷え込む季節、出来立ての角煮を求めて今出川通を進みたい。営業時間は11時半〜14時半、17時半〜21時半。火曜・土曜定休。臨時休業あり。(燕)
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心落ち着く空間でひと休み さるぅ屋カフェ
京阪出町柳駅を降りて徒歩数分、今出川通り沿いに佇む「さるぅ屋カフェ」。店主の千葉亮平さんは、友人とのなにげない会話がきっかけでカフェをやってみようと思い立ち、2007年に店をオープンした。出町柳に店を構えたのは、緑に囲まれた鴨川デルタの風景が好きで、「来ると地元に帰ってきたような感覚になるから」だという。
古民家を改装した店内は、1階と2階が吹き抜けでつながっている。お客さんがゆったり過ごせるようにと、開放感のある空間づくりを心がけたそう。ソファ席や座敷など、座る場所によって異なる景色や雰囲気を楽しめる。個性的ながらも店内の雰囲気と調和した家具や食器は、アルバイトのスタッフからのアイデアも取り入れながら選んでいるという。立場にかかわらず、楽しみながら一緒に働いてもらいたいとの思いからだそうだ。
千葉さんに訪れた人に食べてほしいメニューを伺うと、ハンバーガーとのこと。オープン当時、ハンバーガーが食べられる店は珍しかったことをきっかけに始めたという。パテは自家製で、あえてソースを使わずにスパイスのみで仕上げ、バンズは岩倉のベーカリー「レ・フレール・ムトウ」から仕入れたものを取り入れている。ハンバーガーにぴったりのものを、相談して作ってもらっているそうだ。
おすすめ通り、店名を冠した「さるぅ屋バーガー」を注文。軽やかな口当たりのパテは、レタスやトマトとの組み合わせも抜群で、バンズは外はパリッと、中はふんわりとした絶妙な焼き加減で優しい味わいだ。他にも、ケーキやパフェといったスイーツや日替わりのカレーなど豊富なメニューが揃う。営業時間は11時30分〜22時。不定休。(青)
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洋食店で感じる「母」の愛 GRILL満佐留
京都大学病院の程近く、近衛通り沿いに洋食店「GRILL満佐留」がある。切り盛りするのはマスターの上田勝さん、妻の恵子さん、息子の直樹さんだ。
店の始まりは89年前、勝さんの母がこの場所に、お好み焼きとアイスキャンデーを提供する店「満佐留」を開業したことだ。当時は近所にライバルが少なかったこともあり「大繁盛」したという。勝さんは高校の卒業式が終わるとその足で新幹線に乗り込み、東京へと旅立った。銀座のレストラン「アラスカ」に弟子入りし、7年間の修行を積み帰郷。25歳で母から「満佐留」を継承し、その後54年前に洋食店「GRILL満佐留」としてリニューアルした。恵子さんが嫁いだのはその4年後。当時は日をまたいでから晩ご飯を食べるほどの忙しさだったという。
恵子さんは「学生さんには親のつもりで接してしまう」と優しい目でほほえむ。筆者が取材に伺った帰りにも、土砂降りの雨を心配して傘をくださった。お客さんが風邪をひいていたら薬をあげたり、研究に疲れている時はコーヒーを置いたりと、出来るだけ身近に接するうちに、気づけば「家族のようになっている」。勝さん一家でのスキーに連れだって行くお客さんもいるという。そんなお客さんも、大学を卒業して就職すると遠方に行ってしまう。しかし数年後にふと店に寄り「お母さんただいま」と言ってくれると感激するという。年を取っても学生時代の面影が残り「成長を感じると嬉しくなる」
名物は角煮トロかつ。豚バラをトロトロの角煮に仕立てて、フライで揚げる。直樹さんの兄、昌樹さん考案のオリジナルメニューだ。トロかつをソースとマスタードに絡めて口に運び、噛みつくと、サクッとした衣、直後に角煮がホロホロとほどけていき、油のあまみと肉のコクが舌に残る。
恵子さんは「満佐留のご飯を食べて、みんな元気いっぱいになって欲しい!」と笑顔で語る。秋の夜長にさみしくなった時は、今の学生も、昔学生だった人も、GRILL満佐留でなごんでゆっくりして、明日の活力を得てはいかがだろう。営業時間は11時30分~14時30分、17時30分~20時、日曜定休。(雲)