文化

〈映画評〉クリエイターの生き様 情感豊かに描く アニメ映画『ルックバック』

2024.08.01

アニメ映画『ルックバック』が6月28日、全国で封切りされた。『チェンソーマン』で知られる藤本タツキの中編マンガを原作とする本作は、原作マンガがマンガ配信プラットフォーム『少年ジャンプ+』で配信開始されたときと同じく、観客に眠る経験を呼び起こすような衝撃を観客に与え続けている。

物語は田舎の小学校を舞台に始まる。主人公で小学4年生の藤野は絵が上手いと自負し、毎週学年新聞に4コママンガを連載していた。ある日、同級生で不登校児の京本が描いた4コマが自作の隣に掲載される。その圧倒的な画力に敗北感を覚えた藤野は絵の特訓を始めるが、京本にはどうしても届かず、いったんは他の子のように「普通」に遊ぼうと筆を折った。しかし卒業式の日、教師の依頼で京本の家を訪ねた藤野は、自身を「藤野先生」と呼びマンガの天才と慕う京本の姿を目の当たりにし、再度筆を執ることを決意。二人は協力して創作に取り組んでいく。

本作の監督は『電脳コイル』などで知られる実力派アニメーターの押山清高が務める。押山らの手により、藤本の独特なキャラクターデザインやコマ割が見事にアニメーションへと落とし込まれていた。まさに「原作どおり」の画面は、緻密に計算された劇伴とあわさり、物語に描かれる感傷や切なさをやや過剰なほどまでに演出している。

京本役の吉田美月喜の演技にも注目すべきだ。吉田はTVドラマでの主演経験が豊富な若手俳優だが、声優としての仕事は本作が初めてになる。しかし、京本の演技は経験の少なさを全く感じさせない。東北方言のニュアンスが、よりいっそう京本というキャラクターの巧さを引き立てる。演者のみならず、音響監督の木村絵理子の貢献も大きいだろうと思われる。

その一方で原作からの課題は解消されていない。本作にはクリエイターにまつわる実在の事件をオマージュした展開が含まれる。ステレオタイプ気味な加害者像も気になる。本作を純粋な感動ストーリーとして消費してよいのかは、観客の倫理に委ねられている。(涼)

◆映画情報
原作 藤本タツキ
監督・脚本 押山清高 
制作 スタジオドリアン
公開 2024年6月28日

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