生命科学研 藻類の光合成促進酵素 役割特定 40年来の謎を解明
2024.09.16
生命科学研究科の嶋村大亮研究員(当時)、山野隆志准教授らの研究グループは8月30日、ゲノム編集技術を用いて、藻類の細胞外に存在するタンパク質・CAH1の役割を特定したと発表した。CAH1が水中に存在する重炭酸イオンを二酸化炭素へと変換することで、藻類の光合成を促進するという。CAH1は1984年に発見されたものの、その役割については40年以上、不明だった。
水中で暮らす植物も光合成を行うが、水中では▼二酸化炭素の拡散速度が陸上の約1万分の1▼二酸化炭素の多くが「重炭酸イオン」の形で存在する、などの要因で二酸化炭素を取り込みにくく、光合成に不利な環境にさらされている。そこで藻類の多くは「二酸化炭素濃縮機構」という仕組みを発達させ、この課題に対処してきた。
濃縮機構は主に▼細胞膜などを通して水中の重炭酸イオンを積極的に取り込む輸送体▼取り込んだ重炭酸イオンを二酸化炭素へと変換する「炭酸脱水酵素」とよばれるタンパク質▼二酸化炭素を効率的に固定する特殊な構造、という3つの要素で構成される。グループは2015年、1つ目の要素である輸送体を同定していた。
これまでの研究で、複数の炭酸脱水酵素が濃縮機構に重要な役割を果たすことがわかっていた。そのうち、細胞膜と細胞壁の間に存在するCAH1は、二酸化炭素の少ない状況で増加するため、濃縮機構に大きな影響を及ぼすと考えられていたものの、その詳細については40年以上、謎のままだった。
グループはまず、ゲノム編集技術を用いてCAH1遺伝子をもたない藻類の個体を作成し、解析した。すると、アルカリ性の環境下で藻類の光合成効率が著しく低下することがわかった。次に、CAH1遺伝子を持つ個体に対して、細胞外に存在する炭酸脱水酵素の機能を阻害する薬剤を加えると、同様の結果が得られたという。また、CAH1遺伝子をもたない個体に外部から炭酸脱水酵素を加えたところ、通常の個体と同レベルで二酸化炭素と親和したという。
以上の結果からグループは、CAH1はアルカリ性の環境下で重炭酸イオンから二酸化炭素を生成することで、細胞内への二酸化炭素の供給を促進する重要な役割を果たしていると結論づけた。
今回の研究成果は、水中植物の光合成機構のさらなる解明のほか▼藻類の光合成効率を向上させることで、バイオ燃料生産に貢献する技術開発▼濃縮機構の仕組みを陸上植物に応用して、作物の生産性を向上させる技術開発といった応用研究にもつながることが期待される。
研究成果は国際学術誌「Plant Physiology」のオンライン版に公開された。
水中で暮らす植物も光合成を行うが、水中では▼二酸化炭素の拡散速度が陸上の約1万分の1▼二酸化炭素の多くが「重炭酸イオン」の形で存在する、などの要因で二酸化炭素を取り込みにくく、光合成に不利な環境にさらされている。そこで藻類の多くは「二酸化炭素濃縮機構」という仕組みを発達させ、この課題に対処してきた。
濃縮機構は主に▼細胞膜などを通して水中の重炭酸イオンを積極的に取り込む輸送体▼取り込んだ重炭酸イオンを二酸化炭素へと変換する「炭酸脱水酵素」とよばれるタンパク質▼二酸化炭素を効率的に固定する特殊な構造、という3つの要素で構成される。グループは2015年、1つ目の要素である輸送体を同定していた。
これまでの研究で、複数の炭酸脱水酵素が濃縮機構に重要な役割を果たすことがわかっていた。そのうち、細胞膜と細胞壁の間に存在するCAH1は、二酸化炭素の少ない状況で増加するため、濃縮機構に大きな影響を及ぼすと考えられていたものの、その詳細については40年以上、謎のままだった。
グループはまず、ゲノム編集技術を用いてCAH1遺伝子をもたない藻類の個体を作成し、解析した。すると、アルカリ性の環境下で藻類の光合成効率が著しく低下することがわかった。次に、CAH1遺伝子を持つ個体に対して、細胞外に存在する炭酸脱水酵素の機能を阻害する薬剤を加えると、同様の結果が得られたという。また、CAH1遺伝子をもたない個体に外部から炭酸脱水酵素を加えたところ、通常の個体と同レベルで二酸化炭素と親和したという。
以上の結果からグループは、CAH1はアルカリ性の環境下で重炭酸イオンから二酸化炭素を生成することで、細胞内への二酸化炭素の供給を促進する重要な役割を果たしていると結論づけた。
今回の研究成果は、水中植物の光合成機構のさらなる解明のほか▼藻類の光合成効率を向上させることで、バイオ燃料生産に貢献する技術開発▼濃縮機構の仕組みを陸上植物に応用して、作物の生産性を向上させる技術開発といった応用研究にもつながることが期待される。
研究成果は国際学術誌「Plant Physiology」のオンライン版に公開された。