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シロアリの後成的遺伝を世界初証明 父の年齢で子のカースト運命が変化

2025.07.16

京大農学研究科・松浦健二教授、高田守准教授らの研究グループは、シロアリの王の年齢が子の将来の社会的役割に影響を与えることを発見し、その影響が精子のDNAメチル化という、遺伝子の後天的な変化によることを世界で初めて証明した。研究グループは、「昆虫の社会進化だけでなく、広く生物の発生や進化の理解に大きな示唆を与える」と意義を説明する。

シロアリの社会には、精子を受け渡す王、卵を産む女王、巣の維持や子育てを担う働きアリなど、明確に役割が分かれた「カースト」がある。これは社会性昆虫に共通してみられる社会構造だ。これまで、栄養状態やフェロモンなどの環境要因がカーストを決めると考えられてきたが、近年、卵の段階ですでに将来のカーストが決まることが明らかになり、遺伝的な要因や親の状態も子のカーストに影響する可能性が指摘された。特に、DNAの配列自体ではなく、DNAに後から付加される化学的な目印が親から子へと受け継がれ、それが発生や行動に影響を及ぼす「エピジェネティック遺伝」が注目されている。

本研究では、父親である王の性的な成熟度の違いに着目し、精子に蓄積されたエピジェネティックな変化が子のカースト決定に与える影響を実験で明らかにした。実験ではヤマトシロアリを用い、父親(王)の年齢が子の将来にどのような影響を与えるかを検証した。年齢に応じた精巣の大きさを持つ成熟した王と若い王を、それぞれと同じ年齢・状態の女王と交配させ、子が繁殖個体(将来の女王・王)と働きアリのどちらに成長するかを調べた。結果、若い王の子は繁殖個体になる割合が高く、成熟王の子は働きアリになる割合が高いという明確な差が現れた。この差は、交配に使った女王の条件や飼育環境を統一しても変わらなかったことから、父親の年齢が違いを生み出していることが示された。

この違いの原因を探るため、王から精子を取り出しDNAメチル化という化学変化を解析した。DNAメチル化とは、遺伝子のはたらきをオンオフするスイッチのようなもので、環境や年齢によってその度合いが変化することが知られる。解析の結果、約3900万箇所のCpG配列(メチル化が起こる部位)のうち、2万箇所以上で若い王と成熟王でメチル化の度合いに大きな違いがあることが分かった。特に13の遺伝子では、精子中のメチル化状態と子のカースト傾向が強く関連していた。

これらの結果は、父親の年齢により精子中のエピジェネティック情報が変化し、それが子の将来の発生運命に影響を及ぼす「エピジェネティック遺伝」が、社会性昆虫でも実際に起きていることを初めて直接的に示した。また、この仕組みが繁殖を担う個体と担わない個体との分業構造成立の過程に関わっていた可能性が高いことも示唆している。グループによると、これは社会性昆虫の進化を根本から捉え直す新たな理論的枠組みを提供しうるという。グループは今後の研究で、母親からのエピジェネティックな影響や、同定された13の遺伝子が実際に果たす機能を解析し、カースト決定に関わるエピジェネティックな制御の全体像を明らかにすることでシロアリにおける社会性進化の分子基盤を解明していくことを目指す。

本研究成果は、6月13日に国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載された。

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