〈映画評〉美麗な映像で紡ぐ、「自己受容」の物語 『きみの色』
2024.09.16
京都アニメーションで『けいおん!』『映画 聲の形』などを手がけてきた山田尚子の、6年ぶりの長編映画監督作品。そんな本作の魅力は、スクリーンいっぱいに広がる鮮やかな色彩にある。トツ子の目に映る「色」を纏った人々を始め、長崎の街並みや校庭の花々、キッチンの小物や本棚の古書に至るまで、画面に映る全てのものが彩り豊かに、また繊細に描かれている。環境光の巧みな使い分けも特徴だ。作中で度々登場する波止場のシーンでは、真昼のどこか黄味がかった色、夕暮れの赤みを帯びた色、ラストシーンの透き通るような青色など、場面によって射す光の色が変わる。「色」が主題の作品なだけあり、こだわり抜かれた美しい色合いの数々には終始目を奪われる。
声優陣の演技も素晴らしい。鈴川紗由、髙石あかり、木戸大聖ら主要キャスト3名はいずれも声優初挑戦だが、その演技に決して拙さは感じられない。むしろ各々の声に宿る初々しさが、登場人物たちの等身大な一面を形作っている。トツ子を導くシスター・日吉子役の、新垣結衣の演技もまた秀逸だ。シスターとしての厳しさ、凛々しさの中にふと、トツ子たちを思いやる優しさが垣間見える。声優経験の浅い、良い意味で「慣れていない」声優陣の声が、物語全体に漂う爽やかさを引き立てる。
演出や演技の巧さが際立つ本作だが、作中で「敵」が登場しないのもまた大きな特徴である。日吉子や3人の家族を始め、サブキャラクターたちは常にトツ子たちの意思を尊重し、彼らに寄り添い続ける。3人の間に不和が生じるような展開もない。悪意や敵意といった負の感情が、本作には存在しないのだ。外部要因の障害がほぼ現れず、それぞれの「好きなもの」や「あるべき姿」を巡る内面的な葛藤が一貫して描かれる点で、ストーリーがやや起伏に欠けるのは否めない。
だが、結末には確かな感動が伴う。何度も引用される祈りの言葉「ニーバーの祈り」に沿うように、「変えられないことを受け入れる心の平穏」、そして「変えるべきことを変える勇気」を得ようと、3人は各々の好みや悩み、そして葛藤し続ける自分自身を受け入れ、新たな一歩を踏み出してゆく。若者たちの「自己受容」を描いた本作には、他者や自分を受け入れる優しさと、「好き」という気持ちを肯定する力強さが同居する。鑑賞後、どこか穏やかで前向きな気持ちになれる一作だ。(晴)
◆映画情報
監督 山田尚子
脚本 吉田玲子
制作 サイエンスSARU
配給 東宝
公開 2024年8月30日
上映時間 101分
監督 山田尚子
脚本 吉田玲子
制作 サイエンスSARU
配給 東宝
公開 2024年8月30日
上映時間 101分