〈映画評〉実写化という「新解釈」の成功例 実写版『秒速5センチメートル』
2025.12.01
社会人時代の遠野貴樹と篠原明里 ©2025「秒速 5センチメートル」製作委員会
原作の良さの1つは映像美にあるだろう。実写版では、デジタルデータをフィルムに焼き付けるフィルムレコーディングという手法を使って、映像全体をぼんやりとさせることで、原作の映像美がもたらしていたどことない儚さを表現できている。写真家出身である奥山監督ならではの表現であり、まずここに原作へのリスペクトを感じた。
秒速5センチメートル。桜の花びらの舞い落ちる速度をタイトルとする原作は、時間と距離による心のすれ違いを描いている。小学校卒業とともに離れ離れになった貴樹と明里は中学生になったある雪の日に再会を果たすが、お互いの気持ちを言葉にできなかった。その後、時間の経過と物理的な距離によって2人の心の距離はすれ違っていく。まぶしすぎるくらい美しく描かれたアニメーションと、詩を読むかのような貴樹による独白によって、明里を想い続ける貴樹と貴樹から自立していく明里が対照的に描き出されている。もちろん、ここまでの説明も評者の解釈に過ぎないが、構成の大幅な変更と独自の設定によって、実写版は新たな解釈を提供している。初恋への執着を描いた青春恋愛映画が、他者との出会いと別れをテーマにした、より普遍的な映画へと変化している。
原作は短編3作から構成され、小中学生、高校生、社会人のそれぞれの時代に関して、主に貴樹の視点で描かれている。実写版では時系列が入り組んでおり、社会人の貴樹が過去を振り返るという形式をとっている。元上司や仕事先であるプラネタリウムの館長など原作にはいない登場人物が追加され、社会人としての貴樹の心情や人間関係が深く描かれている。この大幅な変更によって、より普遍的で前向きな人間関係にまつわる心情を扱うことができている。例えば、仕事に関係ない雑談を嫌っていた貴樹が館長に自分の思い出を打ち明けたことや、社会人時代の恋人でありながら、そっけなく接してきた水野に言葉にできなかった思いを伝えたことは、貴樹が初恋への執着を自分なりに消化していくだけでなく、閉ざしていた他人に対する心の扉を開いていくことを意味しているとも考えられる。生身の人間が演じ、表情や動きで心情を伝える実写版だからこそ表現できた人間ドラマだろう。
ただ、その新解釈は、原作が持っていた「叶うことのない初恋」という恋愛要素を薄めたという面もあり、原作ファンからは不満もあるだろう。しかし、そんな原作ファンが全く楽しめないというわけではない。本作は原作へのリスペクトのある拡張としての新解釈であり、各々の原作の解釈との違いを楽しむことができるだろう。(法)
◆映画情報
原作 新海誠 劇場アニメーション『秒速 5センチメートル』
監督 奥山由之
脚本 鈴木史子
配給 東宝
上映時間 121分
2025年10月10日より公開中
原作 新海誠 劇場アニメーション『秒速 5センチメートル』
監督 奥山由之
脚本 鈴木史子
配給 東宝
上映時間 121分
2025年10月10日より公開中
