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〈映画評〉「物流」の歪み 豪華制作陣が暴く 『ラストマイル』

2024.10.01

〈映画評〉「物流」の歪み 豪華制作陣が暴く 『ラストマイル』

Ⓒ2024 映画『ラストマイル』製作委員会

「シェアード・ユニバース」。『アベンジャーズ』に代表されるアメコミ映画などで見られる、複数の異なる作品を同一の世界観の中で展開していく手法だ。そんな手法を取り入れ、オリジナル脚本の実写邦画では18年ぶりの興行収入50億円超に迫る、大ヒットを記録中の映画がある。『ラストマイル』だ。

本作が世界観を共有するのはTBS系ドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』。両作とも放映時には多くの話題を集め、ギャラクシー賞など数々の賞を総なめにした。『ラストマイル』には満島ひかり、岡田将生といった新キャストに加え、『アンナチュラル』から石原さとみや井浦新、『MIU404』から綾野剛や星野源ら過去作のキャストも名を連ねる。脚本・野木亜紀子を始め、スタッフも2作を手がけた面々が続投し、盤石の布陣の下で映画は制作された。

物語は物流業界の最大イベント「ブラックフライデー」前後、11月下旬の4日間を軸に展開する。関東一円を管轄する巨大物流倉庫から出荷された荷物が、配達先で突如爆発する事件が相次いで発生。倉庫の新任センター長・舟渡(ふなど)エレナ(演:満島)は部下の梨本孔(こう)(演:岡田)と共に、日本を震撼させる未曽有の爆弾テロ、その奥に潜む物流業界の闇と対峙することに……。

社会が抱える様々な課題に切り込んできた野木脚本らしく、本作もまた重厚な社会派作品に仕上がっている。「顧客第一」のマジックワードの下で心身をすり減らしながら働く倉庫スタッフ、発注者――通販サイトと受注者――運送会社の不均衡な力関係、ドライバーを取り巻く苛酷な労働環境など、「ラストマイル」(配送における最後の区間)に詰まった、物流の「歪み」を次々と炙り出してゆく。

一方、娯楽映画としての見応えも十分だ。「届いた荷物が爆発する」という刺激的な事件に加え、過去作の登場人物がかつてのように他愛もない会話劇を繰り広げているのが、観ていて楽しい。物語の雰囲気が重すぎず、かつ決して軽くもないから、観客は映画を楽しむと同時に、制作陣が暴き出す問題にも深く思いを馳せることができる。限られた上映時間の中で様々な要素をうまく盛り込み、「社会派映画」と「エンタメ映画」を両立してみせた、野木の絶妙なバランス感覚が光る。

主人公・エレナの描かれ方にも注目したい。倉庫のセンター長であるエレナは物語前半、本部の命令に従って会社の利益を守ろうとし、運送業者には高圧的な態度で接していく。孔や観客の目には、そんな彼女は物流業界の歪みを生み出す「悪」だとさえ映る。だが後半、彼女もまた歪みに翻弄された人物であったことが明かされると共に、歪みに立ち向かった「ある人物」の命がけのメッセージが、業者との不均衡な関係の是正へとエレナを突き動かす。歪みを生む者、苦しむ者、そして正す者。満島の巧みな演技も相まって、主人公・エレナはただのヒーローを超えた、より魅力的な人物に仕上がっている。

物語の結末は決して晴れやかではない。発達した物流システムを当たり前に使っている我々もまた、歪みに加担している。制作陣にそう突きつけられた気がした。面白い映画を鑑賞できた満足感と、自分には何ができるのだろう、という自問自答を抱え、映画館を後にした。(晴)

◆映画情報
監督 塚原あゆ子
脚本 野木亜紀子
公開 2024年8月23日
上映時間 129分

Ⓒ2024 映画『ラストマイル』製作委員会

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