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重い電子化合物を2次元に生成 理・松田教授ら

2010.03.12

2月18日、2次元空間に金属状態の「重い電子(ヘビー・フェミリオン)」をつくり出したとして、理学研究科、物理学・宇宙物理学専攻の松田祐司・教授、同専攻の芝内孝禎・准教授、低温物質科学センターの寺嶋孝仁・教授らの研究グループによる発表が行われた。

松田教授らによると、分子線エピキタシー法(金属元素を加熱して蒸気にしたものを超高真空中〈10兆分の1気圧〉で分子線の助けを得て基板上にゆっくり結晶化させ、層状に成長させる方法)で、セリウム金属などを含んだ化合物の薄膜(図を参照)を生成することに成功。出来あがった薄膜では、自由電子の1000倍以上の有効質量(みかけ上の質量)となった「重い電子」が形成され、かつ「重い電子」は2次元空間を動き回ることが出来て電流を流したという。これは世界で初めて人工的に電子を水素の原子核(陽子)に匹敵するくらいの重さにさせたことになる。

研究の背景となったことは次の2点。まず、電子を2次元(1つの層)に閉じ込めると、互いに反発しあう「クーロン力」の作用が大きくなり、また電子を閉じ込めた化合物内では自発的に磁性を持つという「磁気秩序」が起きにくいということ。もう1点は、「f電子系化合物」と呼ばれるセリウムなどの金属を含む化合物内では、電子軌道の関係で電子どうしの相関が強くなり、有効質量が大きくなった「重い電子」が形成されるということ。

今回、この2点を融合した成果として「重い電子」の磁性や有効質量を人工的に制御できることが示された。物性科学の分野においては、新たな「超伝導体(電気抵抗がなくなる物質)」や「強磁性体(磁石)」などの研究や開発が盛んであり、松田教授らの研究はこれに一石を投じたのである。コンピュータの媒体などへの応用も期待されるという。

この研究は、文部科学省科学研究費やグローバルCOEプログラム「普遍性と創発性から紡ぐ次世代物理学」のサポートを受けたもの。成果は、論文『Tuning the dimensionality of the heavy fermion compound CeIn3 (重い電子化合物セリウムインジウムの次元制御)』としてまとめられ、米科学誌『サイエンス』に発表された。

本紙に解説図掲載

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